閑話:猫は可愛い
なんとなく書きたくなっちゃったので。
「――にゃ、にゃあ! ね、猫のレフィだにゃん、いっぱいいっぱい可愛がってほしいにゃん!」
身体をプルプルと振るわせ、恥ずかしさから顔を真っ赤にしつつも、猫らしいポーズを取るレフィ。
その頭には、ネコミミカチューシャが装着されている。
それを見て俺は、存分に彼女の羞恥心を煽るため、これみよがしにニタニタと笑う。
「うーん、いいんじゃないか? いやぁ、嫁さんの可愛らしい姿が見られて、旦那としては嬉しい限りですよ。やはりネコミミはいいものですねぇ」
「よ、喜んでもらえたのなら、何よりにゃん! 儂は、ユキだけの猫なのにゃん!」
「フッ、クク……いやぁ、そうですか。俺だけの猫ですか。とても嬉しいなぁ」
「お主、後で必ずしばくから覚えておれよ」
「口調は?」
「にゃんにゃん! この恨み、必ず晴らすにゃん!」
「フハハハ、バカめ! お前は俺には勝てん、こうして何度でも猫の真似をさせてやろう!」
「リューに、ユキは犬より猫派じゃと言い付けるにゃん! そして、存分に悲しそうな目で見られると良いにゃん!」
「いや、それはやめてくれ。……やめてくれ」
それからしばらくの間、レフィを弄り倒して楽しんだ後、彼女はパシンと床にネコミミカチューシャを叩き付ける。
「フン……もう、こんなもんで良いじゃろう! それより、もう一度勝負せい、勝負! 決して、これで終わらせはせぬぞ、ユキ!」
「何だ、実はネコミミを気に入ったのか? しょうがねぇなぁ、お前の旦那として、その特殊性癖に付き合ってやるとしよう」
「特殊性癖なのはお主じゃろうが! ぐ、ぐぬぬ、調子に乗りおって……!」
――本日行っていた勝負は、ガイスターという、前世で結構有名だったボードゲームだ。
シンプルなルールながら、かなり深い心理戦が楽しめるゲームで、まあつまり、わかりやすい性格をしているレフィが不得意とするゲームである。
最近はレフィも、どんどんゲームが上手くなってはいるが……それでもやはり、こういう系統ので負ける気はしないな。
フフフ、次はどんな格好をさせて、恥ずかしがらせてやろうか!
* * *
「……な、何?」
「ふーっ……儂の勝ちじゃ!」
どれだけ本気でやったのかわからないが、詰めていたらしい息を大きく吐き出すレフィ。
くっ……し、しまった、コイツの本気度を見抜けず、油断したか……っ!
「さあ、お主には儂の言うことを聞いてもらおう! ――ほれ、猫耳じゃ!」
「えっ」
「つい先程儂に同じことをやらせたんじゃ。出来ない、などと抜かしはせんな? うん?」
ニヤリと、笑みを浮かべる我が嫁さん。
「い、いや待て、何かしら無茶ぶりしてくるだろうというのは覚悟してたが……よりにもよって、それなのか!? お前がやったら可愛いの範疇で済むかもしれんが、俺の場合は大火傷だぞ!?」
誰得なんだ、いったい!
「いやいや、もしかしたら、お主も可愛いの範疇に収まるかもしれぬぞ? 意外と似合うかもしれん。ほれ、ぐだぐだ言うておらんで、さっさとやらぬか。敗者は勝者に絶対服従。それが儂らの掟であったはずじゃ」
「くっ……! え、ええい、いいだろう! 魔王の生き様、お前に見せてやろう!」
俺は、レフィから受け取ったネコミミを頭に装着すると、一つ深呼吸して精神を落ち着ける。
そして――くるっと回って、ポーズを決めた。
「にゃあ! 魔王猫ユキだぜにゃ! いっぱい可愛がってくれると嬉しいんだぜにゃあ!」
少しの間。
それからレフィは、一つコクリと頷き、言った。
「気持ち悪い」
「わかってたよ!」
俺は、パシンとネコミミを床に叩き付けた。
ちなみに途中、イルーナが俺達の横を通り過ぎたが、「あぁ、いつも通りだね」って感じの顔で、特に何も言わずそのまま横を通り過ぎて行った。
完全スルーは……むしろ心に来るものがあるので、やめてほしいなぁって……。