閑話:ハロウィーン・ナイト・アトラクション
遅くなってすまぬ……。
ハロウィンが近いので、ハロウィン回。
決して、続きが書き終わってないとか、そんな事実はないです。ないです。
――ある日のこと。
「クックックッ……クーックックッ……クハーッハッハッ!!」
俺の高笑いと同時、横でレイス娘達が同じように高笑いするような動作をする。
レフィに見られたら「教育に悪いからやめんか」と言われそうだが、今ここにはいないので問題ない。
アイツ最近、そういう面を結構気にするようになってきてるからなぁ。良いことだ。
「とうとう、とうとう完成したぞ、『ハロウィーン・ナイト・アトラクション』! レイス娘達よ、コイツで我が家の住人達を、未知なる恐怖の世界に連れて行ってやるとしよう!」
――今日は、前世におけるハロウィンの日だ。
この世界にハロウィンは存在しないが、それでは寂しいので、クリスマスと同じように我が家では開催することにしているのである。
言わば、レイス娘達が主役の日だからな。この日を祝わないなどあり得ん。
今日この日のために、俺と彼女らで準備したのは、移動型お化け屋敷『ハロウィーン・ナイト・アトラクション』。
幽霊が題材であり、多少の恐怖がありながら、しかし同時に愉快で楽しく、ワクワクする冒険を味わえる移動式アトラクションである。
……うん、まあ、ぶっちゃけるとディズニーラ〇ドの『ホー〇テッドマンション』だ。
魔王城一階を大胆に作り替え、俺が覚えている限りのディ〇ニーっぽい演出やギミックを組み込み、そこを用意した多人数用移動車両で回る形だ。
前から幼女達に遊園地を体験させてあげたいと思っており、良い機会だから頑張って作ってみたのだ。
協力は、レイス娘達だけではなく、幽霊船ダンジョンの方から連れて来たスケルトンどももいる。
俺があのダンジョンを支配したことで、そのまま配下となったヤツらだ。
俺はアンデッドが好きじゃないし、彼らの扱いに関してもちょっと悩んだのだが……このスケルトンどもはウチのレイス娘達と同じように、恐らく前世が存在していない。
ダンジョンによって、初めからそのように作り出されている訳なので、別に死者を無理やり操っているという訳でもなく、故に「うーん……まあいいか」とそのままあっちのモンスターとして頑張ってもらっているのである。
ゾンビどもも俺の配下に入っているので、数体だけは演者として連れて来ている。数体だけ。
ヤツら、見た目がグロいから、あんまり連れて来るとアレだし……。
「よし、最終確認だ。俺は車両を操作して、ツアーガイドに専念する。三人は事前に決めた位置にて待機、俺の案内の声が聞こえた時点で行動開始だ。いいか、こういうものに雰囲気は大切なんだ。今回お前達は、愉快ないたずら好きお化けで、みんなを楽しませることが大好きという役……いや、いつもとあんまり変わらんな、それ」
この子ら、毎日そんな感じだし。
おかげで退屈しないし。
「ま、まあ、とにかく、いっぱい楽しく! 愉快に! 自分達でそう思えれば、見ている側も楽しんでくれるってもんだ」
俺の言葉に、レイはコクコクと気合いっぱいの様子で頷き、ルイはむんと両手で拳を作り、ローは拳を上に掲げる。
「――では、我々のハロウィーンを開始する!」
* * *
城の外は、夜。
ダンジョン内の気候を弄ったことで辺りには霧が立ち込め、不気味な雰囲気が漂うその中に、俺達はいた。
「――ようこそおいでくださった。私はパンプキンヘッド。皆様を愉快で恐ろしく、そしてワクワクの冒険の旅へと誘う案内人でございまぁす! ヒーッヒッヒ!」
「おに――パンプキンヘッドさんだー!」
「わぁ、かっこいイ!」
「……ん、よく似合ってる」
俺、パンプキンヘッドの眼前にいるのは、幼き怪異達――むろん、我が家の幼女達である。
イルーナが、狼娘。
シィが、魔女。
エンがキョンシーだ。
全員最強に可愛いのだが、こう……エンのキョンシーの完成具合が半端ないな。
「あはは、顔が見えてないのに、確かにとても似合ってるっす。それに、その乗り物からして、今までにない完成度っすね。ウチも、結構ワクワクしてきたっす……!」
「うっ……ぼ、僕も乗らなきゃダメかな?」
「お主のそれは筋金入りじゃのー……ま、今回は儂らも共におるから、そこまで怯えんでも良いじゃろう。あのカボチャ頭の阿呆曰く、今日のこれは驚かす系のものではないそうじゃし」
「これに乗るのですかー? 本当に、今回は凝っていますねー」
続いて現れた大人組が、用意した七人乗り移動用車両――パンプキン号を前に、それぞれ感想を溢す。
パンプキン号の見た目は、屋根のない馬車だ。動力は、俺。
以前レフィと空島に行った際、ゲットした『飛行石モドキ』を使うことで浮遊させることが可能であり、それでアトラクションっぽい機動を再現する予定だ。
まあ、今回のモデルは『ホーンテッド〇ンション』なので、激しい動きはほとんどないんだがな。
ちなみに、大人組もまた仮装をしている。
レフィがフランケンシュタイン。
リューがドラキュラ。
ネルとレイラが魔女である。
レフィのフランケンシュタインは、ぶっちゃけネタとして出したのだが、意外と似合っていて弄れなかったということがあったりなかったり。
俺の案内に従い、彼女らは全員パンプキン号に乗り込み、それに合わせてパンプキン号を浮かせ――そして、音楽が流れ出す。
「何だか不気味な感じだね!」
「おどろおどろしいネ!」
「……ん、すごい」
「おやおや、これは我が屋敷に住まうお化け達が、皆様のことを歓迎しているようですなぁ。是非皆様に楽しんでいただきたいようですぞ」
これは、スケルトン楽団による演奏を、今回のコース中に幾つも用意したスピーカーで流しているのだ。
一定のフレーズのみを演奏するスケルトン達を、ローが指揮して操り、音楽として成り立たせているのである。
後でそのエリアまで到達するので、彼女達には楽しみにしていてもらおう。
「……それにしても、おにーさん、本当にこういうのをやらせると上手いね」
「ご主人、幼女組をよろこばせるためなら、本当に何でもするっすからねぇ。ウチらも、本気で楽しむっすよ!」
「ありがとうございます、お二人方。では、レフィ――フランケンシュタインのお方。出発の合図をどうぞ」
「えっ……ゆ、行くぞ、お主ら! 未知なる恐怖とわくわくの体験が、儂らを待っている!」
「「おー!」」
「……おー」
「八十点。未知なる恐怖という、今回のコンセプトをよくわかっている点で高評価。お前もやるようになったな……」
「……うるさい、カボチャ頭。さっさと進めんか」
嫁さん、じゃないフランケンシュタインさんの言うことも尤もなので、俺はサンタのトナカイ気分で浮かんだパンプキン号を引っ張り始めた。
――そうして俺達は、順路をゆっくりと進んでいく。
肩を組み、ユーモラスな踊りをしたり、決闘をしたり、それを観戦していたりする甲冑達。勿論中身は存在しない。
フワフワと浮いて、スケルトン楽団による音楽に合わせて一人でに動き回る家具達。
今にも中から飛び出しそうな、というか実際骨の腕が飛び出していたりする幾つもの棺桶。
重要なのは、音楽に合わせた動きをさせることだろう。
それが、恐怖とコミカルさを同時に感じさせるのだ。
様々なエリアを通る度に、ウチの面々は驚きや歓声をあげ、良い反応をしてくれて案内人としても実に満足である。
やがて、最後に訪れたのは――舞踏会エリア。
レイの念力によって浮かんだスケルトン楽団が、宙に浮きながら演奏を行っており、そしてルイが生み出した多種多様なお化けの幻影が躍り回っている。
ここが、レイス娘達で最も力の入れたエリアだ。
華やかで恐ろしく、そして最も楽しんでもらえるように、動きを何度も何度も一緒に練習したものだ。
幼女組のみならず、大人組もまた見入っている中、俺はパンプキン号を引いて舞踏会の中をゆっくりと一周し、そして最後に出口から出て行った。
これで、ハロウィーン・ナイト・アトラクションは終了だ。
「皆様。ハロウィーン・ナイト・アトラクションにご参加いただき、ありがとうございます。お楽しみ、いただけましたかな?」
「すごかったー! レイスの子達、ホントにホントに、とってもすごかったよー!」
「さいこーだっタ!」
「……むぅ。差を付けられた。次は、エン達が楽しませたい」
幼女達の次に、大人組がそれぞれ感想を言い、舞踏会エリアの方からこちらへとやって来ていたレイス娘達が、三人とも「むふーっ!」といった感じで胸を張っている。可愛い。
彼女らが口々にレイス娘達を褒める中で、俺もまた満足感を感じながら、カボチャの頭を取っていつもの声音で口を開いた。
「さ、お前ら、次は晩飯だ! 飯の準備するぞー」
「おにいちゃん、バーベキュー!?」
「おにくやく!?」
「……お野菜焼く?」
「正解、バーベキューだ」
俺の言葉に、アトラクション中とはまた違った歓声をあげる幼女達。
バーベキュー、楽しいもんな。
自宅でそれが出来ることの、嬉しさよ。
「良いのう。レイラも何だか、美味そうなものを下ごしらえしておったし、楽しみじゃ。――よし、童女ども、まずは手を洗うぞ!」
「「はーい!」」
「……はーい」
「それじゃあ、僕はキッチンから道具と食材を持って来ようかな」
「私もそちらに行きますねー。ユキさん、場所は草原エリアのいつもの川辺ですかー?」
「おう、そこで食おうかな。こっちは俺が準備するから、そっちは頼むわ」
「あ、ならウチはご主人の方を手伝うっすよ!」
そうして皆で、バーベキューの準備を開始する。
今日もダンジョンは平和だ――。