合流
「――あ、おにいちゃんとレイラおねえちゃんだ! そっちの用事が終わったんだね!」
魔法大学を後にし、我が家の面々の元へと向かうと、俺達の姿に気付いたイルーナがトトト、とこちらに駆け寄ってくる。
「おかえりー! ……あれ? こういうとき、おかエりであってるのかな?」
「他に相応しい言葉もないから、それでいいと思う! おかえりー!」
「そうだね! おかえりー!」
「……? エミューは?」
「エミューは、残念だが学校があるからって行っちまったよ。俺達が来てから、ほぼずっと一緒にいたらしいから、流石に休めなくなったって」
「そっかー……残念。また一緒に遊べるかなー……?」
「大丈夫ですよー。あの子はあれでも賢いので、きっと本気で課題を終わらせて、すぐにこっちに合流したがると思いますよー」
「そっか! エミューちゃん、かしこいもんネ! たのしみー!」
「良かった、楽しみー!」
「……ん、楽しみ」
「ハハ、仲良くやってくれているようで何よりだ。んで、こっちは里の散歩中か?」
「うむ、お主らが来るまでは、観光客用の店などを見てのんびりレイラの里を――ん?」
と、その時、レフィが怪訝そうな表情を浮かべる。
「んー……?」
そのままこちらに近付き、ジロジロと間近から俺達を見る。
「な、何だよ、レフィ?」
「……ふむ。ま、お主らが結論を出したのならば、それで良い。どんな結果でも、儂らはそれを受け入れよう。じゃが、情報共有だけはしかと行うように!」
ニヤリと笑い、そんなことを言い放つ我が嫁さん。
……どうやら、もう、彼女にはお見通しのようだ。
「……まだ何も言ってないんだがなぁ」
「どれだけ共におると思っておる。お主らの顔を見れば、どういうやり取りがあったかくらいわかるわ。――故に、レイラ。聡いお主のことじゃ、今このたいみんぐで、とか、そもそも自分が、とか、そんなことを考えておるのじゃろう? それはお主の心のことじゃから、儂らが外からとやかく言うても納得せんじゃろう。しかしの」
レフィはパシンと俺の胸を軽く叩き、それから精一杯腕を伸ばし、ポンポンとレイラの頭を撫でる。
「この阿呆は阿呆じゃが、それなりに甲斐性はある。たまには何も考えず、頭を空っぽにしてこちらに飛び込んでくるのも良かろう。ま、とにかく言いたいことは、あまり難しく考え過ぎるな。気楽に、お主の好きにせい」
「……はい。レフィ、ありがとうございますー」
感じ入った様子で、珍しく、本当に珍しく少しだけ声を震わせてそう言うレイラに、レフィは慈愛の籠った瞳で答える。
「カカ、気にするな。以前も言うたじゃろう、お主のことも儂はすでに身内じゃと思っておる。どうなろうが、今更何も変わらん」
レフィの言葉に続き、ネルとリューが口を開く。
「フフ、うん……そうだね。レイラにはいっつも、支えられてばっかりだけど、僕達も常々、レイラを支えてあげたいとは思ってるんだ」
「ウチも、レイラには色々教えてもらってばっかりっすからね……でも、絶対ウチも、レイラを支えられるくらい頼もしくなるっすから! 見ててほしいっす!」
「いえ……すでに二人には、支えてもらっていますよー。私の、本当に大切な友人ですからー」
きゃいきゃいと言葉を交わす彼女らの横で、俺はレフィへと声を掛ける。
「……レフィ」
「うむ」
「お前は最高の女だよ」
今まで、何度そう思ったことだろうか。
そして、これからも一生、コイツは良い女なのだ。
俺は、本当に、世界で最高の女と出会うことが出来た。
「カカ、惚れ直したか?」
「もう限界突破してるから、これ以上はねぇな」
真顔でそう言葉を返すと、彼女はちょっと照れたように俺をどつく。
「ま、真顔で言うな、阿呆! それじゃからお主は阿呆なんじゃ!」
と、ネルとリューがニヤニヤし始める。
「あー! レフィが照れ隠ししてるー! かわいいんだからー」
「全く、見てて妬けちゃうくらいラブラブなんすから。レイラも、目指すならあそこっすよ! 一緒に頑張るっす!」
「……フフ、そうですねー。頑張りましょうー」
「なになに、みんな、何のお話ー?」
「みんな、なんだかうれしそうだネ~」
「……ん。きっとレイラに良いことがあった話」
不思議そうな幼女達の次に、レイス娘達がぽけーっとした顔で首を捻っている。可愛い。
「うん、これからレイラと、もっといっぱい仲良くなろうって話をしてたんだよ。みんなも、いっぱいレイラと仲良くしてあげて」
ネルの言葉に、幼女達が元気よく反応する。
「え、勿論! よーし、じゃあ今日はいっぱい、レイラおねえちゃんに引っ付く!」
「ひっつきむしだー!」
「……歩きにくくても駄目。離さない」
レイス娘達含め、彼女らは一斉にレイラへと駆け寄り、抱き着く。
「……はい、じゃあ今日は一日、一緒にいましょうかー」
レイラは、困ったような、それでいて本当に楽しそうに、心の底から滲み出るような微笑みを浮かべた。
「な、レフィ」
「うむ?」
「この里……遊びに来て良かったな。なんつーか……お前のこともそうだが、色々嬉しいことが重なって、嬉しくて、楽しくてさ」
「うむ……一つ、前に進んだ感じはあるかの」
「また、数年後くらいにここ、遊びに来るか」
「皆での。その時は、儂らの子もおるじゃろうし」
照れながら、そう言うレフィ。
俺は、彼女の身体を片腕で掻き抱いた。