羊角の一族の里へ《2》
投稿遅くなってすまん!
「うわぁ……雲が下に見える!」
「あのくも、おいしそうだネ!」
「……ん。わたあめみたい」
「ユキ、わたあめ食いたい」
「お前、発言が幼女組よりもガキっぽいぞ……ほら、レフィ」
「あっ、おねえちゃんいいな~」
「勿論全員分あるぞー。ほら、並べー」
「「やったぁ!」」
「……やったぁ」
俺はアイテムボックスから取り出したわたあめを、順番に幼女達に渡す。
物が食べられないレイス娘達は、代わりに以前レイラと作製した魔力飴玉である。
「みんな、食べるのはいいけど、手が汚れちゃったら周りを触っちゃダメだよ? ここ、ウチじゃなくて借りてるお部屋だからね」
ネルの言葉に、彼女らは揃って返事をし、それぞれ嬉しそうに食べ始める。
手を汚さないように、ではなく手を汚すことを前提で注意している辺り、ネルもよくわかってるな。
――あの船長は、俺達用に二部屋用意してくれたのだが、ここはその内の片方の部屋だ。
流石に広さはないのだが、しかし内装はかなり綺麗に整えられており、ベッドなんかもフカフカで寝心地が良さそうだ。
多分、VIP室とかそういった感じの部屋なのだろう。
船長が言っていた通り、本当に旅客船仕様であるようだ。
「それで……そっちはどうだ?」
「回復魔法を掛けたら少しは良くなるのですがー……こればっかりは、ちょっとどうしようもないですねー」
俺の言葉に、苦笑交じりで答えるレイラ。
「う、うぅ……よくみんな、そんなケロッとしてられるっすね……」
そう口を開くのは、ベッドに横になり、レイラに介抱されているグロッキー状態のリュー。
どうも、揺れと響くエンジン音、振動でやられてしまったらしく、先程ダウンしてしまったのだ。
リューは獣人族である故、俺達よりも感覚器官がかなり鋭いので、こういうちょっと特殊な環境は辛いのだろう。
「リュー、お主、船に逆らおうとするからそうなるんじゃ。緊張して、抵抗しようと身体を強張らせると、そういうことになる。もっと流れに身を任せることじゃの」
「そ、そんなこと言われても……」
「りゅーおねえちゃん、シィ、かいふくまホーかけてあげるね!」
「ありがとう、シィちゃん……」
その本格的にダメそうな感じに、俺は一つ苦笑を溢し、彼女へと声を掛ける。
「しょうがない、リュー、隣の部屋で、一緒にちょっと休むか。ひと眠りすれば楽になると思うぞ」
「うぅ、大丈夫っすよ、ご主人……みんなと、楽しんでもらってて……」
「お前と一緒にいるのも悪くないからいいさ。レフィ、こっちは頼むな」
「うむ、わかった」
俺はリューの背中と膝裏に腕を入れると、いわゆるお姫様だっこの形で彼女を抱き上げる。
「……今、具合悪くなって良かったってちょっとだけ思っちゃったっす」
「はは、体調良くなったら、もっと楽しいぞ。レフィも言ってたが、酔いっていうのは、大体が緊張から来るものだ。ひと眠りして、リラックスしよう」
そのまま俺は、彼女と共に隣の部屋に入ると、二人一緒にベッドに横たわった。
* * *
ユキとリューが、部屋で休み始めた頃。
レフィは、他のダンジョンの住人達を連れ、見学許可をもらっていた飛行船の後部にある展望デッキへと向かっていた。
「あ! 軍人さんだ! けいれー!」
「けいれー!」
「……敬礼」
幼女達がピシッと揃って敬礼する様子を見て、たまたまた通りがかっただけの船乗りが、笑って同じように敬礼を返す。
ユキが、「軍人さん達と会った時は、敬礼して挨拶するといいぞ」なんて教えてから、ああして毎回敬礼しているのだ。
あんまり仕事の邪魔をしても、とは思うが、軍人達も見るからに頬の筋肉が緩んでいるので、「まあよいか」と注意はしていない。
彼らも彼らで、楽しんでいるらしい。
「そう言えば、まだ聞いてなかったんだけど、この船の人達をおにーさんと助けたの?」
「うむ、龍の里に向かう道すがらにの。魔物に襲われておったんで、助けたんじゃ。のう、エン」
「……ん。虫さんがお祭りしてて、それを主とおねえちゃんが、メってしてた」
「虫さんのお祭り? わたしも見てみたかったな~」
「め~!」
羊の真似をする、シィとレイス娘達。
「あはは、羊さんだ。――虫さんのお祭りかぁ。見てみたいような、見たくないような感じだね」
「あー……そうじゃのう。祭りという程、可愛いものじゃなかったのは確かじゃな。ユキが発狂する程ではなかったが、大分気色悪い目では見ておったの」
「おにーさん、虫、嫌いだもんねぇ……幽霊船ダンジョンを一緒に攻略した時とか、腕を蛆虫に集られて、悲鳴あげてたよ。まあ、あれは僕も気持ち悪いと思ったけど」
「……主、森に行った時も、黒い大きい虫さんを見て、悲鳴あげてた」
「相変わらず、弱点の多い男じゃのう――って、レイラ?」
「なるほどー、中はこういう……この知を結集させた構造、ヒトの手でここまでのものを造り上げるとは、大したものですー。この技術進歩は、もはや一つ革命を起こしたと言っても過言ではありませんねー」
「……ま、お主にとっても息抜きとなっておるなら、良いんじゃがな」
瞳を輝かせ、辺り一帯を隈なく観察しているレイラに、レフィは苦笑を溢す。
――そうして、邪魔にならないよう気を付けながら船内を進んでいき、数分後。
辿り着いた展望デッキは、かなり広く造られており、壁の全面、そして床の一部がガラス張りになっていた。
「おぉ~! すごいすごい! 下がよく見えるー!」
「きれぇ~!」
「……ん。壮大」
眼下に広がる雲海。
雲の切れ間からは、どこまでも続く緑の大地が覗き、陽光がすべてを淡く照らしている。
部屋の窓からも外は見えていたが、これだけ広々と見えるとやはり感動もひとしおであるようで、幼女達は歓声をあげて壁に走り寄り、窓に噛り付きになる。
「これが、翼持ちの種族が見ている世界ですかー……この光景は、確かに感慨深いものがありますねー」
「う、うわぁ……これはちょっと僕、怖いかも。落ちちゃいそうで……」
「仮にそうなっても、儂が引き上げてやる故、大丈夫じゃぞ」
「……出来ればその経験はしたくないね」
微妙に引けた腰で、おっかなびっくりの様子で外の景色を見るネルに、レフィはカカ、と笑った。




