羊角の一族の里へ《1》
感想、ありがとうありがとう。
「よーし、お前ら、この人達に挨拶しろー。俺らを魔界まで連れてってくれる人達だ」
「おじちゃん達、ありがとー!」
「ありがトー!」
「……感謝」
エンの言葉の後に、レイス娘達が感謝を示すべく、揃ってペコリと頭を下げる。
「うむ、どういたしまして、お嬢さん方。……あー、思っていた以上に、個性的なお嬢さん方だが……お前達、敬礼!」
船長の合図の後、後ろで整列していたエルレーン協商連合の軍人達が、一斉に敬礼する。
「うわぁ、かっこいい! おにいちゃん、軍人さんたち、かっこいいね!」
イルーナの無邪気な声に、頬が緩み、若干ニヤつく軍人諸君。
うむ、気持ちはわかるよ、君達。
ウチの子、可愛いだろ。
――ここは、俺が何度も行ったことのある、アーリシア王国の辺境の街『アルフィーロ』である。
正確には、街を囲む防壁の外の、広がった草原だ。
俺達がこの近辺に住んでいることを知り、わざわざこちらまで来てくれたのだ。
「船長、今日から数日、よろしく頼む。見ての通り子供らが多いんで、ちょっとうるさくしてしまうかもしれんが、そこは勘弁してくれ」
「フッ、無論構わんさ。ただ……先に一つ聞いておきたいのだが、その透明な子達は、魔物では? というか、レイスでは?」
「お、よくわかったな」
「あー……何と言うか……随分と可愛らしいレイスがいたものだ。そこの水色のお嬢さんも、あまりヒト種っぽくは見えんし……」
「ははは、可愛いだろ? ま、その子らが俺の身内なのは間違いないし、絶対に危害は加えないから、というか見た目通りの子供だから、そこは安心してくれていいぞ」
「……今更だが、ユキ殿が魔王であるということを、今深く理解したよ」
彼は一つ苦笑を溢すと、次にウチの大人組へと挨拶する。
「奥様方、私はエルレーン協商連合のゲナウス大佐であります。ユキ殿に我々は、命を救われました。その恩返しとするには些か無粋ではありますが、この道程においては皆様を心よりもてなさせていただきましょう。何かありましたら、何でも申し付けていただきたく」
「うむ、感謝する。しばしの間じゃが、世話になる。お主らの方も、何か異常を感じ取ったらすぐに言ってくれ。ユキから話は通っておるじゃろうが、道中の安全は儂らが確保しよう」
そう、代表してレフィが言葉を返した後、俺達は船長の案内で乗船を開始する。
「おぉ~、これが飛行船! 何だか、とってもワクワクするね!」
「すごいすごい! あるじのおしろみたい!」
「……ん。ワクワクがいっぱい」
テンションだだ上がりなのがよくわかる幼女達が、周囲を見渡して歓声をあげる。
いたずらっ子であるレイス娘達が、内部を飛び回りたくてウズウズしているのがわかるが、それはちょっと迷惑になる気もするので、我慢しててくれな。
この船に乗っている間は、人形に憑依したままでいてもらった方がいいかもしれん。
ただ、彼女らの気持ちも、よくわかる。
俺はすでに二度飛行船に乗ったことがある訳だが、それでも気分が高揚するのを抑えられない。
子供らにとっちゃ、割とマジで遊園地感覚なのではないだろうか。
「船長、この船、以前のと違って軍用船じゃないんだな?」
「うむ、どちらかと言うと、旅客船仕様になっている。魔界の王が目を付けたのは飛行船の輸送能力だったようで、軍用よりもこちらに惹かれたようでな。以前ユキ殿が乗ったものより速度は劣るが、その分輸送量と快適性が上がっているのだ」
以前に乗った彼らの飛行船は、かなり武骨な、見るからに軍用というのがわかる内装をしていたが、この船は配管をなるべく隠すように意識されているのがわかり、通路も心なしか広く、床にもカーペットが敷かれている。
明かりも多く設置されており、恐らく長旅でもストレスが溜まらないよう居住性に気を遣っているのだろう。
「はー……イルーナちゃん達じゃないけど、これは確かに、ワクワクするね」
「こんなおっきいのが飛ぶって、人間はすごいものを造るっすねぇ……」
「そうじゃの。やはり人間は、手先が器用じゃな」
「どんな原理で動かすのですかねー? 動力は魔力だと思いますが、しかしこの大きさのものを浮かすとなると、それだけではないでしょうしー……あの細長い球の部分が、船体を浮かすのでしょうかー?」
ウチの大人組もまた、物珍しい様子で飛行船内を見ながら会話を交わす。
若干一名、好奇心が刺激されて目が爛々と輝いている人がいるようだが、動力とか、多分思いっきり軍事機密だと思うので、無理に聞いて困らせないようにね。
ちなみに、我が家で唯一外で働いているネルもまた、日程を合わせることで、無事に今回の旅行に参加することが出来た。
ただ、彼女は今回の旅行に合わせて一つ仕事を任されているようで、魔界王のところに一度挨拶に行くことになっているそうだ。
ヤツは少し前まではローガルド帝国にいたが、現在は帰還し、魔界へと戻っているらしい。
あの国でのことが一段落した、ということなのだろう。
「ユキ殿、そろそろ船を動かそうと思うのだが、せっかくだから見学するか?」
「お! ぜひ頼む、ウチの子らに面白いところを見せてやってくれ」
「ハハ、わかった。では、こちらに付いて来てくれ」
そうして案内されたのは、飛行船の艦橋。
すでに数人の軍人が待機しており、俺達が入ってきたのを見て敬礼をした後、船長の「直れ!」という声にザッと揃って休めの姿勢になる。
見慣れない操舵室の内部を興味津々で見渡している俺達を見て、船長はニヤリと笑みを浮かべると、声を張り上げた。
「これより、発艦する! エンジン点火!」
彼の下す指示に、部下の彼らは慣れた様子でキビキビと動き、そしてグオングオンと船が唸り始めた後、一瞬身体が下に持って行かれる感覚。
窓の外を見ると、周囲の景色がどんどんと下がり、飛行船が上昇を開始していた。
以前乗った時より、騒音が小さいな。
内部に、遮音結界でも張っているのかもしれない。
『おぉ~!』
その様子に、思わずそんな声が漏れる我が家の面々。
「すごいね……おにーさんとレフィは、いつもこの景色を見てるんだね」
「カカ、ま、そうじゃな」
「……今更っすけど、ウチら、空を飛ぶんすね……こ、この船、落ちたりしないっすか?」
リューの言葉に、船長が笑って答える。
「ハハハ、確かに以前、落ちかけたことは一度ありますが、その時はユキ殿に救っていただきました。獣人族の奥方、彼がいれば仮に墜落したとしても大丈夫ですよ。――さて、それでは次は、皆様のお部屋に案内させていただきましょう」
客の反応が楽しいらしい彼に続き、俺達は艦橋を後にした。
サービス精神が旺盛な、茶目っ気のある船長のおかげで、楽しい船旅になりそうだ。
新作、『幻想を奏づ~元魔王、学園にて『イルジオン』に乗り、空にて無双する~』を投稿開始しました。
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