龍の姿
本日5巻発売しました。わーい!
特典SSとかも、店舗さんによっては書かせてもらってますねん。
「……ん?」
何とはなしに自身の称号を見ていたレフィが、声を漏らす。
「レフィ様、どうしたっすか?」
つい先程まで、「にょ、女体に興味を示さなかったご主人が、とうとう!」とか「……いいなぁ」とか「そ、その……や、やっぱり良かったっすか……!?」とか、色々と興奮していたリューが、そう問い掛けてくる。
ちなみに、ユキとネルはもういない。
リルに乗り、ネルを王都へと帰すために出て行った。
ユキの帰りは恐らく、明日の昼過ぎになるだろうか。
……ネルも、よくやるものである。
あれだけ忙しいと言っていたのに、結局根掘り葉掘り聞いてきて、かなりギリギリの時間までここに残っていた。
きっと今頃、リルの上で二人でイチャイチャしているのではないだろうか。
そして、リルに「他所でやってくださいよ……」という顔をされていることだろう。
「……リュー。草原えりあ――いや、少し森の方まで出てくる。そう遅くはならんとは思う」
「? レフィ様が一人で外に行くのは珍しいっすね。わかったっす、覚えておくっす」
不思議そうな顔を浮かべるリューを横目に、レフィは真・玉座の間の扉を回し、外へと出て行った。
* * *
――晴天が広がる、魔境の森。
通り過ぎる風が髪を揺らし、何かの魔物の鳴き声が聞こえ――そして、閉じていた瞼を開ける。
「……戻れん」
草原エリアに繋がる扉が設置された洞窟、そこから出てすぐのところで一人立っていた彼女は、そう呟いた。
――龍の姿に、戻れない。
身体の一部は、戻る。
例えばいつもと変わらず翼を背中に生やすことは出来るし、腕のみに集中して人化の術を解けば、サイズはヒト種相当のものだが、鱗のある、見覚えのある龍の腕となっている。
しかし、全身は別だ。
人化の術を解いて、以前の覇龍の姿に戻ろうとしても……戻れない。
何か反発するような手応えがあり、術を解こうとしても跳ね返ってくるのだ。
「……儂はもう、龍ではないのかもしれんな」
――『人化龍』。
それが、新たに増えていた称号だった。
人化龍:龍として生まれながら、ヒトへと至った者。己の本質を理解し、己の在り方を理解し、種の垣根を超えた存在。
恐らく、この称号もまた、『覇者の龍族』と同じく世界でこの身しか持っていないものだろう。
……もしかすると自分は、本来ならば仮の姿であったはずのこちらを、真の自分自身だと心の奥で思うようになっているのかもしれない。
自分は龍種ではなく、ヒト種の女なのだ、と。
これは、そういうことの表れなのではないだろうか。
「千年の生の中で、まだ二年足らずしか人の姿にはなっていないのにもかかわらず、か。クックッ、全く……儂がこんなにも、思い込みの激しい女じゃとはな。クックックッ……」
少し愉快な気分になり、笑い声を溢す。
変な感覚だが……このことを、嬉しく感じている自分がいる。
種族なぞ、あの旦那が全く気にしていないことはわかっているのだが、それでも皆と同じ、あの旦那と同じ種に近付けたということが、何だか嬉しかったのだ。
恐らくこのまま、ヒト種の姿でさらに数年も過ごせば、龍の時に自身がどんな姿をしていたかも、思い出せないのではないだろうか。
「……いや、じゃが、喜んでばかりもいられんか」
一つ、不安がある。
元の龍としての姿でないと、覇龍の力を百パーセント引き出すことが出来ないという点だ。
この身体でも、魔境の森の魔物どもを相手取ることは出来る。
ユキが西エリアと呼ぶ場所に棲息する、この近辺で最も強い魔物どもも、一対十くらいまでならば下すことが出来るだろう。
だが……それよりも強い生物というものが、この世界には存在する。
身近な例で言えば、我が家で可愛がられている、ペットのモフリル。
ウチにいる時は、自由過ぎるここの面々に振り回される、ただの苦労性のペットではあるが、『フェンリル』という種のポテンシャルは限りなく高い。
以前に戦ったことのある個体は、確かまだ三百年近くしか生きていないのにもかかわらず、覇龍となった自身と渡り合うだけの粘り強さを持っていた。
力で言えば圧倒的にこちらが上であったのにもかかわらず、あの時は三日三晩殺し合いをするハメになったものだ。
その時と同じくらいの強さを持ったフェンリルと、この身体で戦闘になった場合、果たしてどれくらい戦えるだろうか。
それ以外では、同種の龍族。
この身体で古龍の老骨を相手にしても、一対一ならばまだ何とかなるだろうが……一対二などになれば、少しキツい。
以前ここにやってきた、『災厄級』に分類される精霊王。
この身より遥かに長く生き、確かな能力と老練な技術を持つ奴には、今のままでは十中八九負けるだろう。
無論、そんな者達と戦闘になることなど、普通にここで暮らしていればそうそうないことはわかっている。
そうそう無いが――長く生きることになれば、一度や二度、そのような危機が訪れる可能性はあり得るのだ。
「……少し、この身体での力の出し方を、鍛錬するかの」
自身の旦那。
ここに住む家族。
そして――未来に産まれてくるかもしれない、自らの子のために。
千年生き、彼女は初めて強さを求めた。




