空島デート《2》
ようやく、本当にようやく累計ランキングに乗りました。
ついにここまで来たか……長かった。
読んでくださっている読者の皆様、いつもいつも、本当にありがとうございます。
おかげさまで、ずっと目標にしていた累計ランキング入りを果たすことが出来ました。
まあ、ここで胡坐を掻くと、即座にランキング外に出るので、全く油断出来ないんですけどね!
これからもどうぞ、末永くよろしくお願いします!
――相変わらず、子供のような男だ。
「レフィレフィ! 見ろ、すげぇぞ! 無限に滝が出続けてやがる! 島の半分くらい雲の上だから、雨も降ってねぇだろうに、どうなってんだこの滝!」
空島から、眼下の大地に向かって無限に流れ落ちる滝を見て、「うおお!」と歓声をあげるユキ。
「恐らく、島の内部に魔素を水に変換する、何かしらの物質があるのじゃろう。鉱石か、それとも土か。魔素が豊富な領域には、そういうものがよくある」
「へぇぇ、そうなのか! ――って、おぉ、レフィ! こっちには光りながら浮かんでる岩があるぞ! 飛行石か!? 飛行石なのか!?」
滝をワクワクした表情で眺めていたユキは、次に近くに浮かんでいた、下部が淡い赤色に光っている巨大な岩石に目を付け、色んな角度から吟味し始める。
その姿はまんま少年そのもので、挙動が我が家の童女達とほとんど変わりない。
一番似ているのは……やはり、イルーナか。
よくあのような様子で興味の対象が二転三転し、かと思えば脈絡もなく突然、何かに夢中になり始めるのだ。
例えば最近だと、イルーナは「将来はお花屋さんやりたい!」などと言っていたりする。
まあ、それだけならば可愛いものなのだが……レイラか、もしくはユキにでも聞いたのか、ニコニコしながら「このお花の学名はね、~なんだよ!」とか、「この土はね、ふよーどで柔らかくて、栄養いっぱいだから~」とか、無駄に知識が豊富になってきているのだ。
もう少し子供らしく、「綺麗な赤いお花」とか「いい匂いのするお花」とか言うのかと思ったら、そうではなくまさかの専門知識である。
土の状態がどうのなどと言われた時には、流石に苦笑いをしてしまった。
シィやエンなども、イルーナ程ではないが、大なり小なりそういう面があるのは間違いない。
果たして、あの童女達がユキに似たのか、それともユキが元々子供っぽいのか。
前者だとは思うが……いや、前者も後者も、両方ともか。
あの童女達と一緒にいる時は、それなりに保護者らしく見えるのだが、彼女らがいないとこれである。
――全く、この旦那は……。
もう少し大人になってほしいような、ずっとこのままでいてほしいような、そんな何とも言えない感情が胸の内に浮かび、思わずレフィは一人、小さく笑みを浮かべていた。
「うーむ、流石空島。魔境の森も面白いモンは多いが、こっちも中々、見慣れないものが多いな――って、レフィ、どうしたそんな顔して。昼飯の弁当の想像でもしてるのか? あれ、相当美味しそうだったもんな」
「違うわ、阿呆。それよりユキ、来るぞ」
「へ? ――うおぁ!?」
魔境の森では見慣れない形の木を、吞気にペタペタと触っていたユキは、レフィが指差した方向、滝のすぐ上に顔を向け――驚いてその場からズササと後ろに後退る。
現れたのは、巨大な、翼の生えた四足歩行の獣である。
リルと同じような狼を思わせる姿形をしているが、あの苦労性のペットとは違い、こちらの獣には二本の大きな牙があり、目が片側に二つずつで計四つ存在している。
強さから見て、ここらのヌシか。
機嫌が悪いらしく、その表情には憤怒が浮かび、「グルルル」とこちらを強く威嚇している。
覇龍の自分がいるのにもかかわらず、こうして警告に出向いて来た辺り……恐らく、相当深くまで縄張りに侵入してしまっているのだろう。
「ふむ、『ヴォルフニール』か。そこそこ強い魔物じゃな」
「き、気付かなかった。いつの間に」
「何かしらの魔法を使って、自身の姿を風景に溶け込ませておったようじゃな。儂らがあんまり縄張りの奥まで入って来るもんじゃから、慌てて姿を現したのじゃろうな。視線は感じておったから、何処かにはおるじゃろうと思っておったが」
「な、なるほど。今まで隠れてたから敵意もなく、索敵スキルに反応がなかったのか。……というか視線て」
そう言いながらユキは、自身の後ろにレフィを庇うように前に立ち、今回エンを連れて来ていないからか、虚空の裂け目から戦棍のような武器を取り出す。
この男は、口では「お前がいれば魔物も問題ないだろ」などとよく言うが、実際に敵が現れた時には、こうして前に出てこちらを守ろうとする。
微妙に気恥ずかしいが、しかしその感覚が、心地良い。
覇龍の自分を守ろうとする者など、世界広しと言えど、この男だけだろう。
このまま、身を任せてしまおうか、なんて気もするが……残念ながら、相手が少し強い。
今のユキの実力では、良い勝負をしてあの魔物を倒すことが出来ても、大怪我は確実だろう。
この男が決死の覚悟を決めている時ならばともかく、今はそんな時でもないので、パパっと倒してしまうべくレフィは片手を前に伸ばし、パーからグーへと、ギュッと拳を握り締めた。
「去ね」
「あっ」
その瞬間、狼の魔物の頭部がパチュンと爆ぜ、その身体がゆっくりと崩れ落ちて行き、そして地面に転がって動かなくなった。
「……レフィさん、今のは?」
「儂の魔力で、奴の頭部に高圧を掛けたんじゃ。そこそこ強い魔物じゃったから、少し多めに魔力を込めておいた」
「あー、ちなみにどれぐらい魔力を込めたのか聞いても?」
「お主の総魔力の四十倍くらいかの。外殻が固い相手にはあんまり効かんのじゃが、さっきの彼奴は見た目通り柔かったようじゃな」
「……お前のそのアホ程ある魔力は、もはやそれだけで最強の武器だな」
「ま、これぐらいはの。単純な魔力総量で言えば、多分儂はこの世界で頂点争いが出来るぞ。精霊王の爺には負けるが」
「相変わらずとんでもねぇな……」
呆れたようにそう言ってから、ユキはポツリと呟く。
「……まだまだ、お前には守られる側か」
聞こえたユキの言葉に、レフィはクスリと笑って、微笑みを浮かべる。
「カカ……安心せい。お主が儂を守ってくれる日まで、ずっと隣にいてやる。それまでは、儂がお主を守ってやろう」
――これから、何十年、何百年、何千年経とうとも。
この身が滅び、死するその時まで。
隣に立ち、支えて行く。
そう、固く胸に秘めた決意のことを思っていると、ポリポリと頬を掻いて口を開くユキ。
「……三百年くらいは待っててくれ」
「うむ、いいじゃろう。それぐらいは全然待ってやる。――さ、ユキ。探索は途中じゃ。まだまだ色々見るのじゃろう?」
「そうだな。んじゃあ、次は山の上の方まで飛んでみるか! どうなってるか見てみてぇ」
「ほう、いいの。楽しみじゃ」
そう言って二人は、背中に翼を出現させる。
「……あの、レフィさん。俺が翼を出した時に、毎回触りに来るの、どうにかなりませんか」
「気にするな」
「流石にそんな触られてたら、気にしないってのも無理があるんすけど」
「ほら、あれじゃ。儂がお主のことを待っていてやるための、手数料という奴じゃ」
このユキの翼は至高。
異論は認めない。
「……いや、別にいいんですけどね」
ユキは、苦笑を浮かべた。




