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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
日々とはかくも早く過ぎ去るもの
205/613

閑話:男は皆昔、ショタだった《1》

 長くなったので分割。



 ――それは、朝のことだった。


「な、な、な、な、な」


 壊れたレコーダーのように同じ言葉を繰り返しながら、固まる俺。


 その視界に映っているのは――俺の身体、である(・・・)はずのもの(・・・・・)


 だがしかし、首を曲げ、見下ろした先に見えるその身体は――小さい。


 細い腕に、細い手足に、細い胴体。

 そこに筋肉はほとんど付いておらず、プニプニという表現がしっくり来るような身体付き。

 

 寝間着はダボダボで、袖など半分以上余ってしまっており、自分がとんでもなくマヌケな恰好をしていることがわかる。




 ――俺の身体は何故か、小学校低学年程のサイズにまで、縮んでいた。




「何っじゃこりゃああああああ!?」


 身体の奥底から迸る絶叫。


 だが……その俺の声もまた、普段の俺の声より大分甲高い。


 何だこれは。


 どういうことだ。


 いったい、何が起きた。 


「…………フゥ」


 一度深く深呼吸し、俺は混乱する頭に冷静さを取り戻させていく。


 ――落ち着け、俺。状況を把握しろ。


 俺の意識がしっかりとあり、身体の感触も何らおかしなところがないことから、これは夢ではなく、実際の俺の身体であることは間違いなさそうだ。


 ……何の脈絡もなく、こんなことになるとは考え難い。 


 ならば、よく考えろ。

 身体は子供、頭脳は大人の名探偵フォームに俺の身体が変化した原因が、何かあるはずだ。


 思い当たる節は……思い当たる節は……。


 …………あるなぁ。


 俺は、引き攣った笑みを浮かべ、昨夜のことを思い出していた。



   *   *   *



「あん? 何だこれ」


 アイテムボックスから取り出したソレを、首を捻りながらしげしげと眺める。



 謎のポーション:効果の程がわからない、謎のポーション。謎めいた不思議な味がする。品質:S+。



 何だ、この怪し過ぎるポーション。


 少々気が向いて、アイテムボックスの整理をしていたら出て来たのだが……いつの間に手に入れたんだ、これ。全く記憶が無いぞ。


 捨てるのは……まあでも、何故かムダに品質が良いしなぁ。


 ちょっと勿体ない気がするのも確かだ。


「ご主人、何すか、その小瓶?」


「いや、わからん。ポーションみたいなんだが、アイテムボックスを整理してたら出て来た。……お前、ちょっと飲んでみる?」


「え、効果はわからないんすよね?」


「おう」


「……あの、ご主人。ウチに毒見をさせようとしないでほしいっす」


 ジト目を向けて来るリューに、俺は笑って「冗談だ」と肩を竦めた。


「ま、でも、どんなものなのかはちょっと気になるな。……よし、飲んでみるか」


「だ、大丈夫なんすか? そういうの、ヘンに使っちゃうと危ないと思うんすけど……」


「確かに怖いが、まあ、これがあれば大体は大丈夫だろ」


 そう言って俺は虚空の裂け目を開き、中から上級ポーションを取り出す。


「あぁ、例のメッチャ回復効果の高いポーションっすね」


「これでどうにもならん時は、レフィにどうにかしてもらおう。――という訳でレフィ、何かあったら頼むぜ」


「む? あぁ、うむ。心得た」


 ゴロゴロしていたレフィの協力を取り付けたところで、俺はその怪しいポーションをグイと呷り――。 



   *   *   *



「――思っくそ自業自得だった!!」


 そうだ、昨日の夜好奇心に負けて、変なポーションを飲んじまったんだ。


 あの時は何も起こらず、「何にもねぇのかよ」とリューと笑い合って終わったのだが……その効果は、一日経って発揮されるものだった訳だ。


 しかも、身体がガキになる効果なんて……謎効果にも程があんだろ。バカじゃねぇのか。


 ……いや、それはそんな怪しいポーションを飲んだ俺のことですね。


 (まさ)しくリューの言う通りだった訳だ。


「……むぅ……何じゃ、さっきから。煩いのぉ」


 と、一人頭を抱えて愕然としていると、隣の布団で眠っていたレフィが、くしくしと眼を擦りながら起き上がり――そして、目が合う。


 すると、まず彼女はあんぐりと口を開けて固まり、次に俺の頭部からつま先までをゆっくりと見渡し、十二分にこちらを観察し終わると――腹を抱えて、布団の上で転げ回り始めた。

 

「グフッ、お、お、お主、な、何じゃそれは。何でそんなちんちくりんになっておる?」


 恐らく、呆気に取られる→俺を分析スキルで確認する→俺だと理解する→爆笑と、こんなプロセスを辿ったのだろうということが、丸わかりな挙動だった。


「ち、ちんちくりん言うな! こっちは困ってんだぞ!」


「く、くく……儂より背が低くなりおって。これはこれで、可愛いもんじゃのう」


 そう言って俺の頭を撫で始めるレフィの腕を、パシンと払う。


「やめろ! ――って、あぁ!?何しやがる!?」


 レフィから逃げようとした俺だったが、それより先にヒョイと胴体の辺りを掴まれ、そのまま胡坐を掻いた彼女の膝上に乗せられる。


「このさいずじゃと、憎まれ口も愛嬌に思えるわ。お主、ずっとそのままの方が良いのではないか?」


 何故か知らないが、機嫌良さそうにギュッと俺の身体を抱き締め、再び頭を撫で始めるレフィ。


 クッ……逃れられん!


 今の俺は体格がレフィにすら劣っているため、全く抵抗することが出来ない。


「バカ言え、こんな身体は絶対嫌だ! つか撫でるのをやめろっつの!」


「これ、暴れるでない。危ないじゃろう」


「ぐああぁぁッ!?締まる締まるッ、おま、俺を締め殺すつもりかッ!?」


「ならば大人しくするが良い。ほれ、良い子良い子」


「そのガキをあやす口調をやめやがれッ!!」


 ――その俺とレフィの騒ぎは、他の住人達が起き出して来るまで続いた。



   *   *   *



「……おにーさん、なんだよね?」


「おにーさんは死んだのだ」


「え?」


「おにーさんは死んだのだ」


「……ねぇ、レフィ。君の膝上のおにーさん、どうなってるの?」


「うむ、可愛いもんじゃろう。お主も抱いてみるか?」


「え、あ、じゃあ……ちょっとだけ」


 レフィに抱き竦められていた俺の身体は、忌々しい程簡単にヒョイと持ち上げられ、次にネルの膝上へと移動する。


「あっ……これは、確かに可愛いかも」


 と、自身の膝上に乗せた俺の頭を、「よしよし」と言いながら撫でる勇者の少女。


 抵抗を諦めた俺は、為されるがままである。


「フフ、これならおにーさんじゃなくて、ユキ君って呼んじゃおうかな?」


「もう好きにしてくれ……」


「ありがと、ユキ君! それじゃあ聞くけど……ユキ君は、何でそんなことになっちゃったのかな?」


「……おい、ネルさんよ。今更もう何て呼んでもいいし、抱っこされるのも諦めたが、そのガキをあやすような口調はやめろ。イラっと来る」


「ああ! そんなこと言っちゃって~。でも、ちょっと口の悪いユキ君も可愛い!」


「じゃろう?」


「じゃろう、じゃねぇよ! お前ら、俺がこんな緊急事態に陥ってるっつーのに、呑気にしやがって……!」


「話を聞くに自業自得じゃしの。行き当たりばったりなお主には、ちょうど良い塩梅じゃと思うがな?」


 ぐっ……た、確かにそうかもしれんが。


「……つまり、昨日ご主人が飲んだポーションが原因で、身体がちっちゃくなっちゃったと?」


「それ以外心当たりがないしな。そのせいで身体は子供、頭脳は大人の名探偵になっちまったのは間違いない」


「探偵?」


「そういう探偵がいるんだ、世界には」


「へぇ……面白い人もいるもんすねぇ」


 そう言いながらリューは、まじまじと俺の顔を凝視し――そして突然、ぐに、と俺の頬を引っ張った。


「イテッ、な、何ひゅんだ!」

 

「いや、つい……それにしても、プニプニで気持ち良いほっぺたっすねぇ」


 こちらの抗議を全く聞き入れた様子もなく、両手で俺の頬をぐにぐにと弄び始めるリュー。


「え? ホント? ……うわぁ、ホントにプニプニほっぺだぁ。可愛い」


「む、どれ……ふむ、確かにこれは良い感触じゃの」


「ちょ、お、おまひぇら、くっ……放せ!!」


 しばしもみくちゃにされてから俺は、ぐわああ! と彼女らの手を振り解いて少し距離を取り、そして振り返って仁王立ちをする。


「お前ら! いい加減にしろ、いくら物珍しいからと言って――」


 ――が、精一杯威厳を保たせようとしながら話しているその途中で、トントンと後ろから肩を叩かれる。


 振り返ると、そこにいたのは、我が家の金髪幼女。


「イルーナ、悪いが今は忙し――」


「ユっ君!」


 そう、俺を謎の呼び方で呼んで、彼女は。


 後ろから、ひっしと俺の身体に抱き付いた。


「……え、あの、イルーナさん」


「ね、ユっ君、おねえちゃんって呼んで!」


「……いや、えっと――」


「お願い! イルーナおねえちゃんって!」


「…………イルーナお姉ちゃん」


「きゃーっ! おねえちゃんだよ、ユッ君!」


 感激した様子で、さっきより力を込めて抱き付いて来るイルーナに、俺は思わずぐったりと脱力していた。



 ――話が全然進まねぇ!



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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] ー話が全然進まねぇ!←それを書いたのは作者さんだw
[一言] 姉を名乗る不審者…
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