匂いの出処
「注文して、届けて貰えば良いのでは?」
「どれにしようか悩むワクワク感が、買い物の楽しみじゃないの」
「左様ですか、分かりましたお供します」
ついでにアクセサリーショップや、ケーキ屋さんにも寄りたいのだ。
ゲームでも放課後デートの定番場所だ。
おかわりをしようと、ティーポットをチラリと見ると、すかさずルシアが注ぎ足してくれた。
その時鼻をかすめる柑橘系の匂いに気がついた。
「さっきは、朝練終わって着替える途中だった?」
「またその話を蒸し返しますか、 そうですよ、稽古をつけてもらってました」
この世界、上下水道は完備だが、従者達は共同のシャワーがあるだけで、好きな時に使えるわけではない。
私は自室にバスがついているから、好きな時にルシアも使っていいとは言ったが、当たり前だが断られた。
今日も稽古後に部屋で身体を拭いて、着替えたのだろう。
この世界がゲームっぽいなと思うのは、汗が臭くないのだ。
欧米人のような強い体臭もない。
人それぞれ、お花や果物の匂いがするのだ。 パン屋のおじさんも、いかつい門兵も。
多分にもれず、、私も。
汗をなめたらしょっぱいかったので、全く意味がわからない。
脱水症の仕組みと対処法教えたら、一儲けできると、ナディア姉様喜んでたっけ。
汗が臭くないから、嫌悪感が少なく、組み合わせでより魅力的に見せようと、香水やシャンプー、柔軟剤なんかの香りに関するものはだいぶ発展している。
それが日常だと、慣れてしまえるのだから、人の適応能力って素晴らしい。
スンスン。抱きつけば、より一層柑橘系の匂いがする。昔は私より低かった背も、今では追い越されて、私の額が、ルシアの肩にやっと届くくらいだ。
「気になるなら、すぐに着替えてきますが」
「んーん、このままがいい 姉様のところでこれに似た香水探そうかなぁ」
「、、エマ、あんまりそういうこと言わないで」
あ、やってしまった。
私は服装や場所に合わせて香りを使い分けるけど、この世界で相手の匂いを身体にまとうのは、恋仲の意味だ。
マーキングのようで、原始的だなぁと感じなくもない。
「あ、あんまりというかまったくそういう意味を込めて言ったわけじゃなくてっ!」
「分かってる、エマのことだから 僕の匂いが嫌いじゃないなら、それでいい」
ますます変な主人認識高まっていく、、
「ナディア様のところに行くなら、馬車の手配をしてくるから、その間に支度整えてくださいね」
そういって、ルシアは部屋から出て行った。
変人認識が高まったのは悲しいが、出かけるのは単純に楽しみだ。
「よし、出かけよう」




