従者の仕返し
ナディア姉様のお店に着くと、すぐにマクラーレン家への小包を手配した。
咳止めと、リラックス効果のあるポプリの詰め合わせだ。
こういうお礼は早い方がいい。
ルシアが並んで買ってくれたポップコーンは、ナディア姉様とキースへの手土産に変わってしまった。
姉様が喜んでくれたからよしとする。
姉様に今日のお礼を告げ、馬車に乗り込んだ。
帰りの馬車の中は、紅茶や香水の香りで満たされていたが、不思議と嫌な感じはしない。 むしろ混乱した頭を鎮めるのにちょうどいい。
夕食までは余裕があるため、行きよりも速度を落として走ってもらうことにした。
「あのね、ルシア」
「何?エマ」
私の気持ちを察したのか、すんなりエミリーお嬢様からエマに呼び方が切り替わっている。
「...急に走って行ったり、ポップコーン買ってこいって言ったりしたの、怒ってない?」
「怒ることじゃないよ」
「なんでそんなことしたのって聞かないの?」
「聞いて欲しいの?」
見透かされてる。 これではケンカにすらならない。
ゲームの中のような力で従えさせる、主従関係は私たちの間には存在しない。
私の子供っぽい所有欲を分かった上で、ルシアが甘えさせてくれる関係になってしまった。
いつの間にかルシアの方が、ずっと大人になってた。
平然と帽子を渡された時、それを見せつけられたようで、恥ずかしくなって走り出してしまった。
ゆっくりとルシアが話し始める。肩が触れそうで触れない、この距離がもどかしい。
「エマ、僕は従者だから主人の嫌がることはしないし、今までもこれからもこの関係は崩さないよ」
「...うん」
私に逃げ道をくれるんだね。
「でもたまには、ご褒美ちょうだい?」
「甘いものとか?ごめんね、ジェラートはまた今度ね」
「ジェラートより甘いものもらったよ」
「何かあげたっけ?」
カフスボタンは、食べ物じゃないし。
「行きの馬車の中で、キスした」
「はい?」
「リップ取れかかってたのは、僕のせい ごめんね?」
ちっとも悪びれる様子もなく小首を傾げて笑う仕草は、あざと可愛くてずるかった。
今日は、とんでも無いことばかり起こる日だ。
乙女ゲームのヒロインは毎日こんなイベントだらけなわけで、、身も心も強く無いと無理だと思う。。




