第1話 姪っ子のデボラ。
アンジェリーヌが姉の娘、姪っ子のデボラを引き取ったとき、デボラは14歳になったばかりだった。
しばらく臥せっていたが、起き上れるようになったころ、両親の葬式が終わったことを伝えた。そうですか、と言ったきり…泣くでもなく、取り乱すでもなく…。
喪中の意味もあるのだろう、いつも黒いワンピースを着て、窓の外を見ている。
姉の生前中も何度か会ったことがあったが、落ち着いた色のドレスを着た年相応なおとなしい女の子、だった。
本や雑誌も買い与えたが、パラパラとめくっただけで、やはり窓の外を見ていた。
私が仕事に行くときは昼ご飯を用意していくが、デボラは食べたり食べなかったりだ。
一緒に摂る食事は、まるでそうしなければいけないと思っているような…完璧な食事マナーで無言で食べた。ただ、美味しそうに食べているように見えたことはない。
皿の洗い方を教えて、皿が洗えるようになった。簡単な掃除も。
…そんな状態で1年たった。
私は王城の侍女を務めているが、勤務も長くなったのでちょうど終の棲家と思って小さな一戸建てを買ったばかりだった。結婚もしなかったし、今後その予定もない。
別にデボラが外に出たくないというなら、このままこの家で暮らせばいいか…。経済的には問題はない。そうも思ったが…私の方がデボラより早く死んでしまうのは世の常だ。その後のことは?
アンジェリーヌは無理のない範囲で、デボラを外に出す努力を始めた。
市場へのお買い物に始まって…
「デボラ、私の靴のかかとが減ってきてしまったので、直しに出しておいてほしいの」
なじみの靴屋への地図と間に合うだけのお金を渡す。
小遣いも毎月渡していたが、欲しいものもないようだ。
私が15歳の頃なんて…アンジェリーヌは一昔前を思い出す。
ドレスが欲しい。レースにリボン。キラキラのエナメルの靴も。宝石も髪飾りも、甘いお菓子も、素敵な恋人も!
「はい。分かりました、おば様」
「ついでにあなたの好みの靴も買っていらっしゃい」
「……はい。ありがとうございます。」
デボラは薄っすらと微笑む。
何の感情も伴っていそうにない、完璧な微笑みだ。
急には無理だろう。そうは思う。
ほんの少しずつ、この子の止まってしまった時間が動き出せばいい。
そう…アンジェリーヌは思う。何も気が付いてあげられなかった、その後悔と共に。




