第二十六話 「ハッピーエンド」
「ぐっ…………私の負け……か……」
唯一焼け残った男が膝から崩れ落ちる。
焼くのが俺のイメージなのなら、当然焼くものと焼かないものを分けることくらいできる。
つくづく便利な力だ。
「私の二年も、一切合切消し飛んだ。娘は、もう助からないだろう……いや、もう私よりも先に死んでいるかもしれないな。あの子には、もう一刻の猶予もなかった……やはり、非道に身を落とすべきではなかったのかもしれないな……つまるところ、私はただ逃げていただけなのだろうな。失う恐怖から逃げ、何か出来ないかと必死になったふりをして……楽な方へと逃げていた。こんなことが、成功するわけはなかった。ただ、二年の間必死に助けを求め続けて何も得られなかったらと思うと怖かった。本当にどうしようもないんじゃないか。この道しかほかにないのではないかと盲目になって、このざまだ。全く……馬鹿なことをした」
「……サリアさん。此処は後を任せてもいいですか」
「ええ、大丈夫。それよりも急いであげて。これであの子が助かって、初めてハッピーエンドなんだから!」
「ありがとう、ございます……っ!」
その言葉を受け止めて、駆けだす。
階段を駆け上がって地下から出ると、家から転がり出る。
「再構築!」
詠唱とともに足に触れ、脚をより高性能に創り直し疾走の最高速を底上げ。
障害物を乗り越え、時には塀を、屋根を乗り越えながら最短でギルドへの道を駆け抜ける。
「間に合え……っ!!」
最短の筈の疾走の時間が幾万倍にも感じられる。
ここから先は運だ。運命の悪戯に全てを賭ける以外にない。
もしかしたらもうあの子は亡くなっているかもしれない。そうなったらもう、どうしようもない。
お願いだ。
頼むから、間に合ってくれ。
折角つかめると思った奇跡の糸を、運命なんてくだらないもので途切れさせないでくれ──!!
扉を壊れんばかりの勢いで開け放つ。
中では、複数の人たちが不穏な表情を浮かべて一つの机の周りに集まっている。
僕はそこにそのままの勢いで突っ込み、人をかき分けて机を見ると、そこには青白い顔をした、しかし、まだ生きている。荒く呼吸をしているあの少女が横たえられていた。
「再構築──!!!」
少女の肩を掴んで、その言葉を口にする。
間に合った筈だ。この力が、あの神の代行とやらの云う通りに万能な力だというのなら!
この一手はすべてを救うものじゃなくちゃいけないんだ──!!!
「ぅ……」
少女の口から、小さなうめき声が漏れた。
青白い顔に、血の気が戻った。
呼吸が穏やかになり、すぅすぅと寝息を立てる。
「やっ…………た……?」
僕はへなへなと脱力し、崩れ落ちる。
彼女の肩に触れたその拳は、無意識に強く強く握りしめられていた。




