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第九話 「現在進行形」

「現在進行形?」


 その聞きなれない言葉に、というかあまり事件に対しては使われない言葉に、僕は思わず首を傾げた。

 そりゃあ、未解決の事件ならそれは現在進行形と言えるだろう。

 わざわざ特筆して言うべきことではない──いや。

 それが文字通りの意味だとすれば。

 ()まさに(・・・)犯行が(・・・)行われて(・・・・)いるとすれば(・・・・・・)


 ぞわり、と背筋が凍る。


「場所は高級住宅街で、犯人は不明。現時点で報告されている被害者は二十四名。何れも胸を貫かれ、心臓を抜き取られて死亡しています」

「二十四名!?」


 その被害者の数に、思わずユカリさんが悲鳴にも似た驚愕の声をあげた。僕は絶句し、オウム返しのそんな言葉すら喉元から出てこない。

 それを気に留める様子もなく、淡々とした調子で受付嬢が説明を続ける。


「ええ。しかも犯行場所に規則性がないことから未発見及び未報告の遺体も多くあると予想されます。最初の報告はほんの一刻前。驚異的なペースで殺人が行われています。今も数分ごとに死体の人数が更新されて……貴族の皆様方は頭を悩ませておられるようで」

「それは……確かにとんでもない事件だわ。でもこういった都市内の治安にかかわる事件は騎士の領分の筈でしょう。依頼されていればくちばしを突っ込んでも問題ないとはいえ、どうしてお鉢がこっちに回ってきているのかしら」

「仕方がないんですよ……何せ、今この都市に駐在している騎士団で最強の《黒曜騎士団》が既に奔走し、騎士四人の死体が同じ場所で見つかったばかりなんですから……」


 サリアさんの当然の疑問に、受付嬢が悲しそうに眼を伏せて答える。

 その言葉に、最も驚いたのは僕だった。

 何を隠そう、僕もかつて《黒曜騎士団》に席を置いていたのだ。

 四年前、十四歳のときのたった一年間と比較的短い期間ではあったが、しのぎを削ったかつての仲間たちの強さは疑うべくもない。冒険者のクラスで言えば、一人一人が『銀』はゆうにあるだろう騎士であり、《黒曜騎士団》は王国全土でみても三番目に強い騎士団だった。それを四人も一度に殺してのけるとは、間違いなく犯人は恐ろしい実力者だ。


「王国最強の《日陽騎士団》は東部で蛮族たちと戦争中ですし、それに次ぐ《金剛騎士団》がこの都市に来るにはあと三日は必要です。だから、ここに黒曜の騎士を四人同時に倒して見せるような敵を倒せるのは、冒険者を置いてほかにはないんです」

「依頼を出したのは──父さんですか」


 僕のその言葉に、受付嬢がこくりと頷く。

 それは、半ば確信に近かった。無辜の民が殺され続ける中、騎士団で止められないとなれば冒険者に任せる──そういう判断を迅速に行い、かつ実行に移せるような人間は父以外にいないと思っていた。

 そして、その事実は僕をより一層力づけるには十分だった。


「クラス指定は『金』。今ここに滞在している人間で金以上は此処に居る三人以外はいません。『金』指定なので本当はふさわしくありませんが……サリアさんも受けていただけますか。なんだか、無性に嫌な予感がするんです」

「へぇ。『金』の依頼に『白金』を使おうなんてね。ギルドの思想に反するけれど」

「パーティメンバーがいないからとあなたほどの人材に長々ここに居座られている方が損失は大きいでしょう。規則は規定された理由が重んじられていれば破っていいんですよ」

「尤もね。じゃあお言葉に甘えて私も付き合うわ。さすがに『金』二人に『銅』一人のパーティなんて危なっかしいし」

「ええ。それにゆっちんは多少腕も鈍っているでしょうからね……引きこもり中、何回祈りました?」

「失敬な! 三日に一回は祈ったよ!」


 ぷんすこと怒り出すユカリさん。ちなみに、一般的な神官は一日に三度祈るのが普通だ。つまり普通の九分の一である。そして受付嬢はやっぱりなとでも言いたそうに苦笑いを浮かべた。


「捜査の方法は任せます。これ以上、被害が拡大しないように──それ以上に、間違っても命を落としたりしないようにお願いします」


 切実な表情で、受付嬢が頭を下げる。

 つい先日、付き合いの長い冒険者を一度に何人も失った心の傷は、未だに彼女をむしばんでいた。

 だから、僕は受付嬢の頭に軽く手を乗せて。


「任せてください。きっとみんなで、帰っていますから」


 そういって、にこりと笑いかけた。

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