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第1話:インソムニア領

少し長いです

「小僧!ルイン嬢!見えたぞ!アレが王都への入り口だ!!」


羊に亀の甲羅が付いた生き物に引かれる荷台の窓から顔を出し小高い丘の上から遠くを見る。


「とんでもなくデカイなー」


『ラハブの何倍でしょうか…』


距離は大分離れて居るが高く長い壁が確認出来る。


「平穏な旅で良かったなおっさん!」


「どこがだ!ここまでの道中どれだけ賊の相手をした!」


「俺に言われても…つーか何の問題無いのは事実だろ?」


この一週間、回数にして15回。ひっきりなしに賊や夜盗に襲われた。おかげでルインの対人経験がかなり積めた。


「相手も可哀相だったがな…西の最強が乗ってるとは思わなかったんだろう」


シヴァルバは旅のしやすい様にか目だけが覗けるよう顔全体を布で覆っているので賊も分からなかったのだろう。元西の最強は有名らしいので分かってて挑んでくる奴も居ないだろうし。


「良いかセイラ、ルイン嬢、騒ぎは起こすなよ?王都はその辺厳しいぞ」


「へーい」


頷くルイン。


「心配すんなよおっさん、気楽に行こうぜ?」


丘から一時間程で王都に着く。


「ラハブから来た剛気豪傑のシヴァルバだ」


ギルドカードを衛兵へと見せる。


「貴方は!英雄に会えて光栄です!そちらの二人は…?」


「西の最強、闘争者のセイラ。彼女はルイン、訳あって言葉は発っせない」


会釈しギルドカードを渡すルイン。


「西の最強?」


衛兵がチラリとシヴァルバを見る。


「事実だ」


「失礼しましたセイラ様、伝達は本当の様ですね…女性は奴隷の紋が刻まれていますが…」


「俺の奴隷だ」


「分かりました、ギルドカードに依り身元の保証も大丈夫です。どうぞお通り下さい」


促された先の巨大な木製の門が開く。


「すげぇ…」


人、人、人。出店や露店が賑い騒々しく活気が凄まじい。


「ここはまだ入り口ですら無いからな」


「門から入ったんだから入り口だろ?」


「王都は三つの街の中央にあってな、説明要るか?」


「頼む」


ゴーランドの手綱を握ったままシヴァルバが続ける。


「三つの街はそれぞれ王から認められた実力者が治めている、ここの統治者はバロンって名前の若僧だ」


「へぇ…」


ルインが小窓から顔を出し屋台から青い果物を買っている。ラハブでは見た事の無いものだ。


「他二つは…ん?」


シヴァルバがゴーランドを止める。


「どうした?」


「ルイン嬢は酒飲めるのか?」


振り向き聞いてくる。


「いや?なんでだよ」


「色々回ってみても良かったんだが…先に宿を探すか」


「ルインは美味しい物楽しみにしてたから、ってルイン!?」


ルインが顔を赤らめ寄り掛かって来る。


「スカイって名前の果物で強い酒と同じ成分の果物だ」


ルインがかじった果物からアルコールの香りが荷台に広がる。


「悪いなおっさん」


「挨拶は明日だからな、気にするな」


大通りを進んで行く。門からずっと人の数は減らない。


「昼は宿に着いてから探すが良いか?」


「任せるよ、ヤトが入れる所で宜しく」


「あーそうだったな、宿の後は先に組合(ギルド)に行かないとか」


「なんかあるの?」


「王都じゃ使い魔の登録が必要だ、問題は無いだろうが…」


「オッケー」


「了解って事で良いんだよな?明かしたく無いなら言わなくて良いがお前の故郷の名前は?」


「言っても多分…分かんないよ?」


「等級(ランク)もSに成ると色々行くからな、言ってみろ」


膝枕をしているルインの頭を撫でながら少し悩み告げる。


「んーーー…日本。ニッポンとかヤマトでもオッケー」


「三つも呼び名があるのか?ニホン…ヤマト…そんな街は知らんな…」


「あー日本は国の名前だよ、街ってなったら東京かな?ここら辺だと王都的な感じ」


「国?嘘じゃないよな?」


「小さいけど島国だよ」


「島国となるとフェンサリーリ領でも無いか…マグメル以外に島国なんてあるのか?」


「その二つの方が分かんねーよ、つかここの王都の名前も知らねー」


「本当にどっから来たんだ…王都の名前はインソムニア、別名眠らない都だ」


「フェンサリーリとマグメルは?」


「フェンサリーリは女神を崇拝する信仰国家でマグメルはニホンと同じ島国だ」


「ふーん」


「どちらも遠い国だから覚える必要は無いかもしれんが…常識だぞ?」


「いつか…この国で俺より強い奴が居なくなったら行ってみるか」


「あんまり調子に乗るなよ…っとここにするか」


ゴーランドを高く巨大な建物の前で停める。


「ルイン、着いたよ!起きて!」


ゆっくりと瞼を開けるルイン。


『おはようございます?』


「酒は抜けきって無いか…」


『え?お酒なんて飲んでないですよ?』


「さっさと降りろ二人共、業者にゴーランドを預けてくる」


荷台から降り荷物を受けとる。


「直ぐ戻る、待ってろ」


そのままシヴァルバが人混みに消えていく。


『なんだか頭が痛いです…』


『青い果実食べてたでしょ?アレ酒みたいなもんらしいから気を付けて』


『はぅ…申し訳ありません…』


『そんな凹まなくても大丈夫だよ』


落ち込むルインの頭を撫でていると少し遠くがざわついている。


「何だ?」


人が左右に別れ、怒号が聞こえ道が広がる。


「どけ!どけーーー!!」


屈強そうな男が近付いて来るのが確認出来た。


「もう少しで…!」


『焦っているようですが…』


『んーーー、良い奴じゃなさそうだし…』


口汚く回りを罵りながら男が直ぐ目の前を通り過ぎかける。


「痛っっってーーー!誰だ!?」


余程焦っていたのか誰か(・・)の足に引っ掛かり宿屋の前で盛大に転ける男。


「お、お前か!くそ!今日は見逃して…


続けようとした男から悲鳴が上がる。宙空から突然男が降って来たからだ。赤い帽子(ハット)に厚手の生地で出来ていそうな赤の上下。屈強そうな男は驚きで悲鳴を上げたのではなく、その脚に突き立てられた鍔(つば)の無い剣に依る痛みで声を上げていた。


「俺の街で人拐(さら)いなんざ良い度胸だな」


「ま、待て!話を…!」


「その前に止血してやるよ、死ぬのは嫌だろう?」


そう言うと突き立てられた剣から炎が噴き出す。


「アアアアアアァァァアアァ!!」


「礼は要らねえ、困ってる奴はほっとけないんでな」


既に気絶している男に告げると人々から声が掛けられる。


「バロン様!」「流石俺達のリーダー(頭首)!」「この街で犯罪なんて馬鹿な奴がまだ居たのか」「バロンさーん!」


賞賛を受けている男がこちらに近付き帽子を取る。黒いリボンで長い銀髪を後ろで結んだその男が赤い眼でじっと見つめてくる。


「礼を言っておこうか…俺はバロン、ブラッディーバロンだ」


「要らねえ、何もしてないからな」


そう言うとバロンが微笑みを見せる。半端ないイケメンだ。


「見た事無い顔だな…実力は…」


そこでイケメンスマイルが崩れ唇が歯を見せず歪む。


「どうだ?俺の血盟(レギオン)に入らないか?」


突然の勧誘。野次馬達がざわつく。


「ここに留まるつもりは無いんでね…どうせ誘うなら決闘の申し込みとかの方が嬉しいんだけど?」


「良いなお前…闘(や)ろうか…」


会ったばっかりだが同じ穴の狢(同種の人間)の匂いがする。


『ご主人様、シヴァルバさんの言ってた事は…』


『トラブル(騒ぎ)は起こさないよ、お互い合意なんだから大丈夫だろ』


『そう言う訳じゃ…』


困った様な表情のルインだがバロンも疼いているのが伝わってくる。


「捕まえたみたいだね、それでどう言う状況かな?」


茶髪の身軽そうな緑の服を着た男が宙空から降ってくる。


「シルト…楽しめそうな相手が居たからな」


シルトと呼ばれた男が額を押さえる。


「ごめんねお兄さん、人も多いし我慢して貰えるかな?」


「最近雑魚(賊)とかしか相手してなかったから体動かしたかったんだけどな…」


「ちっ」


バロンが舌打ちしそれをシルトが宥めている。


「まだ仕事終わってないだろう?帰るよ」


シルトが屈強そうな男を肩に担ぐ。華奢な体に似合わず力はあるようだ。


「お前、名は?」


「西の最強、闘争者のセイラだ」


バロンが少し驚いた表情をする。


「成る程、お前が…それじゃ行くか。また会おう」


口角を上げ口を歪ませると建物の屋根に飛び姿を消した。


『良かったです…』


『楽しみが増えたな!』


『そう言う意味じゃ無いですっ!』


宿屋の前に出来ていた人の集まりも疎らになるとシヴァルバが帰ってきた。


「おかえり、結構掛かったね」


「少し離れた所に獣舎があったからな」


足下の覚束無いルインの手を引き宿屋の中へ。二人部屋と一人部屋を一部屋ずつ借りる。


「荷物を置いてくる、お前達はどうする?」


「一旦部屋に行くよ」


五階にある部屋へ向かう。中は広くシャワー付きだ。


「ルインは寝てて良いよ」


『一緒に行きますー』


顔はまだ赤いままだ。


「直ぐに帰ってくるから」


『えー…あっ!』


ルインを抱えベッドへ連れていく。


「戻ったらご飯だから休んでな、一緒にご飯食べにいけないの嫌でしょ?」


『美味しい物…おっけーです!早く戻って下さいね!』


「オッケー」


元気になったルインの頭を撫でて部屋を出る。一階に戻るとシヴァルバが待っていた。


「ルイン嬢は?」


「休んでるよう言ってきた、美味しい物食べに行くって言ってきたから頼んだよ」


「そっちは期待してろ!」


人混みを掻き分け大通りを進んで行く。


「着いたぞ、ここだ」


指し示す先にはドーム状の建物。ラハブのギルドと同じくらいの大きさだろうか。中へ這入り受付へ。背の高いスレンダーな女性の受付嬢だ。


「使い魔の登録に来たんですが」


「それではギルドカードと使い魔を見せて頂いてよろしいですか?」


「ヤト!」


「ピィー!!」


ヤトを喚び出すと嬉しそうに頬ずりをされる。


「珍しい魔物ですね…名前はヤトでよろしいですか?」


「うん、お願い」


受付嬢がギルドカードに手を置くと淡い光がカードを包む。


「これで登録は完了です、何かありましたらまたお越しください」


「ありがと」


「終わったな、それで街中でヤトを連れていても大丈夫だ」


「四六時中喚ぶ訳にも行かないけどね、ヤトー」


右手の刻印へとヤトを戻しギルドを出る。


「ギルドはラハブと同じくらいなんだな、街の大きさに比べて小さくない?」


「あん?この街じゃ組合(ギルド)は4つあるぞ?」


「そうなんだ…まぁどこでも一緒か」


「実力主義って意味じゃあな」


宿へ戻りルインを呼びに。シヴァルバには下で待っていて貰う。


「ただいまー、ご飯食べに行くよー」


『おかえりなさいませご主人様っ』


酔いも冷めた様で顔色も戻っている。


「行こうかー」


一階へ降りシヴァルバの案内でスパイシーな香りが広がる店へ。


「バルバルのルーを三つとクーの腹身焼きを頼む」


注文を任せると直ぐに料理が運ばれてくる。白いドロっとしたスープに黄色い油が浮いた物と平べったいパンに肉の塊。


「いただきます」


『いただきます!』


「ピィ!!」


「お前の故郷の儀式か」


スプーンでスープを一口、まろやかなカレー味だ。


「どうだ?中々だろう?」


「まぁまぁかな」


カレー味だがよく知る家庭の物じゃなく専門店なんかで出てきそうな味。米にも合いそうにない。


『私は美味しいです!』


ルインが嬉しそうなので良しとしよう。


「今日は食ったら自由に過ごしてくれ、明日の朝は早めに宿を出る」


「王都までどれくらい?」


「ゴーランドで二時間くらいだ、この街も広いからな」


食事を終え解散となる。シヴァルバは先に宿に戻る様なのでルインとヤトも一緒に街を散策する。


『どこも賑わってるねー』


『はぐれたら大変ですね』


確かに。ルインの手を取る。


『あ、あのっ』


『はぐれるのは嫌でしょ?絆石(アイテム)の範囲も分かんないし』


『おっけーです!ありがとうございます』


弾ける笑顔で応えてくれているので嫌われたりなんかは無いだろう。


「ピーーー!」


ヤトが握り合った手に絡みつきちょっかいを掛けてくる。


『明日の用事が終わったらお土産屋とか買わなきゃだね』


『何事も無ければ良いですが…』


『挨拶だけだよ?何にも起きないって』


笑いながら言うがルインの表情は微妙だ。


『ご主人様の何も起きないは…』


『どうせ明日にならないと分かんないんだし気を張らないように…ほら、今日は観光観光』


『おっけーです…折角なんで楽しみましょう!』


その後宿からあまり離れないように散策を続ける。回りを歩くだけでもかなり楽しめた。日も沈んで来たので宿に戻る。食事は付かないそうなので色々と購入して。


「シヴァルバは飯どうすんだろ…まぁ良いか、いただきます」


『いただきます!


「ピィ!!」


屋台で買った串焼きや果物、色鮮やかなジュース、なんだか祭帰りみたいな食事を済ませ体を洗う。


「明日早いって言ってたし寝ようか」


『はいっ』


大きなベッドへ潜る。かなり上等でふかふかだ。


「おやすみルイン」


『おやすみなさいませご主人様』


久しぶりのベッドに直ぐに深い眠りへ…。



そんな筈も無く一週間も溜まったそれのせいで全く眠くならない。流石にルインも旅の疲れがあるだろう…。寝顔を見つめ気持ちを穏やかにし、何とか眠る。







夜も更け灯りも少ない裏路地で二人の男が会話をしている。


「見間違いじゃないの?」


「いえ、ハッキリと確認出来ました」


「そう、ご苦労様」


黒い外套の男が目のギョロっとした男に金貨を数枚渡す。


「それではこれで…」


金貨を受け取った男がその場を去る。

残った男が空を見上げ呟く。


「あれから僕は強くなったよ…意味のある事も好きになった…早く一緒になりたいなぁ…」


始まりの街ラフィン、その迷宮内で女性二人を無惨な姿にした男。ドレイドルがそう呟いた…。




本日プロローグと合わせて2話更新です。

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