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タッグババ抜き

「ねぇ、ちょっと、リリー。リリーたらっ!」


「……んんん。なんだよ」


「あなたねぇ、いつまで寝てるのよ!」


 リリーは魅杏に身体を揺り動かされる。そのおかげか頭がシェイクされ、ふらふらっと起き上がる。


「……今何時?」


「……もう、放課後よ」


 リリーは昨晩寝ていない。加奈子の家が放火されたあと、吉原に向かい、黒ずくめの男たちに拉致られ、ババ惹きをし、そのあとスカウトの男に声をかけられ、徹夜でオールドメイドをし、始発で魅杏の家に来て、朝からハーフババ抜きをして、全然寝る暇がなかった。

 それ故に、リリーは学校に来たとたん眠たくて仕方なくて、魅杏に頼み理事長室で午前の仮眠をとった。そのあと、みんなで昼食をとったのだが、昼飯を食ったら眠たくなる。リリーは再び理事長室で寝た。


「はぁっ!? しまった!」

 リリーは思い出した。出来れば今日のうちに加奈子に柳井社長の再建計画の話をするつもりだったのに。

 リリーは布団から飛び起き、身だしなみを整える。


「もう、髪の毛跳ねてるわよ。リボンもちゃんと締めて。谷間が見えてるわよ。スカートも気を付けて。パンツもチラチラ見えるわよ」

 魅杏はリリーが髪の毛を手櫛で整えるなか、リボンをきっちり締めたり、スカートのシワを伸ばす。


「よし、私完璧」

 リリーは身だしなみを整えると、理事長室にあるクローゼットの姿見を見る。


「あ、そうそう。魅杏」

「何?」

「実はあの火事のなか、土地の権利書や工場の権利書や実印が盗まれた」

「えええっ!? そうなの!? そうだったら、警察に被害届を」

「あ、いや、一応返してくれる機会を作ってくれる人がいて。それでなんとかなる」

「はぁっ!? 一体、どういう人なのよ!」

「かくかくしこしこ」

「それって、絶対危ない人よ。黒服でしょ。ヤバイって。やめなよ」

「…………普通の方法じゃ無理だ」

「………………」


 リリーが真剣な顔をして魅杏に言った。その時。

 ヴヴヴとリリーのスマホが鳴る。

 リリーがスマホの画面を見ると、登録していない番号がかかってきた。

 リリーは無視してもいいと思ったが、よくよく思い出すと昨夜長髪の黒服が連絡すると言っていた。


「……もしもし」

「俺だ。昨日のことは覚えているだろうな」

「ああ」

「ババ抜きのことだ。今週末にやる。その時に遠藤と約束のものを賭けさす。それと……」

「なんだ?」

「サシウマのババ抜きではなく、チーム戦のババ抜きだ」

「……それはどういうことだ」

「俺にはルールまで決められないが、とりあえずチームでジョーカーアガリの多い方だろう」

「……つまり、私一人では参加はできないのか」

「そうだ。仲間を呼べ」


 リリーは理事長室を見渡す。今ここにいるのは魅杏一人だけ。魅杏なら話せばわかってくれる人物だろう。経営してるから裏の人間のことまで知っている。


「……リリー。……聞こえてる。電話の内容が」

 理事長室はしんっと静寂に包まれている。理事長室は静かなところだ。リリーも寝ていて不愉快ではなかった。そんな部屋だから、電話の内容も聞こえてしまうのだろう。


「ふっ、嘘をつくなよ」

「でも、リリー一人じゃ参加出来ないんでしょ」

「………………」

「私も参加する」

「……ちょっと待て」


 リリーは再び電話に出る。

「何人必要だ?」

「まだ詳しくはわからないが、基本的にババ抜きは四人対戦。デッキを増やせば4n人はやれる。まぁ、俺は四人でやると思う。遠藤とヤスで二人。お前ら二人でやるだろうな」

「4nということは八人や十六人になったりするのか?」

「さすがに10人を越えることはなかなかないだろうが、まぁありえる」

「そうか。わかった」

「ああ、それと。今夜、タッグババ抜きをする。四人制ババ抜きだ。お前も仲間を連れてこい。練習だ」

「ちょっと待て、どこでやるつもりだ」

「吉原の事務所だ。昨日のところだ」

「わかった。私を含め二人だな」

「ああ、そうだ」


 ガチャと電話を切る。

「魅杏、聞いての通りだ」

「今夜、タッグババ抜きね。吉原の事務所って?」

「ああ、キャバレー裏にある。まぁ、私が連れていくよ」

「……相手は城東会?」

「そうだ」

「うん、わかった」


 その時、魅杏の肩は震えていた。リリーが気持ちを察すると、肩に手を置く。


「大丈夫だ。魅杏は、私が守る」









「ルールを説明する」


 リリーは魅杏を連れ、キャバレー裏にある、事務所に来た。そこには、すでにシゲタと長髪の黒服がパイプイスに座っていた。


「おそらく本番もタッグババ抜きのチーム戦だと思われる。たから、チームのどちらかが最後にジョーカーを持っていた者の勝ちだ」

 シゲタがルール説明すると、カードが均等に配られる。

 席順は、北にリリー、東にシゲタ、南にアニキ、西に魅杏が座る。

 リリーの手札は10枚。他三人は9枚。リリーが引かられスタートとなる。


「ゲームスタート!」


[リリーの手札]


♥A♦2♥3♦4♥5♦6♥7♥8♠JJK


 一巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♦4と♣4のペアを捨てる。

「どうぞアニキ」


 長髪の黒服こと、アニキはシゲタから一枚引く。すると、ペアが揃い、♥Jと♣Jのペアを捨てる。

「…………」


「……」

 魅杏がアニキの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♠2と♣2のペアを捨てる。

「はい、リリー」


「うん」

 リリーは魅杏の手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♠Jと♦Jのペアを捨てる。


[リリーの手札]


♥A♦2♥3♥5♦6♥7♥8JK


 二巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥3と♣3のペアを捨てる。

「どうぞアニキ」


 アニキはシゲタの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♦Aと♠Aのペアを捨てる。

「…………」


「……」

 魅杏がアニキの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥Kと♦Kのペアを捨てる。

「はい、リリー」


「うん」

 リリーは魅杏の手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥Aと♣Aのペアを捨てる。


[リリーの手札]


♦2♥5♦6♥7♥8JK


 三巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥6と♦6のペアを捨てる。

「どうぞアニキ」


 アニキはシゲタの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♦10と♥10のペアを捨てる。

「…………」


「……」

 魅杏がアニキの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥Qと♦Qのペアを捨てる。

「はい、リリー」


「うん」

 リリーは魅杏の手札から一枚引く。が、揃わなかった。


[リリーの手札]


♦2♥5♥7♥8♦9JK


 四巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。が、揃わなかった。

「どうぞ……アニキ」

 シゲタがアニキにアイコンタクトをする。


「フッ」

 アニキはシゲタが揃わなかったカードを引く。拾いだ。拾いとは前の人が揃わなかったカードを引くことである。

 アニキが拾いをすると、ペアが揃い、♥7と♦7のペアを捨てる。


「おい、シゲタ」

「はっはい」

「ババ抜きじゃねぇんだ。ジョーカーじゃねえとアガリにはならねぇんだ」

「あっ」

 シゲタがすぐさま思い出す。ルールはジョーカーアガリ。つまり、他のカードはペアを減らすだけのクソカード。

 拾いは二種類ある。

 前の人が揃わなかったカードは次の人が揃う確率が高い。故に、揃うために拾いをする。

 しかし、必ず揃うわけではない。そのカードがジョーカーの時がある。普通のババ抜きの時ではジョーカーは嫌われるが、ジョーカーアガリのババ抜きでは重宝される。

 シゲタとアニキにはその思い違いによって引き起こされた。


「……」

 魅杏がアニキの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♠4と♥4のペアを捨てる。

「はい、リリー」


「うん」

 リリーは魅杏の手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♥5と♦5のペアを捨てる。


[リリーの手札]


♦2♥8♦9JK


 五巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。が、揃わなかった。

「どうぞ……アニキ」

 シゲタがアニキにアイコンタクトをする。


「あ?」

 アニキは訝しい顔をする。

 シゲタは拾いをしてくれと言っている。

 しかし、さっきのターン、シゲタは間違えて数字カードを渡してしまった。

 アニキは今回もそうではないかと思う。だが、先程すぐさま間違いを正した。だから、今回は本物のジョーカーではないかと思うが。

「まぁ、いいだろ」

 アニキは拾いをする。すると、揃わなかった。

「…………」


「……」

 魅杏は拾いをせず、アニキの手札から一枚引く。すると、ペアが揃い、♦3と♠3のペアを捨てる。アガリではない。敗北である。敗北の一抜け。


「えと、私が引かれるということになるんだな」

「ごめんね。リリー」

 魅杏がペアを揃えてわかる。黒服たちが拾いをしたカードはジョーカーだ。

 リリーの手札は三枚。シゲタの手札は三枚。アニキの手札は一枚。


[リリーの手札]


♦2♥8♦9


 六巡目


 シゲタがリリーの手札から一枚引く。当然ながら揃う。♦9と♥9のペアを捨てる。

「どうぞアニキ」


 アニキはシゲタの手札から一枚引く。当然ながら揃わない。

「…………」



【選択肢】


①『右』


②『左』



 ここで、選択肢がきたか。先程、この長髪の黒服は机の下でシャッフルをした。ということはどっちがジョーカーなのかは半々か。

 ふっ、ここで決めなきゃ女が廃る!


「左だあ!」


 リリーがアニキの手札から一枚引く。すると、揃わなかった。


「ちっ」

 アニキが舌打ちをする。

「おい、シゲタ。わかっているだろうな」

「え? あっ」


 現在、リリーの手札には♦2、♥8、JKがある。

 つまり、ここでシゲタがジョーカーを引かなければ、半分の確率で揃い、リリーの勝利が確定する。仮に揃わなかったとしても、アニキが上手く数字カードを避けていけば、ジョーカーアガリが出来る可能性は残る。だが、それは先伸ばしの行為だ。


 七巡目


「はぁはぁ。三枚のうち一枚が、俺たちの敗北。ジョーカーなら俺たちの勝利。それ以外は先伸ばし」

 シゲタは手に汗をかきながら、リリーの手札から一枚引く。

 そのカードは。

「あっ!? ♦2!?」

 

 シゲタは♦2と♥2のペアを捨てる。敗北の二抜け。

 これにより、アニキはシゲタから引くことが出来ず、リリーに引かれる。


「ふふ。私の、いや私たちの勝ちだ!」

 リリーは♦8と♥8のペアを捨てる。

 残ったカードはジョーカー。

 勝利のジョーカー。







「ぷっはぁ。じゃあ、週末もその勢いで勝て」

 アニキはジョーカーアガリのババ抜きが終わると一服する。


「もちろんだ。必ず、遠藤を倒す。権利書も取り返す!」




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