ハーフババ抜き
「おはようございます」
リリーはアイドル寝起きクイズをやる司会者のように声を小さくした。
「何が、早いのよ。遅いでしょ!」
「み、魅杏!?」
魅杏はこっそりと部屋に入ろうとしたリリーをとがめた。
「あなたねぇ、加奈子を頼むって言って、そのままどこかに行かないでよ」
「ごめん」
「連絡くらいしてよ」
「申し訳ない」
「なんで、朝帰りなのよ」
「始発で帰ってきたもので……」
「……ゆうべはお楽しみだったのかしら?」
「……そんな楽しいことはなかったよ。しかし、朗報であるが」
「ん? どう言うこと?」
「加奈子の工場を再建できるようになった」
「えっ!?」
「実はかくかくしこしこ」
「……なるほど、柳井社長が…………。国内最大手が……。たしかにそれなら、加奈子は納得できるかも」
「ん? どう言うことだ」
「実はかくかくしこしこでね」
「そうか、加奈子が断ったのか。魅杏の資金調達じゃあダメなのか」
「私の会社の子会社にするより、同じアパレル企業の子会社……ビジネスパートナーになった方がいいわね」
「……ところで、加奈子はどうだ?」
「大変ショックを受けてた。それと、来ることができるなら千景や彩香に連絡したけど、彩香はちょっと無理だった。けれど、千景がお見舞いに来てくれて、何だかわけのわからない薬物とドリンクを飲まされたわ」
「気分がハイになるお薬じゃないか?」
「そんなんじゃないわよ。千景が言うには、寝かせて一旦緊張をリセットさせるというの。それで」
「寝てるのか」
「いや、起きてるよ。加奈子も千景も」
「早いな、今何時だと思ってるんだか」
「あなたこそ、何時だと思ってるんのよ。遅すぎる帰宅よ」
「…………はいはい。わかった」
リリーはリビングに進むと、加奈子と千景が座って談笑していた。おそらく、千景なりの気の使い方なのだろうか。昨日のことを思い出させないくらいに先制攻撃をする。
「おはよう。加奈子、千景」
加奈子がリリーの姿を見ると、あっと小さな声をあげ、つーと涙一筋を流した。
それに対し、千景はジトーとリリーをにらめつけた。
「あっ、あぁあ」
「……遅い」
「ごめんな。加奈子、千景」
リリーはちゃっかりと加奈子と千景と魅杏とで朝食を食べた。
それは、二人で食べたときと違う何かを感じた。
「ああー。腹一杯。なぁみんなでババ抜きしないか?」
唐突にリリーが言った。
四人が朝食を食べ終わったあと、リリーはババ抜きをする気だ。
「何で、いきなり、ババ抜きなのよ!」
「いや、ほら。懇親会のとき、加奈子いなかったじゃん。それで」
「それでって、それが理由になるつもりなの」
「まぁ、いいじゃん」
「加奈子はどう思う?」
魅杏は加奈子訊いた。魅杏はリリーなりの気づかいを知ってのことだった。
ババ抜きで一旦、昨日のこと忘れさせる。
「わ、私はいいけど」
「……なら、やろうよ」
千景も賛成し、モーニングババ抜きが始まる。
「朝早いし、学校もあるし、短縮バージョンとして、ハーフババ抜きにしよ」
ハーフババ抜きはデッキを27枚で戦うことである。今回は赤色のスートで戦う。
リリーはデッキをポケットから取り出すと、シャッシャッとシャッフルした。
四人に均等に配り終えると、魅杏と加奈子と千景が7枚、リリーが6枚となった。
席順は、北に魅杏、東に加奈子、南にリリー、西に千景と座る。
「ゲームスタート!!」
[リリーの手札]
♦3♦5♦8♥10♦Q♥K
一巡目
加奈子と千景と魅杏とのジャンケンで、魅杏の手札を加奈子が引くことになった。
「これって、私とリリーが有利ってことよね」
魅杏の言う通り、奇数枚の手札を引かれスタート時と偶数枚の手札で始めると有利である。
ババ抜きは二枚ずつ減る。故に偶数枚の方が揃いやすく、きっちりと手札がなくなる。
「えいっ」
加奈子が魅杏の手札を一枚引く。すると、ペアが揃い、♦9と♥9を捨てる。
「はい」
【選択肢】
①『極左』
②『近左』
③『中左』
④『中右』
⑤『近右』
⑥『極右』
「極右だ!」
リリーは一番右を引くと、カードは♥Q。
「揃った」
リリーは♥Qと♦Qのペアを捨てる。
「……」
千景はリリーから手札を一枚引く。すると揃い、♥Kと♦Kのペアを捨てる。
「んっ」
魅杏は千景から手札を一枚引く。すると、ペアが揃い、♥Jと♦Jを捨てる。
[リリーの手札]
♦3♦5♦8♥10
二巡目
「えいっ」
加奈子が魅杏の手札を一枚引く。すると、ペアが揃い、♥2と♦2を捨てる。
「はい」
【選択肢】
①『極左』
②『左』
③『右』
④『極右』
「極右だ!」
リリーは一番右を引くと、カードは♦10。
「揃った」
リリーは♥10と♦10のペアを捨てる。
「…………」
千景はリリーから手札を一枚引く。すると揃い、♥3と♦3のペアを捨てる。
「んっ」
魅杏は千景から手札を一枚引く。すると、ペアが揃い、♥4と♦4のペアを捨てる。
[リリーの手札]
♦5♦8
三巡目
「えいっ」
加奈子が魅杏の手札を一枚引く。が、揃わなかった。そのカードを一番右に置く。
魅杏の手札は二枚。加奈子の手札は四枚。次のリリーの手札は二枚。リリーが揃うと自動的にリリーが一抜けでアガリになる。
(もしかしたら、だが。それでもやるしかない。拾いだ!)
【選択肢】
①『極左』
②『左』
③『右』
④『極右』
「神かジョーカーか!」
リリーは一番右を引く。ジョーカーだった場合、次の千景は拾い回しをしない。警戒をする。
だが、
「♥8!」
リリーは♥8と♦8のペアを捨て!! これで、リリーは一抜けでアガリとなった。
「………………」
千景は残り一枚となったリリーのカードを引く。が、揃わなかった。ということは、のちのち千景と加奈子の一騎討ちを意味することになるだろう。
「んっ」
魅杏は千景から手札を一枚引く。すると、
「よっし!!」
ペアが揃い、♥Aと♦Aを捨てる。
「頑張ってね、加奈子」
魅杏の最後の一枚はジョーカーだ。つまり、加奈子に自動的に絶対的にジョーカーが移る。
四巡目
「むぅ」
加奈子は頬を膨らました。ジョーカーなので、当然揃わない。ここで、千景がジョーカーを引いてもらわないときつい。
千景が別のカードを引くと、必ず揃う。すると、次の加奈子も必ず揃う。そうなると、一枚対二枚の対決となる。
「……はい」
「………………シャッフルしなかったね」
千景の言う通り、加奈子は机の下や背中でシャッフルはしなかった。つまり、ちゃんと見ていたならばどれがジョーカーかわかるのだ。
「んっし!」
千景が引いたカードは♦7。♦7と♥7のペアを捨てる。
五巡目
「むむむ」
加奈子は素早く千景の手札を一枚引く。当然ながら揃う。♦8と♥8のペアを捨てる。
千景の手札は残り一枚。加奈子の手札は残り二枚。
ここで、千景がジョーカーを引いてくれなきゃ、加奈子が負ける。
(千景、わかってるのかな。加奈子のためにババ抜きしてるんだけど。まぁ、一抜けした私があまりに言えないんだけど)
【選択肢】
①『千景、空気を読め』
②『千景に念を入れる』
③『現実は非情なり』
(はあああああ)
リリーは掌を出し、千景に念を入れる。
「んっ! なっ!」
「やった」
千景は加奈子から一枚引く。そのカードはジョーカーだった。
(マジか! 私の選択肢の能力すごいな)
「ま、まだよ」
【選択肢】
①『加奈子にサインを送る』
②『加奈子に念を入れる』
③『現実は非情なり』
(はあああああ)
リリーは掌を出し、今度は加奈子に念を入れる。
「えいっ! やった!」
「そんな……」
加奈子はペアが揃い、♥6と♦6のペアを捨てる。これで、加奈子が三抜けとなる。
「ううう、もっかいしよ。もう一回」
「千景、学校に遅れるぞ」
「ふふふ」
千景の敗北となる。リリーは学校を気にするが、それより加奈子を気にした。
そこには、笑顔が戻っていた。
(会社再建のことは後にするか)




