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少女の過去

今回は話しの内容上、元から多い会話文がさらに多くなります。

ご了承下さい。

 家に着くと、まだウィズレストに寝る場所を教えていないことにアイシスは気付いた。

「どうしようかな……。………………」

 アイシスは迷っていた。一番簡単なのは両親の部屋なのだが……。

 ウィズレストも、特に催促などもせず静かに待っていた。

「……いっか。ウェント、ここの部屋使っちゃって」

 案内したのは結局アイシスの両親の部屋だった。

「布団と、ンー、使いたかったらそこら辺にあるもの使ってもいいけど」

 ウィズレストは部屋の中を見渡しながら応える。

「いや、誰かの部屋なんだろう? あまり荒らさないでおくよ」

「…………ありがとう」

 ウィズレストは部屋の中に入り、隅の方に自分の荷物を置いた。

「じゃ、ご飯にしようか」


 アイシスは二枚の皿にパンを二つずつとペクを一つずつ、分けたものを持ってきた。

「はい、どーぞ」

「ありがとう」

 本当はウィズレストも準備を手伝うと言ったのだが『男子は台所に立つな!』と一蹴されてしまっていた。……どうせ皿にのせるだけだったのだが。

「いただきまーす」

「いただきます」

 ウィズレストはペクを食べるのは初めてだった。アイシスが食べるのを少し観察して食べ方を学んでから、自分も食べてみた。

「……酸っぱいな」

「んー? ダメだった?」

「いや、そういう意味ではない。なんとなく想像していたのよりは酸っぱいって意味だよ」

「…………ウェントってさ、こういう酸っぱいの、平気なの?」

「好んで食べるほどじゃないが、決して嫌いではないよ」

 アイシス興味なさそうに呟く。

「ふーん。じゃあ、明日はパニを買おうかなぁ」

 ウィズレストは「パニ?」と内心首を傾げていたが、アイシスの興味がどうやらもう無くなってしまったようなので、聞くに聞けなかった。

 そのまま、会話のない食事を続ける。

 ウィズレストは沈黙には耐えられる方だと自負している身だが、今日はなんとなく耐え難くなって、ついさっき思いついたことを思い切って聞いてみることにした。

「なあ」

「なぁに?」

 アイシスはパンを片手にウィズレストを見る。

「アイシスの親御さんは一緒に住んでないのか?」

「!」

 動揺。アイシスの表情からはそれが読み取れた。

 ウィズレストもそれに気付き、激しく後悔した。

「………………」

 再び沈黙が訪れる。

「……聞く?」

「あ、いや……、話したくないことなんだろう? 別にいいよ」

 アイシスは首を横に振った。

「確かにあんまり話したくないよ……。でも、聞いてほしい、かな……?」

「そうか。なら、聞いてやる」


「レイヴァルタウン、分かる?」

「いや」

「ディアレイズ」

「分からん」

「レイヴァルタウンっていうのは、このスラム街に隣接する大きな国のこと。今は鎖国してて私達国民以外の人間は全く入れないんだけどね。ディアレイズっていうのは、タウンに数ヶ月前結成された暴力団のこと。最近、巨大化してきてさ、私達も困ってるんだよ」

「タウン内の話じゃないのか」

「そ。スラム街まで手を出し始めてる。死人が出たとは聞かないけど、負傷者はでてるよ」

「……捕まえないのか?」

「タウンだと捕まるギリギリで悪事はたらいてるみたいだからね、無理らしいよ。スラム街じゃ捕まえるなんてことはできないし」

「…………」

「続けるよ? ……私も被害者なの。正確には私じゃないけど」

「親御さんか?」

「そう。数日前かな、お母さんと一緒に夕食の買い出しにゼティに行って、帰り道は近道って言って人通りが少ない道を通ったの。そこで偶然ディアレイズ二人組に会っちゃって……。私はお母さんがなんとか逃がしてくれて怪我一つなかったんだけど、お母さんは帰ってこなかった。多分拉致されたんだろうって………」

 アイシスは込み上げてきたものを飲み込もうと口に手を当てたが、できなかった。

「……っ……………ぅ…………うぅ……」

 ウィズレストはアイシスが落ち着くまで静かに待っていた。

 数分経ってアイシスが落ち着くと、途切れた話を再開させた。

「これはお母さんから聞いた話なんだけど……お母さんのお父さん、私のお祖父ちゃんはもともとタウン民だったんだって。でも、お祖父ちゃんが突然タウンを捨てるって言って、当時まだ小さかったこのスラム街に来た。理由はいくら聞いても教えてくれなかったらしいよ。時間が経って、お母さんが結婚して、そして私が生まれた。直後、お祖父ちゃんは死んで、お父さんはスラム街を出て行った。もともと放浪グセがあったらしいんだけどね。それからは私を女手一つでお母さんが育ててくれた」

「……いい、お母さんだな」

「うん、自慢のお母さんだよ」

 ウィズレストは話の区切りをつけるかのように、一度座り直す。

「助ける目処は立ってないのか?」

「相手はタウンの壁を利用してるから私たちはなかなか手を出せないんだよ」

「それをどうにかさ」

「できたらもうやってるでしょ」

「そう、だけど……」

「…………もう、やめようよ、こんな話。疲れちゃった」

 アイシスは思い切り伸びをした。

「……ああ」

「食器、ちょうだい?」

 ウィズレストは皿を差し出す。

「先に寝ててもいいよ。どうせ私もすぐに寝るし」

「わかった」

 ウィズレストは部屋に、アイシスはキッチンに消えた。

やっと一日目が終わりました。

まだウィズレストが来た日だったんです。

長かったですね(遠い目)


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