第八話 出撃サキュバス その1
おっさんたちとの戦闘から二日がたち、魔王城まであと少しとなっていた。
弟さんへの負担を減らすため、生け捕りにしたグリフォンに分かれて乗ったことで、進む速度が一気にあがったからだ。
最初は威嚇してきたグリフォンたちであるが、いまは素直にいうことを聞いている。
グリフォンは魔獣だ。その魔獣としての本能が、ジュディやビッチェルに従うことを選んだのだろう。逆らったら食べられちゃうから。
ちなみに捕虜にしたおっさんたちはグリフォンにぶら下げられ、ジュディやビッチェルのおもちゃになっている。すでに顔面は可哀そうなぐらいボッコボコだ。
「見えたよ、あれが魔王城さ!」
「ほう。あれが……」
顔を綻ばすカナラフィの指さす先、そこに目的地である魔王城があった。
岩山を削り、くり貫いたのだろうか? その様相はまるで天然の要塞だ。
岩山をベースとしているせいか、見た目はすげー地味である。俺としては、もっとおどろおどろしい古城を想像していたんだがな。
「……なんかカビ臭そうなところだな」
「バカを言うんじゃないよ。あたいらの城はね、三百年もの長い時間をかけてドワーフどもが掘り進めて完成させた、歴史あるお城なんだからなー」
「三百年だと?」
「そうさ。魔王さま直々の命令でつくったそうだよ。中に入ったらお前さんだって驚くよー。なんたって、そのあまりの素晴らしさに、よその魔王と戦争になったことがあるぐらいだしね」
「自分の住処を造るのに三百年とか……よほどヒマなんだな。貴様の魔王とやらは」
「魔王さまを悪く言ったらお前さんでもゆるさないからなっ!」
カラナフィは自分が仕える魔王とやらに強い忠誠を誓っているのか、軽くディスっただけなのに喰ってかかってきた。
そんな反抗的な態度をとってきたカラナフィを俺は手で押し戻し(さりげなくおっぱいを触るのも忘れない)、不敵に笑う。
「フッ、なにが『ゆるさない』だ。逆に聞こう。“ゆるさなかった”らどうするつもりなんだ? 貴様のようなへっぽこサキュバスがこの俺に対し。ん? どうするんだ? んん?」
「ううっ……む、胸を触る数をす、すくなくする! ……と、とかは……ダメ?」
「申し訳ありませんでしたっ!」
俺は弟さんの背に手をつき頭を擦りつけ、謝罪の言葉をのべる。
人生とは、楽しいことばかりではない。
時と場合によっては、腹に据えかねることでも頭をさげなくてはならないのだ。
そしていまが……その時だった。
「本当にすみませんでしたっ!」
「あわわっ、も、もうわかったからさ! 顔をあげておくれよ。お前さんがそうしてると、あのメスオークがあたいを睨んでくるんだよぉぉ!」
「貴様がそこまで言うならいいだろう。顔をあげてやる。ならこれで回数に変更はなしだな」
「ううぅぅ」
俺は絡みつくような視線をカラナフィのおっぱいに注いだあと、立ち上がる。
視界の端にいたジュディは戦斧を振り上げていたので、見なかったことにし、代わりに魔王城に視線を戻す。
気がつくと、魔王城はもう目と鼻の先だった。
「そこのワイバーンとグリフフォン! 止まれ! いったい何者だ!」
城壁にいる見張りらしき魔物が、声を張りあげてきた。
「あたいは八魔将のカラナフィだ。いま帰還した。門をお開けよ」
「おお! カラナフィ殿でしたか。いま門を開けます!」
「早くおし。魔王さまに土産もあるんだからねぇ」
“土産”とは、おっさんたちのことだ。
グリフォンからぶら下がるおっさんたちを見た見張りのひとりが、慌てて駆け出していく。報告しにいったのだろう。
「はっ! ただいま。 おーい! 門をあけろー!」
見張りが合図を送ると、岩でできた城壁の一部がゆっくりと開いていった。
「ガイア、行くよ。それと――」
「俺に“喋るな”と言いたいんだろ? 分かっているさ。気は乗らんが魔王城ではオークのフリをしてやる」
「いや、どー見てもお前さんはオークじゃないか……」
「ほれ、さっさと中に入れ。俺は股ずれが痛いんだ。貴様がさすってくれないからな」
「わかってるよ! いま入る」
俺に急かされたカラナフィは弟さんの手綱を操り、魔王城へと入っていく。
後方では、グリフォンもそれに追従していた。
「カラナフィ様、お帰りなさいませ!」
弟さんから降りると、ギャル男みたいな肌の黒い男が出迎えにきた。
背から生えてる翼を見るに、カラナフィと同じ夢魔族なのだろう。男はインキュバスとかいうんだったっか。
デーモンのおっさんたちを見張りの兵に引き渡したカラナフィが、男に顔を向け、笑いかける。
「キース、いま戻ったよ。さっそくだけど、あたいはエギーユさまにお会いしたいんだ。できるかい?」
「もちろんですとも。エギーユ様も、今回のカラナフィ様の働きには喜んでおられることでしょう」
「エギーユさまが……く~~~っ! あたいなんかのために……嬉しいねぇ。すぐいくよ!」
「はい。ところで……この魔物たちはいったい?」
キースとかいギャル男が俺たちを一瞥し、首を傾げる。
ひとり城から出ていったカラナフィが、戻ってきたら俺たちを連れ帰ってきたのだ。不思議に思うのも当然のこと。
「この魔物どもはあたいが使役してるのさ。キースにも面倒をみてもらうことになるだろうさ」
「は、はぁ。……しかし、オーガはともかくとして、ゴブリンにオークのような下等種がいても、カラナフィ様のお役にたたないのでは……」
『うっせーぞギャル男』
俺はギャル男に向かって軽く肩パンをお見舞いする。
無論、加減はしておいた。
「いたっ! ぶ、ぶった……カナラフィ様! い、いまこのオークめがこのキースを叩きましたよ! ホラ、赤くなってる!」
「おおお、落ち着きなキース。こ、このオークはね……そ、そう! あたい以外には懐いていないんだよ。だ、だから無暗に近づくんじゃないよ。絶対だよ!」
「……わ、わかりました」
カラナフィの気迫に圧されたのか、しぶしぶ、といった感じでギャル男が頷く。
まったく、ひとを見た目で判断するとは礼儀がなってないな。しょせんはギャル男。程度が知れる。
「よーし。じゃあ、あたいはエギーユさまに報告しにいこうかな。ガイア、お前さんもついておいで。ほ、他のやつらはついてこなくていいかな。こ、ここで待っててくださいやがれ」
そう言ったカラナフィは俺を凝視し、目でなにかを訴えかけてくる。
ジュディたちを連れてくるな、といっているのだろう。
『……みんな、ちと話がある』
『ん? なになに、どーしたのガイア?』
『話ってなんだべぇ?』
『急になんね?』
『アーイー』
ジュディたちの全員の視線が集まったのを確認すると、言い聞かせるようにゆっくりと話しはじめる。
『みんなはここで待っててくれ。俺はちょっと用事ができた』
これから魔王を見てくる、なんて言えるわけがない。もし言ったら、ジュディとエリーは俺の身を案じ『ついていく』と言うだろうし、ビッチェルは自分も直に見たい、ときかないだろうからだ。
そのせいで、俺は話をぼかさざるを得なかった。
『えー! なんでよ!? あたしもガイアと一緒に行くわ!』
『んだぁ。ジュディの言う通りだぁ。あたすたつもついてくよぉ』
ジュディとエリーが反対する。
だが、これは予想通り。
『貴様たちは長旅で疲れてるだろう? これから俺は寝床を探してくる。その間、少しでも休んでいてくれ』
『えー。でも――』
『かっかっか、ジュディよ。小僧はわっちらに良いカッコしたいと。それに、寝床を探すんはオスの仕事じゃけんね』
唇を尖らせ食い下がろうとするジュディ。そこにビッチェルがナイスなフォローを入れてきた。
せっかくだ。それに乗ることとしよう。
『おいおいビッチェル。それを言ったら俺のカッコがつかないだろうが』
俺は恥ずかしそうに、頬をかく仕草をする。
『ん、そっかぁ。んだば、あたすはここで待ってるよぉ。ジュディ、ジュディも一緒に待つべさあ』
『……もうっ、わかったわよ。でもそこの、』
ジュディが顎でカラナフィを指し、続ける。
『メスと変なことしたら……ゆるさないんだからねっ!』
一瞬だけジュディの目が紅くなったような気もするが、気のせいだと信じたい。
俺はそんなジュディに『当たり前だろ』と笑いかけ、ぶっ飛ばしておいた。
そして俺はカラナフィの後をついていく。
魔王エギーユを己の目で、推し量るために。
この場で登場キャラを募集させてください!
魔王エギーユ軍の四天王と八魔将、魔王サイサリスの幹部など、今後けっこーな数が出てきます。
でも、いまのところ2~3キャラしか固まっておりません!
『こんな感じの性格で種族はコレ。あと名前は○○な』みたいに案をいただけると常に助かります。
ぼすけて……




