第1話 『起動(BOOT)』
ご覧いただきありがとうございます!
本作は、傷だらけの電脳戦士と普通の高校生が「二人で一つ」になって戦う、王道特撮リスペクトのSFバトルアクションです!
巨大化変身、武装、合体など、僕たちがあの頃夢見たロマンをこれでもかと詰め込んでお届けします。
それでは、第1話『起動(BOOT)』お楽しみください!
世界はいつだって、スマホの画面越しにしか変わらない。
ネットの炎上も、くだらないSNSのトレンドも、指先一つでスクロールすれば消えてなくなる、ただの電気信号、デジタルノイズだ。
少なくとも、俺――西川 勇樹は、そう思っていた。
あのエラーが、俺の退屈に染められたスマホに表示されるまでは。
*
「なー勇樹、知ってるか? 最近この辺の電波障害、ただの通信エラーじゃないらしいぜ。ネットの一部じゃ、未確認の電脳生命体が電波塔を喰ってるとか噂されててさ!それがもう!」
「またその話? 真守、お前ほんっと怪奇現象とかオカルト好きだよな……」
放課後の教室。夕日が斜めに差し込む窓際の席で、俺は中学からの腐れ縁である木下 真守のオタクトークに付き合わされていた。
真守は無駄に高身長で、メガネの奥の切れ長な瞳が印象的な、いわゆるガチのイケメンだ。くたばってしまえ。黙っていればモテるのに、本人は「この退屈な日常に、何か面白い異常事態でも起きないかなあ」と常々ボヤいているような変人だった。
「ただの噂話でもさ、ちょっとはワクワクするだろ? 勇樹みたいに、いざって時に大暴れしそうな正義感の塊には、これくらいのスリルが丁度いいって」
「ネットの見過ぎだぞー。それに、俺は不審者と戦う趣味はねーよ」
あはは、と笑い合う、いつも通りの平和な放課後。
だが、その平穏はポケットの中からの「異音」によって破られた。
ガガガガガガガガッ!!!
「うおっ!?」
スマホのバイブレーションなんてレベルじゃない。
まるで、精密機械そのものが恐怖で悲鳴を上げているかのような、激しい振動と駆動音。
「なんだよそれ、スマホ爆発すんぞ?」
「いや、知らねえよ! 急に……っ」
慌ててポケットから引き抜いたスマホの画面は、すでに俺の制御を離れていた。 真っ赤なエラー警告が、狂ったように点滅している。
『WARNING:未知のシグナルを受信しました』
『HERO CHORD:H-O-M-D』
『LEARNING:強制インストールを開始します――』
「おい、冗談だろ……タスクキルも電源オフも効かねえ!」
画面をどれだけ連打しても反応しない。
それどころか、画面のあちこちに極彩色の、幾何学的なデジタルノイズが走り始めた。
バチバチッ
スピーカーから電子の弾ける音が響く。
そして、勝手にインカメラが起動し、画面に慌てる俺の顔が映し出された。
――いや。
画面に映る俺の背後に、「誰か」がいる。
『――おっ、接続成功! やぁ、勇樹!こんにちは、 私の名前はユナイト。……まあ、自分の名前以外の記憶はさっぱり消えちゃってるんだが…よろしく頼む!』
スマホのスピーカーから、やたらとクリアで、気さくな男の声が響いた。
「うわっ!?」
驚いて勢いよく振り返る。
だが、背後には誰もいない。夕日に照らされた、誰もいない無人の教室の壁があるだけだ。訳が分からない。呆然と画面を見ていると――
「あれっ?伝わってない?おーい?」
「伝わってはいるけど……誰だよお前! 新手のAIか!?」
「おい勇樹、さっきの男の声……スマホからだよな?」
いつもは冷めている真守が、メガネの位置を直しながら、その目をらんらんと輝かせて俺のスマホを覗き込んできた。
「おい勇樹、これは凄いぞ……! 単なるAIのホログラムじゃない。グラフィックの処理速度も、音声の同調性も現代の技術を遥かに超えてる。本物の『未知の存在』だ……!」
真守が興奮の声を上げる。
だが、画面を凝視した俺の目は、真守とは違う部分に釘付けになっていた。 画面に映る、ロボットのようでありながらスマートで鋭いラインを持つデジタルな戦士――ユナイト。
彼は、あまりにもボロボロだった。
美しいシルバーのアーマーは各所が酷くひび割れ、まるで爆発に巻き込まれたかのように黒く焦げている。
肩の装甲は一部が砕け散り、そこからバチバチと痛々しい火花が吹き出していた。
そんな満身創痍の状態で、彼は親指をグッと立ててみせていたのだ。
「お前……その身体、傷だらけじゃねえか……!」
『ははは、そっちのメガネの君、話が早くて助かるよ。歓迎ありがとう。それに、勇樹も心配してくれて嬉しいよ。――だけど、すまない』
次の瞬間、ユナイトの声からそれまでの軽さが消え、刃物のような鋭い緊迫感が混ざった。
激しいノイズと共に、ユナイトの胸の奥で息も絶え絶えに青く灯っていたランプが、危険を知らせる禍々しい赤色へと変色していく。
『WARNING:侵食率50%を確認しました。電脳世界と現実世界との接続が開始されます。』
『……おしゃべりはここまでだ、相棒。……奴らが、来る』
ユナイトの纏う空気が一変した。
ヴヴヴヴヴゥゥゥ
スピーカーの向こうから、冷たい警告音が鳴り響き始める。
「奴ら……? おい、何が来るってんだよ! お前そんな身体で!」
『平たく言うと、現実を裏側から喰い破るバグだ。そこのメガネ君も巻き込まれる。勇樹、今すぐそのスマホのカメラを、窓の外の空に向けてくれ。……手遅れになる前に!』
傷ついた戦士の必死な声に、俺の身体は本能的に動いていた。
俺は真守を巻き込むように窓辺に駆け寄り、スマホのカメラを外の青空へと向けた。
その瞬間、液晶画面が映し出した光景に、俺たちの息が止まった。
「――なんだ、これ……っ」
*
肉眼で見る窓の外は、いつも通りの茜色の夕空だ。
だが、スマホの画面の中だけは違った。
デジタルノイズの霧に包まれた街の空に、ビルよりも遥かに巨大な――金属質の皮膚を持つ、悍ましい『トカゲ型の怪獣』が静かに佇んでいたのだ。
『あれが電脳世界のバグであり、現実を蝕む電脳怪獣だ。奴の侵食率が臨界点を超えた瞬間、この街は現実ごと消滅する。――だから、私は行かなければならない』
「行くって……そんなボロボロの身体でどうすんだよ!?」
『ははは、心配ご無用。これでも世界の守護者だからね。――勇樹、スマホの画面をタップして、私を『実体化』させてくれ!』
「タップって……これか?」
俺が震える指で画面のユナイトに触れた瞬間、スマホの液晶からエメラルドグリーンの光が夕空へ向けてレーザーのように撃ち込まれた。
キィィィィィン――ッ!!
空中で電子のハニカム構造が急激に組み上がり、巨大な光の巨人の輪郭を形成していく。
「おい勇樹、見ろ! カメラの中に出てきたぞ……!」
真守が叫ぶ。画面の視界。
夕闇の空に、鈍いシルバーの重厚なアーマーを纏った巨人が現れた。電脳戦士ユナイト、現実世界と電脳世界の間に降臨だ。
実体化したユナイトを見て、トカゲ型の怪獣が真っ赤な眼を光らせ、画面の空間と現実の空間を「パキィン!」と引き裂きながら牙を剥く。
「オイオイ、マジで怪獣映画が始まっちまったぞ……!」
「クッソ!頭がガンガンする…」
真守はメガネをガタガタと震わせながらも、その光景から目を離せない。
ドガアアアアン!!
ユナイトと怪獣の巨体が衝突し、激しい衝撃波が教室の窓ガラスを粉々に吹き飛ばした。
ユナイトは果敢に拳を叩き込み、怪獣の巨体を怯ませる。
だが――やはり、その身体は限界だった。
バチチィバチッ!
ユナイトの右肩の装甲が爆発し、動きが鈍る。
その隙を逃さず、怪獣がその巨大な尾を獰猛に一閃した。
――凄まじい風圧。
ユナイトの脇腹を打ち据えた尾の余波が、現実で暴風となって割れた窓から教室へと容赦なく吹き込んできた。
ドガシャァァン!
画面内の机や椅子がドミノ倒しに吹き飛んだ。強烈な風圧に俺と真守は顔を覆ってその場に身を縮こまらせる。ただの余波でこれだ。
直撃を受けたユナイトの衝撃は、計り知れない。
『がはっ……!?』
スピーカーからユナイトの苦悶の声が響く。
巨体が地面へと叩きつけられ、激しい砂煙が舞い上がる。
ユナイトの胸の赤ランプが、今にも消えそうなほど急速に点滅を早めていく。
「ユナイト!!」
叫ぶ俺の視線の先で、怪獣が容赦なく、倒れたユナイトの脳天に向けて、エネルギーの収束する顎を開いた。
『WARNING:侵食率75%を確認しました。電脳世界と現実世界との接続率が上昇します。』
教室のいたるところに紫色のノイズが走りはじめた。
このままじゃ、あいつが死ぬ。あいつが負けたら、この街も、真守も、みんな消える。
『……くそ、ここまで、か……。すまない、勇樹……君だけでも……』
スピーカーから漏れる、弱々しい声。
その時、俺の胸の奥で、何かが爆発した。
押しが弱い? 不審者と戦う趣味はない?
――そんな日常の言い訳は、全部吹き飛んだ――
ボロボロになりながら俺たちを守ろうとしてくれた奴を、こんなところで死なせてたまるか!!
「馬鹿野郎ォォーー!!」
俺は吹き飛んだ窓枠から空を見上げ、身を乗り出し、いるはずのない巨人に向けて絶叫した。
その瞬間、強制インストールされたアプリのデータから、一つの『イメージ』が脳裏に濁流のように流れ込んできた。
痛覚を、恐怖を焼き尽くすほどの、圧倒的な熱量。
――そうだ。いつだって、どんな絶望の淵に立たされても。
――俺のヒーローは、絶対に負けない。
俺の覚悟に呼応するように、手元のスマホの画面に、新しいログが高速で打ち出される。
『HERO CHORD:H-O-M-D』
『BOOT: The Hero of My Dream』
「俺の身体を使え! 二人で一つになって戦うんだろ!?」
『勇樹……!? だが、君の命を危険に……』
「いいから、俺に合わせろ!!」
俺は叫びながら、本能のままに両腕を突き出した。
両手を胸の前で――激しくX字にクロス!
俺の動きと完全にシンクロし、遥か遠くの次元で倒れていたユナイトの巨体もまた、ボロボロの腕を胸の前で力強くクロスさせた。
俺のスマホと、ユナイトの身体が同時に眩いエメラルドグリーンの光を放ち、一本の強固なブルーな光のラインで結ばれる。
そして一気に、右手を天へと大きく伸ばす!
―――今、お前と絆する!!―――
第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
西川勇樹、覚悟の変身――!
終盤に表示されたシステムログの英字には、実はこの作品のタイトルに繋がる重大な意味が隠されています……。
第2話では、ついに二人が合体し、満を持しての反撃バトル&初必殺技が炸裂します!
「続きが気になる!」「特撮のノリ、熱くて好きだ!」と思ってくださった方は、ぜひ画面下の【ブックマーク(お気に入り登録)】や【評価(☆マーク)】で応援していただけると、執筆の原動力になります!よろしくお願いいたします!




