第九十九話
三人はまた足早に森の奥へ向かっていた。
昨日までとは違い、誰も口を開かない。
森を抜け、小さな開けた空間が見えた、その瞬間
――リンネの足が止まる。
「……ない」
昨日までそこにあった黒い塊は、跡形もなく消えていた。
「え……?」
ミリスが思わず声を漏らした。
そして、三人は急いで昨日まで黒い塊があった場所へと近づく。
だが、そこには何もない。残っていたのは、地面へ染み込むように広がった黒い染みだけだった。
「そんな……!?」
ミリスは周囲を見回し、木々の間を探す。だが――
「ど、どこにもありません……!」
静寂だけが森を包んでいた。葉が擦れる音だけが、耳に鳴り響いていた。
リンネはゆっくりと黒い染みの前へしゃがみ込む。
黒く染まった土は、まだわずかに湿っていた。
「……っ」
その土を見て、リンネの表情が変わる。
「昨日、始末しておけば……」
低く漏れたその声には、わずかな悔しさが滲んでいた。
それに、シズクも言葉を返せない。
昨日、自分が止めた。
情報を得るために正しいと思った判断。
だが、その結果がこれだ。
「……すまぬ」
シズクが小さく呟くが、リンネは首を横に振った。
「いや……俺も、もっと考えておけば――」
そのまま黒い染みを見つめ、少しして、リンネは静かに立ち上がる。
「……どこへ行った」
誰に聞かせるでもない呟きだった。
自分で動いたのか。
誰かが回収したのか。
――最初から別の目的があったのか。
分からない。分からないことばかりだった。
森を吹き抜ける風だけが、黒い染みの上を静かに通り過ぎていく。
その時だった。
「……リンネさん」
ミリスが地面の一点を指差した。
「これ……」
二人が視線を向ける。黒い染みの縁から、土の中へ細く伸びる黒い筋のような跡が、かすかに残っていた。
木の根にも見える。だが、その色は明らかに異質だった。
リンネは目を細める。
「……これは」
筋は地中へと続き、その先は土の奥へ消えている。まるで、何かが地面の下を通って移動したかのように。
三人の間に、再び重い沈黙が落ちた。




