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4、こちら恋愛初心者、そうして恋に落ちました。後編(終)

 突然、ドアが乱暴に開かれた。


「兄貴の彼女さん!? こんにちはーっ、あたし妹の実里みさとって言います! お姉さんは何て名前? 兄貴と付き合ってどのくらい? 彼氏彼女って何して遊ぶの?」


 男の子のように短い髪のすごくボーイッシュな女の子が、元気よく入って来た。アクセサリーが好きだと聞いたから、大人しい子を想像していただけに、その勢いに驚いた。矢継ぎ早の質問と、好奇心に輝いた目が由良に向けられている。


「えぇっと、こんにちは。秋本由良と言います。達樹君とは三カ月前から付き合ってます。今日はお家に遊びに来させてもらいました。いつも遊ぶのは、公園に一緒に散歩に行ったり、図書館に行ったりが多いかな? よろしくね?」


「あははっ、図書館? 兄貴には全然似合わないとこだね!」


「え? そうかな?」


 物静かな達樹にはぴったりな場所だと思っていたのに。由良が疑問に思っていると、妹を追いかけて来た彼が怖い顔で彼女の肩を掴んだ。


「実里、勝手に部屋に入るな!」


「なんだよぉー、雨だから早く帰って来たのにさ、のけ者にすることないじゃん。昨日の続きのゲーム一緒にしようよー。あたしが教えたげるからさ、由良さんもやろう!」


「もうお前、黙って出てけよ!」


「なにそんな怒ってんだよ。あっ、兄貴、彼女を連れ込んでイヤらしいことしようとしてるんだ! 言ってやろー、母さんに言ってやろー!」


「せんわ!」


 まるで別人のような達樹に、由良は戸惑いを隠せない。唖然として見ていると、妹を追い出した彼がドアにもたれかかってため息をついた。どういうことなんだろう?


「ごめん……」


「なんで、謝るの?」


 達樹は項垂れた様子でドアの前にしゃがみ込む。その顔は俯いて見えないけれど、落ち込んでいるようだ。おもむろに顔を上げた彼は眼鏡を取ると、クッションに放り投げてしまう。


「本当のオレはこんな性格。本は読むけど、普通にサッカーとかもするし、妹とゲームも普通にする。落ち着きなんて言葉は似合いもしないし、その眼鏡も伊達なんだ。……幻滅しただろ?」


「どうしてそんなことを?」


「中学の時にさ、周りの女子からあんた黙ってたら格好いいのにって言われたんだよ。口を開くと残念なイケメンだよねって。だから高校は地元の友達が少ないとこをわざと選んだんだ。素の性格を隠せば、彼女が出来るかもって」


 その場で正座して理由を説明する達樹に、由良は微笑ましくなった。理由を聞けばなんてことないものだったけれど、それを本気にして彼女欲しさでそこまでしてしまった彼が可愛く思えたのだ。これも惚れた弱みだろうか。


「アクセサリーも妹さんじゃなくて、達樹くんの趣味?」


「嘘ついてて、マジでごめん! せっかく必死に格好つけてたのに、ビーズアクセサリーが趣味とか言えなくて。オレ、本当に由良のことが好きなんだ。だからあの時、友達にお前を狙ってるって言われて、焦って告白しちゃったんだよ。いつもにこにこしてるお前の笑顔とか、控えめなとこにドキドキしてた。お前に嫌われたくなくて、余計に本当のことが言えなかったんだ」


 縋るように見上げられる。捨てないでと見上げる子犬のようだ。自己申告の通りに、落ち着いた性格ではないし、もし教室で素の彼と出会っていたとしても、たぶん由良はすぐに惹かれはしなかっただろう。けれど、一途に思ってくれている気持ちは本物だと思えた。


「やっぱり、こんなオレじゃ駄目? 好きになれそうもない?」


「……ううん。なれるかも」


「マジで?」


「うん、まじで」


「やった! オレ、由良のこと超大切にするから!」


 口調を合わせて答えると、嬉しそうに笑って達樹に抱き着かれた。まるでじゃれつく犬のような姿に笑い声が漏れる。


 イケメン彼氏はニセモノだったのかもしれない。だけど、素の彼もきっと好きになれる。いや、受け入れた時点でもう惹かれ始めているのかもしれない。




 それから、達樹は由良の前でだけ素の性格に戻るようになった。本当は彼もカップルらしい王道的なデートをもっとしたかったらしい。


「なぁ、次はあれ行こうぜ。一緒にプリクラ撮ってよ」


「いいよ。だけど使うなら、他の人に見られないとこに貼ってね?」


「中学のダチに自慢したいのに……駄目?」


「恥ずかしいよ」


「オレの彼女が可愛すぎて、ときめきでマジ死にそう」


 ふざける彼の背中を叩いて、熱くなった頬を手で隠す。好意を全開に向けられることにはまだ慣れない。けれど、以前と違って、ちゃんと好きだと伝えてくれることが嬉しい。


 二人でのんびりとゲームセンターでデートを楽しんでいると、同じクラスの男子生徒が集団で音楽ゲームをやっているのを見つけた。そっと手を引いて離れようとする。


「おっ、さっそくやりたいゲームが見つかった?」


「違うの。あそこにクラスの男の子達が……」


 注意を促そうとしたら、男子の一人と目が合ってしまった。由良はどうしたらいいのかわからずに戸惑う。


「おっ、おい、秋本と海藤がいるぜ!」


「手なんか繋いで見せつけてくれるねー」


「こんなとこでデートかよ」


 わざとらしく囃し立てられて、恥ずかしくなる。由良が俯くと達樹が前に立ってくれる。そして良く通る声で答えた。


「あぁ、そうだ。だから邪魔するなよ? 行こう、由良」


「……うん」


 堂々とした背中には躊躇いがない。守られている安心感を覚えて、由良は唖然としているクラスメイト達に小さく手を振って、繋がれた手を引かれるままに歩き出す。


 そんな姿を見ていたら、恥ずかしさが消えていた。達樹はたった一言で相手をやり込めて、由良の心を軽くしてくれたのだ。


「凄いね、一言で黙らせちゃった」


「本来ならオレもあっち側の人間だからさ、あいつ等の気持ちがすごいわかるんだよ。オレも中学の時は周りのリア充に爆発しろってよく思ってたし。ああ言われたらオレでも黙るなって」


「あのね、前から聞きたかったことがあるの」


「なになに? なんでも聞いてよ」


「どうして学校では今でも本当の達樹君を隠してるのかな、って」


「あぁ、そのことか。いきなり学校で素のオレ出されたら、クラスの奴等ギャップでびっくりするだろ。それにさぁ……」


「それに?」


「周りの奴等に、由良の彼氏がかっこ悪くなったって言わせたくない」


 達樹の苦笑に、自分が最初に引かれた彼の大人びた姿が被って見えた。


 ──そうだったのだ。最初から彼は同一人物だった。それを今、心から理解した。その瞬間、秘密を告白されてから一度も言えなかった言葉が頭に浮かんだ。


 付き合い直して彼を受け入れたのに、どうしてなのか、自分でも分からないまま口に出すのを躊躇っていた。

 時々、達樹から物言いたげな視線を向けられることはあったが、彼は何も言わずに待ってくれていた。

 その気持ちに応えたくて、由良は勇気を握りしめて彼の背中に言った。


「達樹くん……好き」


「え、えぇーっ!?」


 驚いて振り向いた彼に、気恥ずかしさで顔を熱くしながら微笑む。

 由良は同じ相手にもう一度恋をしたのだ。





題名の「ニセメン彼氏」とは、作られたイケメンという意味でした。もしかしたら、題名でピーンと来た方もいらっしゃったかもしれませんね。初々しさ爆発! をスローガンに書いていました。少しでも楽しんで頂けたなら嬉しいです。次回も違う小説でお会い出来れば幸いです。 

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