とあるモブの(自称)侍女の一日[午後編]
《AM0:00》
――――――
『完成したわ! 今回は自信作よ!』
「えぇ、完璧ですね」
今回も完璧にひどい料理ができましたね。
一緒に作っていて毎回思いますが、この女性は一体何を考えて料理をしているのでしょう? 普通は食材として到底使えそうにないものを次々に入れていくのはどうかと思います。
今回もできあがった料理はもはや料理とは思えないほど。いつも私が見かけだけは整えていますが、中身は人が食べるものではありませんよ。
『今日こそ死ぬかもしれねぇな、俺』
『いつもいつもあなたには同情せざるを得ませんね』
『イッソ死ンジマッタ方ガイインジャナイカ?』
『……それは俺に死ねと暗に言っているのか?』
『ヨクワカッタナ』
『その前に俺がお前を殺してやるよ』
どうやらこちらの未知物質の完成と同時にあちらも終わったようですね。
すいません、エリク様。お疲れのところ申し訳ございませんが、帰ってからも現世と冥界の狭間を旅してもらってよろしいでしょうか?
『味見は必要ないわね』
「そうですね」
私も命を投げ出す勇気はございません。こんなものを食べてしまったら、誰だって死んでしまうでしょう。
最近は私の中和材料として用いられる媚薬も効果が薄まってきますし、どうにかしなければいけませんね。
でも、ほぼ毎日と言っていいほどエリク様たちはこれを食べてよく生きていられますね。生への執着が桁違いです。
『今日こそエリクに認めてもらうのよ』
「……一緒に頑張りましょう」
それなら私の意見はちゃんと聞いてほしいです。
『前から思っていましたけど、あなた達はエリクさんを殺す気ではありませんよね?』
『どういう意味よ!?』
私はともかく、それに反論できる余地がありません。エリク様、よくこんなものを食べて生きていられますね。
『なんだ? まだ俺の何かが危険信号を発しているのだが?』
『【危険察知】も持っていないあなたが何を言っているんですか』
『中二病、カ?』
耳から聞こえてくるエリク様の声に、思わず笑いそうになるのを必死に堪えて私は、
「エリク様はそう簡単には死にませんよ」
そう言った途端、耳から大きな振動音とともに悲鳴が聞こえてきた。
常に死と隣り合わせのエリク様が死ぬことなんてありえませんね。
《PM13:00》
――――――
お昼ご飯も食べ終わり、うとうとしている頭を必死にたたき起こして受付に立っていると、今度は耳の尖った女性が私へと駆け寄ってきました。
『師匠! オルウェンが今日も大活躍です!』
「そのようですね」
私の弟子、リーランは興奮した様子で私に話しかけてきた。
ですが、私の弟子なら鼻息をそこまで荒立てないでもらえませんか? 女性の鼻息で興奮するようなオルウェン様ではないと思いますが。
「とりあえず落ち着いてください、リーラン」
『は、はい!』
確かに今日は聞く限りエリク様以上にオルウェン様の方が活躍していますね。しかし、それも仕方ないと言えば仕方ないとも言えますね。
今日の敵は奇襲をしてきたわけですし、奇襲に対してはオルウェン様の方が相性がいいといえばいいわけですし。
自分の望んだものだけを防ぐ【絶対障壁】ですか。エリク様の周りにはすごい人物でありふれていますね。
『今日はオルウェンにどのようなご褒美を与えましょう!?』
「夜這いはどうでしょう?」
『な、なるほど! 疲れた身体には女性の温もりですね!』
「そういうことです」
面白半分で師事しているうちに、まさかこの二人が本当に結婚することになるとは。
もしかして私とエリク様もいつか……
……いえ。ありえませんね。
オルウェン様はリーランに元に戻ってほしそうであったことですし、やはりこういう女は逆に男には好かれないのでしょうね。
『師匠? どうかされましたか?』
「何でもありませんよ。それより夜這いの仕方を考えなければいけませんね」
『そ、そうでした! 恋はやっぱり計画を大事にしませんといけませんよね!』
今日はどのようなドッキリを仕掛けてやりましょうか。
『な、なんか今危険な予感が背中に』
『どんな未来だ!?』
『今日は寝てはいけない気がする!』
『イキナリ何ヲ言ッテイル!?』
さすがは討伐隊でも活躍した【危険察知】ですね。見事に的中してきますね。危険な状況でもところ構わず未来を視てしまうとは。
『どうしますか、師匠?』
「あらゆる可能性を潰す計画を練るだけですよ」
最強の軍事を攻略するこの快感。これも私がリーランを師事する理由の一つです。
『何かヤバいです!』
『もっと具体的に言え! じゃねぇと攻撃を避けれねぇだろうが!』
『何をしてもバッドエンドの夜です!』
『ダカラ何ノ話ダ!?』
本当にエリク様と会ってから毎日が楽しくて仕方ありません。
『俺はなぜか過去を後悔しているんだが!?』
『オ前ラ戦闘ニ集中シヤガレ!』
……一番苦労なされているのはヘイゲル様かもしれませんね。
《PM15:00》
――――――
今日の仕事が終わり、エリク様の家にしんにゅ……ゴホン、帰っていると、見知った顔の二人が何やら真剣な様子で話し合っています。
あれは……カタリヌ様とレギン様?
「いかがされましたか?」
『あ、君はエリクの』
レギン様は爽やかすぎて周りが光っているように見えるほどの青年だ。立っているだけで周りの女性達が指を差して見るほどだ。さぞかし女性のファンが多いことだろう。
安心してください、エリク様。
私は誰よりもあなたをお慕いあげています故、ほんの一寸すら他の男性に心を動かすことはありません。私は見た目より中身、いえエリク様のすべてを愛しています。
『……なんだろう? 今、欲しくもないものをもらったような気分だ』
『マダ言ッテイタノカ』
『それよりジンが苦戦しています。私達も応戦しましょう』
『えぇ? 手助けしに来てまだそんな経ってねぇんだけど? 時間稼ぎだったら俺達の方が長いんだけど』
エリク様と比べてしまったら誰も勝てませんよ。
『ちょうどよかった』
また意識を向こう側に飛ばしてしまっていると、青年の隣にいる紫の鎧を着たカタリヌ様が話しかけてきた。
この人もまた美人だ。
想いを向けているのはエリク様ではなくジン様のようなので、あまり気にしてはいませんが、エリク様の周りには美人の女性ばかりが集まってきますね。
それにしても、この二人が揃って立っているだけでなかなか絵になりますね。
老若男女問わずの視線にさすがの私も少し気が滅入ってきます。
「ここで立ち話もなんですから、少し場所を移してもらえるなら話を聞きましょう」
私がそう言うと、レギン様が周りの目に気付いて頷いてくれた。
『そうした方がよさそうだ』
カタリヌ様は、別にどちらでもいい、とでも言いたそうに首を傾げる。
そんなのですから、意中の人への攻略がどんどん難しくなってくるんですよ。そして、エリク様の被害も増していくんですよ。
そう言いたくなったが、ぐっと堪えると、隣のレギン様が小さくため息をついたのだった。
……男性の人達は皆お疲れの様です。
《PM16:00》
――――――
エリク様の家に着くと、入念な掃除を始める。
結局、先ほどのお二方の話が何だったのかというと、またお姫様がお出掛け中に逃げたそうです。
彼女は私がいた頃からそうでした。
私が隠密行動のプロ中のプロでなかったら、どうなってたことか。
お二人にはお姫様が逃げ出しそうな場所をいくつか教えると、十分もしないうちに捕まえてきました。さすが、としか言えませんね。
こういう仕事も受け持ってくれている城下ギルドには、王国は頭が本当に上がりませんね。
まぁ、そんなことより、早く掃除を終わらせねばいけませんね。
エリク様達が帰りの馬車に乗ったようですし、二時間もすれば帰ってきてしまう。
であれば、私はこの家の掃除と探索、エリク様の私物をバレない程度に押収して、ベッドに私の匂いをほんの少しつけてから、一番最初にエリク様の胸の中に飛び込むとしましょう。
完璧です。
「今日もお疲れ様でした」
エリク様に面と向かって言えないので、代わりにこの家でこっそりと呟きます。
馬車に乗ってすぐに三人の寝息が聞こえてきました。
今回もジン様の活躍を讃える結果に終わりましたが、三人の活躍は私だけが知っています。
将を射んと欲すればまず馬を射よ、との言葉もあるとおり、ジン様が強大な敵に立ち向かっていけるのは、その馬を射ているエリク様達のご協力があるからに違いありません。
こんなことをエリク様に言っては「別にいいだろ。俺は別に目立ちたいわけじゃねぇし」と言われるかもしれませんが。
だから帰ってきたときは、エリク様がまた起き上がれるように私達は笑顔で迎えなければいけません。それが私達の仕事ですから。
「それでは、行きましょうか」
私の愛しき人を迎えましょう。
《PM18:00》
――――――
エリク様がギルドに帰ってくるとすぐに、鍛え抜かれたこの隠密スキルを駆使して、誰にも気付かれないようにエリク様の後ろに張り付こうとしたところで足を止めた。
しまった……。今日はエリク様に受け止めてもらう予定でした。いつもの癖で背中に向かってしまいましたが、今日は趣向を変えようと思っていたのに。
では、気を取り直して。
「エリク様、受け止めてください」
『は? うおぉっ……!』
気配をわざと現わして、エリク様の胸の中めがけて飛び込む。
いけますか?
そう思うと同時にエリク様はギリギリのところで体を半身ずらすことに成功し、私の体はエリク様に隠されていたヘイゲル様の下に――
「ダメでしたか」
もいかず、同様に半身ずらすことでヘイゲル様を躱し、美しい着地をエリク様に見せます。我ながら完璧な着地でした。
ですが、エリク様は。
『危なっ! お前、マジふざけんなよ!?』
「ふざけておりません。真面目です」
『お前が真面目なときほど俺にはろくなことが起きねぇんだ!』
『それでは結局あなたの先ほどの発言が間違っていることになりませんか?』
『黙ってろ、オルウェン! どちらにせよ、俺にはろくなことは起きねぇんだ!』
「……私で癒やして差し上げようかと」
『いるか、そんなもん! それと心を読むな!』
本当にどの反応も面白いですね。ついつい余計にからかいたくなってきちゃいます。
『何を考えているかまったく読めねぇ表情していやがるから余計に怖いんだよ』
エリク様が私の心を読めなくても私は一向に構いませんよ。代わりに私がエリク様の心を読むだけですから。
『エリクさん、お帰りなさい』
『ただいま、シルヴィ』
『えりく~、遊ぼ~』
『おぉ~、いいぞ。ならヘイゲルも呼ぶか』
『こら、リン。エリクは疲れているからわがままはダメよ。私の料理を食べてゆっくりしてからね』
『それは俺を殺す気か!?』
『オルウェン、今日は楽しみにしてなさい』
『わ、私の【危険察知】が反応したのはこれか……!』
『エリク、明日暇ならまた稽古に来てくれないかい?』
『いやだよ、面倒くせぇ。こっちは疲れてんだよ』
『ついでに、少し私も相談があるのだが』
『テメェは知らん。勝手に悩んでろ』
エリク様の周りには人がたくさんあふれていて、誰もこれも変わった人達でいっぱいです。
自分で言うのも変ですが、私という強い個性も彼らの前では何ともないのでしょうね。
それでも、私は。
「エリク様、お風呂の準備ができていますよ。さぁ、一緒に」
『断る! というか、俺の家の鍵を勝手に作ってんじゃねぇ!』
エリク様の隣にずっといるだけ。
それだけで私は幸せ者でございます。
第一章を加筆修正しました。
詳しくは第十五話を見ていただければ。タイトルですぐにわかります。
さらに登場人物欄も少しだけ編集しましたのでご確認のほどお願いします。
P.S. ミレアが個人的に好きで書いてみましたが、どうだったでしょうか?




