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モブヒーロー ~モブで視る英雄譚~  作者: 甲田ソーダ
第一章 ~モブのお仕事~
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モブの決戦

 『時間稼ぎ』と言うと、簡単そうに聞こえるが、これがなかなか難しい。



 そもそも、時間稼ぎするには、ある条件を満たしていなければいけない。



 状況にもよるが、基本的には相手と自分の差が離れすぎていない、という条件だ。



 相手よりそもそも強いのであれば、時間稼ぎするまでもないのは当然のこと。



 時間稼ぎをする以上、強者を相手にしなければいけないことが絶対となり。



 もちろん、その前に自分が死ぬわけにもいかないわけで。



 さて、ここで質問なんだが。



 相手は万全状態の自分より強いと思われる魔物。



 それに対して、魔力の八割を使い切り、体もボロボロで逃げるだけでもやっとの俺。



 万全の時を十割とすれば、今の戦闘力は一割くらいといったところか。



 さぁ、この状況でどうやって時間稼ぎしろと言うのだろうね!?



 バカじゃねーのっ! バーカ、バーカ!



「早く何とかしやがれ!」



 人任せがなんだ。こっちはもう満身創痍なんだよっ。



 しかも、こうしている間も最後の【アーマーソルジャー】が学習を行い、俺の動きを読もうとしてきやがる。



 あっちが今どうなっているのかは全然わからないが、断言できる。



 状況的にも、実力的にも、分が悪いのは俺の方だ。



 動くだけで悲鳴をあげる俺の体に比べ、敵さんは【元気百倍アーマーマン!】みたいにまぁ動く!



 相手の攻撃を躱すには、もう俺の体だけではどうにもならず、足の裏を爆発させる。



 そんなことをしているうちに、俺の魔力がもう一割を切ってしまった。



「今回ばかりは、マジで命の危険を感じるぜ……」



 走馬燈はもう何度も見た。



 どうせなら俺もチート能力にでも目覚めたいぜ、と何度思ったことか。



 だが、そんな奇跡は俺には起こりえない。



「うおっと!」



 足がもつれて、体から倒れる。



 おかげで、敵の剣が空振りに終わったが、それを喜んでいいのか、よくないのか。



 こんな体になっていなければ、そんな状況になることもなかったというのに。



「……はぁ、はぁ。早くしてくれよ……。こっちはとっくに限界が来てるんだよ」



 体が早く休みたい、と要求してくる。俺だって早く温かい布団で眠りたいよ。



【ファイナルアーマー】は知能こそないものの、これまで倒されてきた【アーマーソルジャー】の経験や、それまでの俺達の魔法を模倣したりと、最適解と思った行動をする。



 それは今も行われていて、事実上、知能がないとは言えない。



 まるで人工知能を相手にしている気分だ。



 ときにとある冒険者の動きを再現し、ときに俺の攻撃に対して火属性の耐性魔法を使って、溶けないようにしてくる。



 溶けなければ、地面とくっつくこともないわけで。



 まさに、完璧な攻守一体を身につけている相手にここまで粘れている俺を誰か褒めてほしいものだ。



「たくっ。召喚に使われた魔力を使って、様々な魔法使うとか。こいつ、チートにもほどがあるだろ。つうか、こういう敵っていうのは。普通であれば、どっかのチート持ちの主人公が戦うような相手じゃねぇのか……? モブが戦う相手じゃねぇっての……」



 息切れを起こしながらも必死に愚痴をこぼすが、それで状況がよくなったら苦労しない。



【ファイナルアーマー】は一瞬にして距離を詰めようと飛んでくる。



 それと同時に俺は一瞬にして後ろへ下がろうと足に力を入れる。



 斬り合いではもう粘れないと判断し、相手が機械的に動くことを利用しよう。



 危険な賭けだが、もしかしたら同じことを繰り返してくれるかもしれない。



 しかし。



「ぐぅっ……。クソッ!」



 とっくに限界を越えた足もこれ以上は無理だと痛みをあげる。



 そんな一瞬を【ファイナルアーマー】は見逃さない。



 剣を横に構えると、何もない所で剣をなぎ払う。



 その動きを俺が知らないはずがない。



 おい、待て。ふざけんな。その技って……!



「があぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 俺は足の痛みを無理矢理押し込むように横へと跳ぶ。



 すると、俺がいたところにオレンジ色の亀裂が入り、そこから爆発が起きた。



 その衝撃でさらに飛ばされ、着地に失敗する。



 そのときだった。



「ぐぅっ……!」



 すぐにわかってしまった。



折れたか・・・・……!」



 ついに支えとなる左足が痛みと疲労に屈してしまった。



 いや、俺からしてみれば、よくもここまで耐えたものだと褒めてやりたいくらいだ。



「さて、状況はどんどん悪化していくばかり。これはもう、時間稼ぎすらも無理な気がしてきたぞ」



 あの技は俺が五十体近くの【アーマーソルジャー】を倒すときにたった一回しか使わなかった技を模倣されるとは。



 アイツの分析能力は俺の予想をはるかに超えている。



 何よりも、俺が十年かけて編み出した秘技をたった一回で模倣させられるとは。



 実力以上に辛いものがある。心が折られそうだ。



 体よりまず精神から、という意味であの技を使っているのだとしたら、十二分に成功したと言えるだろう。



「あぁ、もう!」



 フラストレーションだけが溜まっていく。



 何もできない自分より、何にもしてくれないジンに怒りの矛先が向かっていく。



「こんなことなら、俺が先に行けばよかった」



 と、言ってみたものの。だとすれば、こっちが完全に全滅していただろうな。



 アデラントも予想外だったのかもしれない。



 召喚した魔物がここまで強くなるなんて思っていなかったことだろう。



「さぁて、どうしようか」



 爆発の煙のおかげで、相手は俺のことを見つけられていない。



 今のうちに、なんとかしたいところだが、足がこんなのじゃな。



「イチかバチか……やってみるのも手かもしれねぇよな」



 勝機はゼロ。



 けど、どうせ死ぬならせめて納得した形で死にたいものだ。



 いやはや。



 死亡フラグなんて言うもんじゃなかったよ。今更になって後悔する羽目になるとは。



 そうこうしている内に、突風によって煙が取り払われる。



「【ファイナルアーマー】はホント、何でもありのチート野郎だな」



 俺の姿を見つけると、追撃をかけるように飛び出してくる。



 俺はもう動けない。応戦する以外の手は残されていない。



 お互いの剣がぶつかる瞬間、お互いに剣がオレンジ色に光った。



 魔力操作では経験の差だろうか、俺の勝ちであっても、腕力と体重移動で圧倒的に負けていた。



 当たり前だ。こっちは座っているのだから、力なんて入るわけがない。



「ぐっ……!!」



 地面を転がされ、土埃が俺を覆う中、それでも【ファイナルアーマー】は足を曲げて追撃の準備をしているではないか。



「鬼か!」



 それを許したらもう後はない。もう少しだけ耐える道を!



 転がりながらも、自身の目の前で爆発を起こし、自らの爆発で吹き飛ばされる。



 相手が一歩では詰められない距離に行くため。



 火属性の耐性魔法をかけていても、爆発の風圧は防ぐことはできず、一瞬だけだが意識も飛ばされた。



 いつ死んでもおかしくないと言ってもいい。



「ごほっ、ごほっ!」



【ファイナルアーマー】と戦ってもう三十分経過しているだろうか。



 そんなことを考える余裕もない。



 すると、ふと。手に何かの触感が伝わり、見てみると、そこは多数の冒険者達が倒れていた。



 いつの間にか、皆のいるところへ戻されてしまったか。



 だが、意識が遠のかないようにするのに精一杯で、いつもの悪態もつく余裕がなんてない。



 まだか、まだか……。



 そんなことを考えながらも剣を構える。



 よくもまぁ、ここまでやる、と自分でも思う。



 しかし、俺の頭はもうこれっぽっちも回っていない。



 ただ、剣を握るので精一杯なだけだ。



 人は時間を気にすると、体感時間が長く感じると聞くが、今の俺はまさにそれだ。



 ものすごい早さの戦闘でもある分、体感時間が伸びている理由もあるにはあるが、ジンによる戦闘終了の知らせを待つことの方が一番の理由であった。



 一分が一時間にもにも感じられる。



 長い、長い……。まだか、まだか。いい加減にしてくれ。



 心からの叫びであると同時に悲鳴でもあった。



 朦朧とする意識の中で、俺は覚悟を決めた。



 敵を倒す覚悟ではない。それは主人公が持つべき物だ。



 俺が決めたのは死ぬ覚悟だ。



 どうせ死ぬなら相手に苦汁をなめさせるのも悪くない。



 アイツにそんな機能も表情も備わっていないことは知っている。



 それでもやらなければいけない。いや、俺がそうしたい。



 自己満足で終わっても構わない。それだけで俺は笑って死ねる。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 剣へ残り一割の全魔力を込める。ついでに、祈りも込めておこう。限界を越えるほどに。



 剣が血のように、呪われたように、真っ赤になった。



 それを見て【ファイナルアーマー】も氷の鎧を作り、火属性の魔法耐性をほどこし、さらには剣を虹色にまで光らせる。



 端から見ると、さながら、呪われた戦士を討伐する聖騎士のようにも見えるかもしれない。



 こんなところでも主人公に見えないとは。



 さすがは俺。



 自嘲気味に少し笑った後で、俺は敵の方へと最後の右足を伸ばした。



 お互いの距離は数メートルしかない。



 たった一歩で決着がつく。最後の一歩。



「……はぁっ!!」



 俺は剣を水平に構えて、伝説の騎士を睨みつける。



【ファイナルアーマー】も腕を引いて剣を突くような体勢をつくる。



 勝っても、負けても恨みっこなしだ、と言いたいところだが、どちらが勝つかなど、わかりきったことだ。



「いい人生だった」



 その言葉を最後に、俺と【ファイナルアーマー】は同時に地面を蹴り上げ、加速した。



 真っ赤な剣と虹色の剣。



 二つの剣が交差する――

























「……………………………………………ん?」



 覚悟していた痛みが一向に来ない。



「は?」



 何が起こったのかわからず、首を回転させてみると【ファイナルアーマー】の剣がきれいに斬られているではないか。



「って、いでででででっ!!」



 呆気にとられていたせいで、またしても着地に失敗する。



 だが、今はそんなことどうでもよかった。



 慌てて【ファイナルアーマー】の方を振り返ると、伝説の聖騎士はガシャリと地面に倒れ込んだ。



 そして、剣から粉のような物が出ていくと、それを追うように体も粉へと変わり果てていく。



 ……あぁ。なるほどな。



「はぁ、はぁ。ったく」



 粉になっていくのを見届けた後、大の字になって空を見上げる。



「もう……夕方か」



 短いようで長いのか、長いようで短いのか。



「この様子だと、すぐに暗くなるか」



 俺の真っ赤に染まった剣も、今ではもう銀の輝きを取り戻している。



「……なんていうか、まったく」



 主人公ジンがアデラントを倒してくれたおかげで、俺は今こうして生きている。



 わかっている。わかっているのだが。



 最後にこれくらいは言ってもいいだろう。






「……死亡フラグなんて嘘っぱちだぁ」






 結局モブはモブらしく、ボスには勝つことはできず、かといって死ぬこともないってことか。



「……あぁ、まったく。俺って奴は」



 モブをやってんなぁ……。



 そんなことを最後に思って、俺は意識を手放した。




次の回は後日談なので短くなるかもしれません。


2018/02/23 改稿

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