第三章 因果
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
西乃国一行が北盧国に入って3日目、もう話題がつきたかのように女性3人組の馬車の会話も途切れた頃、翠蘭が、ためらいながら劉煌の9歳までの話をそれとなく白凛に尋ねると、女性3人組馬車の中はまたパッと明るくなった。なぜなら白凛が嬉々として彼女が劉煌と初めて会った時の話から語り始めたからである。
すると、それまで会話に積極的でなかったお陸まで身を乗り出して白凛の話を聞き始めたではないか。
これには翠蘭も白凛も驚いて前のめりになっているお陸を凝視すると、お陸は突如姿勢を元にただし口を開いた。
「アイヤー、だってお嬢ちゃんの9歳までの話って全然知らないから。」
そのお陸のセリフに翠蘭と白凛は間髪入れず同時に素っ頓狂な声で叫んだ。
「お嬢ちゃん?!」
「お嬢ちゃん!?」
眉を顰め驚愕している二人をよそに、劉煌のおかげ(執刀はドクトルコンスタンティヌスだが、、、)でツンと高くなった鼻をさらにツンツン上げて、お陸は自慢げに続けた。
「そうだよ。あたしにとっちゃ劉煌陛下はお嬢ちゃんだ。なんてったってあたしの技を継承している正真正銘のくノ一だから!」
白凛:「・・・・・・」
翠蘭:「・・・・・・」
お陸がまだ得意げに鼻をツンと上げている中、白凛と翠蘭の目は、前と打って変わって完全に座っていた。
しばらく馬車の中は無言になったが、白凛が気を取り直してコホンと1回咳払いすると、やおら、話の続きである”劉煌物語6歳編”を語り始めた。
「そうかい。あの大きいお兄ちゃん達を助けたから、あの3人はお嬢ちゃんに忠誠を誓ったんだね。いい話じゃないか。泣けてきた...」
お陸は、5年前の出羽島での出来事を思い出すと、自らの袖でそっと涙を拭った。
ガタガタ揺れる狭い空間にいながら白凛は、どこを見ているのかわからないようなうつろな目で呟いた。
「うん、あの時李亮は確かにそう言ったけど、まさか本当にあの後十数年経っても、太子兄ちゃんに忠誠を誓ったままだとは思ってもいなかったわ。」
お互いの立場上、敵対しているかもしれないと疑いながらも、二人肩を並べて戦ってきた頃の記憶が脳裏をかすめた白凛は、そんな彼が今では自分の夫になっていることに、人生の不思議な巡りあわせを感じずにはいられなかった。
「そう言う、将軍さんも、何でお嬢ちゃんについたんだい?あの子あの3人以外に味方がいなかったじゃないか。」
お陸のこの質問で我に返った白凛は、間髪入れずに苦笑しながら答えた。
「だって、身内だって呆れていた私のことを認めてくれた初めての人よ。ありのままの私のことを笑わないどころか、手助けまでしてくれた。だから私にとって、太子兄ちゃんは一番の恩人よ。5歳で初めて会った時から誓っていたの。太子兄ちゃんを私が命がけで守るって。太子兄ちゃんを守って死ねるなら本望だわ。」
「おや、大きいお兄ちゃんが聞いていたら大変だよ。」
冗談半分にそうお陸が茶々を入れても、白凛は大まじめに答えた。
「あら、そんなの百も承知よ。だって五剣士隊の掟だもの。」
お陸:「へえ、こりゃ、変わった夫婦だ。」
翠蘭:「五剣士隊?」
お陸と翠蘭が同時に言葉を放った。
白凛はお陸を無視し、翠蘭に向かって本当に嫌そうな顔をして答えた。
「だっっっさいネーミングでしょぉ?李亮のセンスって最悪よね。さらに悪いことにさ、それに太子兄ちゃんが同意しちゃったから、あとの3人もしぶしぶ従わざるを得なかったのよ。」
そう言いながらも「そのネーミング最高だ!」と興奮して目を輝かせていた6歳の劉煌を思い出した白凛は、思わず一人クスっと笑った。
しかしその横で簫翠蘭は、無視されたことを蒸し返し白凛をおちょくるお陸と、おちょくられていることに気づいていないのか大真面目な顔をして真剣に答えている白凛との不毛のやり取りを聞きながら、6歳にして既に計り知れない器だった劉煌に思いをはせていた。
”あの方のことをもっと知りたい......”
来年には20歳になり、劉煌とは離れ離れになることがわかっている翠蘭は、劉煌と2人で薬草摘みに行ってから、自分の心の中に大きな手綱を作った。そしてこと劉煌とのことになると、自分で必死にその手綱を自分の方向に引いて暴走を止めようとした。でもふとした拍子に、いつの間にか手綱を緩め、全く作った覚えのない鞭で馬の尻を叩く勢いで鞭を持つ手を思いっきり振り上げていることがある。今がまさにその時だった。簫翠蘭は我にかえると、また手綱を思いっきり引いて自らの心にブレーキをかけた。
翠蘭の内側でそんなことが起こっていることなどおかまいなしに話し続けている白凛とお陸を見ながら、彼女はこのメンバーでは劉煌以外の話題にはならないことを悟ると、この馬車にあとどれくらい留まらなければならないのかと、一人絶望的な気分になっていた。
ところが、突然、それまで言い合っていた白凛とお陸がピタッと口をつぐんだかと思うと、二人はほぼ同時に自らの武器を掴んで馬車の外へバッと飛び出した。
急停車した馬車に一人取り残された翠蘭が、席で固まっていると、外からみょうちきりんな訛りの男の声が響いてきた。
「おお、リク嬢!こんなところでお目にかかれ~るとは、さて~はドクトル・レンは噓をつい~たのだな!西乃国の皇宮にい~たのに~知らないな~ん~て。」
北盧国にいるのに、あまりに稚拙且つ変に訛っている北盧国語が耳に入った翠蘭は、先ほどまでの恐怖モードから一転して興味津々になり、そっと馬車の前のカーテンを少しだけ開けて外を覗いた。
すると、なんと上から下まで黒づくめで、大きなつばの黒帽子をかぶり、ご丁寧に目元まで黒のマスクを着けている怪しさ満点の人物と、彼女付きの女官という名目のボディーガードのお陸が、前の馬車の屋根の上で、じゃれあって、、、もとい至近距離だというのに、お互いに向かって叫びあっているではないか。
その二人の異様な雰囲気と、それを見守る人々、、、いつの間にか翠蘭以外は皆馬車から出て、馬車の上の痴話げんかを地上から鑑賞していた、、、のほのぼのとした空気が流れる中、何が何だかわからない翠蘭は怪訝そうな顔をして、馬車から降りると白凛の横にそっとついた。
馬車の上では、下にそんなギャラリーがいることなどお構いなしに二人だけの独特の世界に入り込んでいるお陸とゾロンが、飽きもせずちぐはぐな会話をまだ続けていた。
「お坊ちゃん、全然北盧国語のレベルがあがってないじゃないか!」
「北盧国語~がぁ、完璧~なリク嬢が側にいた~ら問題あ~りません、、、ね。」
「いつまで夢みとるんじゃいっ!」
「♬イツゥ~イツマデモォ~~♬」
とうとう片膝をついて両腕を広げ羅天語で、下手っくそなセレナーデの歌唱に入ったゾロンに、完全に堪忍袋の緒が切れたお陸は、あの呂磨のバルコニーにいた時と同じように、、、ただ呂磨の時とは違って今はもう手元に少なくなった、、、なけなしのドクトル・コンスタンティヌスの遺作であるポトックスを吹き矢の先につけるべく懐にそっと手を入れた。
”まったく、残り少ない貴重なしわ取り薬をこんなことに使わせやがってっ!”
怒り心頭のお陸が何を企んでいるのかわかった、地上でニコヤカに車上の寸劇を鑑賞していた劉煌は、今までのにこやかな見物客モードから一転し、真っ青になると、文字通り飛び上がって馬車の屋根上の二人の間にバッと入った。
「太子兄ちゃん!」
それを見て慌てた白凛も即座に続いて飛び上がり、劉煌を守るような形でゾロンと劉煌の間に着地した。
勿論地上で白凛の右隣にいた李亮も、白凛が飛び上がった瞬間、慌てて彼女の名前を叫びながら後を追って飛び上がったのだが、それを見た白凛は、ハッとすると、飛び上がってきている自らの夫である李亮の腹を思いっきりバーンと蹴飛ばして叫んだ。
「あんたまで乗ったら馬車が壊れる!」
最愛の妻に足蹴にされ蹴落とされているのに、李亮は目をカッと見開いて「たしかに!」と叫びながら落ちていった。
しかし、さすがに大将軍を標榜するだけあって、すぐに李亮は空中でくるっと回転すると見事にその足で地面に着地した。
そんな夫婦漫才を鑑賞する余裕もなく、劉煌は劉煌でゾロンとお陸の間に入り必死の形相でお陸に懇願していた。
「ま、待って、師匠!」
しかし、ドタマに来ているお陸に、それは、まっ・・・・・・・・たく通じない。
「ええい、うるさい!お嬢ちゃん!そこをどくんだよっ!」
現在は立場が逆転して、劉煌の下で働いていることをすっかり忘れたお陸は、上司を無視して完全にゾロンにとどめをさすつもりでいた。
「国家間の問題でゾロンと話しができないと困るのよ!だから(吹き矢を)吹くのは話が終わってからにして!」
劉煌の渾身の叫びで冷静になったお陸は、ぶつぶつ言いながら表向きしぶしぶ、でも内心ホッとしながら大事なポトックスを懐にしまいなおした。
「まあ、お嬢ちゃんがそういうなら仕方ない。今回は特別に見逃してやろう。」
するとゾロンが今度は羅天語で劉煌をなじってきた。
「ドクトル・レン、酷いじゃないか。リク嬢がどこにいるか知らないって言ったくせに!」
声が出なくなるすんでのところを救ってもらったことに気づいていないゾロンに、毎度のこととはいえあきれ返りながら劉煌はため息まじりに羅天語で答えた。
「本当にあの時はどこにいるのか知らなかったのよ。」
「そんな子供だまし信じると思う?」
ゾロンは偉そうに、西乃国の皇帝に向かって口をすぼめてみせた。
劉煌は文字通り頭を抱え首を振りながら呟いた。
「だって、本当のことだもん。」
これには、地上で見物していた張浩と翠蘭が、馬車上の男二人が何を言い合っているのか全くわからず困惑した表情を浮かべた。それを見た李亮が張浩の方をチラっと見ながら口を開いた。
「羅天語ですからね。何を言い合っているのか全然わかりませんよね。」
「ら、羅天語?!」
張浩は驚愕して思わず李亮の方を振り返った。
しかしそれ以上に翠蘭は、その場で愕然としていた。
”あの方は羅天語も話せるの?!”
彼の器の大きさだけでなく、彼の持っている引き出しの数に茫然自失となっている翠蘭に向かって、何を思ったのかゾロンが、顔を正面から突然下に変え、つたない北盧国語で話しかけた。
「張麗嬢、あなた~も、あのと~き、一緒にいました、、、よお、、、ね?」
全く思いがけず、自分に話が振られた翠蘭は、口を半開きにしたまま咄嗟に馬車の屋根の上にいる劉煌を見上げた。
その翠蘭のPANIC&HELPの眼差しを受け、劉煌はすぐに翠蘭の前に、まるで彼女の盾になるかのように飛び降り、それに続いて白凛も翠蘭の横に飛び降りた。
「ゾロン、やめて。彼女を巻き込むのは!」
身振り手振りも入れながら劉煌は羅天語でそう懇願した。
それと同時にお陸がゾロンを窘めた。
「お坊ちゃん、あんた間違っとる。あたしがお嬢ちゃんと再会したのは中秋節の時だ。それまではあたしがどこにいるかお嬢ちゃんも知らなかったんだ。」
この言葉に口をとがらせてゾロンはお陸をなじった。
「どぉ~して、私~のこと~は無視した~の、、、ね?」
「無視じゃないよ。あたしがいるのをお嬢ちゃんがみつけただけ。お坊ちゃんはあたしのこと見つけられなかっただけ。」
そう言い残し、且つ、ゾロンもそこに残してお陸は馬車の上からパッと飛び降りた。
この真っ当且つ彼としては想定外の話に、ゾロンは、先ほどまでの派手な立ち回りから一転してショックのあまりその場でorzで固まり、絶句してしまった。
”ああ、こんなに愛しているのに、どうして私はリク嬢を見つけられなかったのだろう?”
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