第三章 因果
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
あら方の予想を覆すことに、未熟児で生まれた中ノ国の皇子は生き続けた。
しかも、忖度なしで、日を追うごとに誰の目から見ても、しっかりしてきているのが明らかなのだ。
医学的に、生命力というものが本当にあるかどうか、意見は真っ二つに分かれているが、それはそれに異を唱える側をもってしても、この皇子の姿を見れば、たしかに生命力というものは存在していると、考えを変えるに違いないと思われるほどだった。
勿論彼にはまだまだ人工子宮が必要とはいえ、生後7日目には彼に関わった3か国のトップクラスの医師団全員、よほどのことが無い限り、この皇子は生き延びるだろうと予測した。
そしてそれは、2000年先の医学を実践していたドクトル・コンスタンティヌスの元で24/7修行していた、千年に一人の天才劉煌が最初に予想した通りだった。
うまい具合に東之国と中ノ国間の交渉も順調に進み、成多照挙が護送車に乗せられて中ノ国に向かった翌朝、予定通り劉煌は皇子が生まれて8日目の早朝、東之国の皇帝に名残惜しまれながら東之国皇宮を出立した。
男性3名すなわち劉煌、李亮と張浩、そして女性3名、白凛、お陸と簫翠蘭を乗せた2台の馬車が、西乃国禁衛軍と皇輝軍の兵士に守られ、結納品の馬車8台、東之国の物産品荷車3台、それから何故か誰も乗っていない馬一頭(雷寿丸)と共に西乃国に向け、行きとは逆に北に向かって馬を走らせ始めた。
中ノ国の政情が不安定なことから、急遽北盧国を回って大回りに帰国することになったが、李亮が事前に北盧国と話しをつけていたことから、北盧国への入国は思いのほかスムースに行った。
それでも東西に長い北盧国の首都は西乃国の真北に位置しているため、しばらくは馬車を走らせていても北盧国の皇宮関係者には会うこともないだろう。
道中、男性軍は馬車の中で黙って寝ていたが、女性3人組の馬車の中は会話が活発だった。
とりわけ翠蘭と白凛は、翠蘭の記憶が戻っていないとは思えないほど意気投合し、とめどなくたわいのない話をし続けていた。
そんな和気あいあいとした西乃国への帰国道中とは対照的に、東之国と中ノ国の国境では、両国軍が、互いに一歩も引かず同じ力量で睨み合っていた。
しかし両軍の後方、国境の西側と東側とでは、カオス度合いが全く異なっていた。
国境の東側には関係者以外は全くいなかったが、反対側には国境近辺に住む中ノ国の住民が、突然の軍隊の凱旋に完全にパニックになっていた。
それは、これに先立ち、東之国側は、国境付近の住民を守るために、国境から数Km内側の地点に全員避難させていたのだが、中ノ国側は住民に何も知らせていなかったからであった。当然突然自分たちの村に大群が地響きと共にやってきたことで中ノ国側の国境付近の住民はすっかり肝をつぶしていた。
そんな中、整然とした東之国側にて護送車という名の罪人車から中ノ国の皇帝が降ろされ、まさに国境の真上で中ノ国軍に彼の身柄が引き渡されようとしていたのだ。
恐れおののき、何事かと様子をうかがっていた中ノ国の民達が目撃したのは、罪人車から降ろされた髪はボサボサで無精ひげを生やしたひょろひょろとした男と、彼の後ろにいる鎧兜を身にまとった人物が、中ノ国のこれまた将軍かと思われる人物に向かって大きな声で中ノ国の皇帝の東之国内での御乱心に対する遺憾の意を滔々と語っている姿だった。
中ノ国の皇帝の今回のやらかし事件は、まだ国境付近まで噂は飛んできていなかったが、わずかに数か月前、同一人物が西乃国の若い女性拉致未遂事件を起こしたという噂は、国中で知らない者はいなかった。だから彼らとしては、東之国の代表の話があながち嘘八百とは思えず、皆心の中で
”ああ、うちの皇帝またやらかしちゃったのか...”
と納得してしまったのだった。
そんなギャラリーの冷たい視線を感じたのか、はたまた彼らのボスである中ノ国の皇帝を早く皇宮に連れ戻したいからなのか、中ノ国軍は、彼らの皇帝が引き渡されるや否や、文字通り踵をかえし、東之国へのいとまの挨拶もそこそこに、逃げるようにしてその場からいなくなった。
ということで、東之国軍は、中ノ国から何か攻撃があるのではないかと懸念していたが、それは杞憂に終わり、罪人=隣国の皇帝の引き渡しはあっけないくらい恙なく終了した。
東之国皇宮に戻ってきた将軍からその報告を受けた皇帝:簫翠袁、その実は彼の従兄である簫麒麟は、ホッとしつつも、それでも油断することなく全員配置につくように命じた。
まさか、相手側が敵意を見せていないのに非常事態に備える命が出たことに、将軍は驚きをかくせず、つい「そ、それは、、、」と口からこぼしてしまった。
劉煌から将軍がそうポロっと口にするだろうと言われていたことを思い出した麒麟は、冕冠から垂れさがる18旒の糸が自らが思わず苦笑いした反動で左右に軽く揺れる中「備えあれば憂いなしだ。」と、なんとか相手に表情を見せずに答えた。
「はあ。」
劉煌にアドバイスしてもらった通り、麒麟は、中ノ国に気づかれないよう国境から10Kmほどの首都:平京よりの花火職人の部落に、兵士たちを変装させて待機させることにしていた。それでも常に訓練をしていれば、いつかは中ノ国にばれてしまうだろうが、それでも平京までの防波堤として大いに役立つだろう。
”今は中ノ国の龍もいなくなったからよいけれど、もしあの照挙殿が龍に東之国を叩けと命じたら、同等に戦える力を持った存在は東之国にはいないのだ。
この3か国の中で一番不利な条件なのだから、せめて軍事力は倍にしておかないと。”
責任感の強い損な性格に生れた麒麟は、東之国最後の皇帝の名前が自分の本名ならいざ知らず、可愛がっていた仲良しの従弟である”簫翠袁”になることだけは絶対に避けたかった。
「貴殿が言いにくいのであれば、朕が直接現地に赴こう。」
今迄は悪く言えば摂政の傀儡だったこの若き皇帝が、いざ国の危機となった途端、果然存在感を発揮し、弱腰の摂政を退け真の皇帝としての力量を見せつけてきていることに、将軍は圧倒され、完全に麒麟のペース引き込まれてしまった。
”なんと、自ら兵士らの士気を上げる意気込みであられるとは!こ、このお方は本当に天子なのだ!”
「ははあ!」
先ほどのあいまいな回答とは打って変わり、将軍は麒麟の前に勢いよく魂からひれ伏した。
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