第二章 逸脱
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
「翠蘭殿、大丈夫か?」
優しくて懐かしい男性の声の響きに、ハタと我に返った翠蘭は、その声の主を見上げた。
いつの間にか、翠蘭はそこで蔵書をギュッと握りしめたまま立ち尽くしていたのだ。
「あ、、、はい。」
「麒麟殿が戻られたら二人で探されるといい。」
”二人で?”「陛下は?」
「朕は小春を診てくる。」
翠蘭は、まためまいがしたものの、気力でそれをグッと抑え劉煌に告げた。
「いいえ、陛下、中ノ国の皇后の御様子こそ、私が診てまいります。そろそろ授乳の時間ですし。」
自らの心の闇を、劉煌にこう答えたことでまたしっかりと観てしまった翠蘭は、自分で自分をノックアウトしてしまったことに気づいていた。
”だけど、なぜかどうしても嫌なの。あの二人を二人っきりにさせるのは、、、”
さらに蔵書を握る手に力が入ってしまった翠蘭は、そのまままた下を向いてしまった。
”翠蘭、こんなことを気にしている場合じゃないわ。早く蒼石観音を見つけなきゃ。しかも2つも、、、”
気を取り直して彼女はまた別の蔵書を開いて読み始めた。
そこに麒麟が手に聖旨を持って飛び込んできた。
劉煌はそれを一目見ただけで蒼石観音は入っていないと見破った。
案の定麒麟が持ち手を外してみてもそこに何の細工も見られなかった。
翠蘭も露骨にガッカリしながらも、中ノ国皇后の様子を診るために経易坊に戻っていった。
「ああ、いったいどこにあるんだろう?」麒麟はもがいた。
そしてこの場の探索は横に置いて、ぶつぶつと言い始めた。
「西乃国の場合は、劉煌殿が皇太子の時に1体渡され、それにもう1体の場所が示されていた。つまりもう1体は皇帝が持っていた。そうだ、劉煌殿、3体目の最後の1体はどうやって見つけられたのですか?」
”し、質屋で見つけたとは言えぬ。しかも蘭蘭が金に困って質入れしていたなんて、絶対に口が裂けても言えぬ、、、”
そう思いながらもお陸に鍛えられた劉煌はさらっと皇宮に飾られていたと嘘をつき、さらにこう言ってその話を無理やり締めた。
「だからその分が東之国では翠蘭殿に預けられていたということなんだ。」
麒麟は、親指の爪を噛みながらまた部屋を右往左往してブツブツと彼の考えをまとめて行った。
「先帝は1体は蘭姉ちゃんに預けた。それならきっと袁袁にも1体託していた。そしてもう1体は先帝が皇宮内のどこかに保管していた。。。そうか、やはりここが一番怪しい。」
彼はそう結論付けると、再度一から丁寧に部屋の中を見ていった。
”先帝、先帝、先帝、、、いつもどうされていたかな。”
先帝を偲びながら、まるで目の前に彼が座っているかのように麒麟は机の前でひれ伏し叩頭した。
麒麟が頭をあげ、改めて机の上を見た時、彼はなんともいえない違和感を覚え、眉をひそめた。
”なんか、違う、、、”
麒麟はふと机の上の硯が目に入った。
”あれ?先帝って左利きじゃなかったっけ?”
向かって左手にある硯と筆立一式に違和感を覚えた麒麟は、机の裏側にまわり、彼の伯父が座っていたであろう位置に座り込むと、それらを反対側に置きなおした。
すると、途端にゴーという音と共にカラクリが動き始め、机が音を立てて沈み始めた。
劉煌は咄嗟に机の前にいる麒麟を抱きかかえ、彼を守るようにして八角円堂から飛び出した。
しかし、八角円堂を外から見ている分には何も変化が無く、しばらくそこで見ていた彼らは、意を決してまた屋内に戻るため外階段を登った。劉煌と麒麟が扉から中をそっと覗くと、なんとあったはずの机が無くなっているではないか。
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