第二章 逸脱
架空の国、架空の時代
9歳で叔父の裏切りにより国を追われた西乃国皇太子:劉煌は、亡き父の遺言である蒼石観音の秘密を解き、幼馴染たちの協力のもと22歳で敵を討ち祖国で即位した。
だが、12年想い続けてきた初恋の人:小春は、中ノ国の皇后となり、失恋の痛手から劉煌は祖国復興に邁進する。そんな中巡り合った女医に、劉煌は知らず知らずのうちに心ひかれてしまうが、彼女の正体は東乃国の皇女で、彼と同様国内の乱から逃れてきたことを知る。彼女の姿に過去の自分を見た劉煌は、彼女を安全に祖国に帰すことに成功するが、正式に彼女を西乃国の皇后と迎えるにあたり、思わぬ妨害が入ってしまった。
劉煌に向けられた刃を身を持ってかばった彼女は一度絶命し、フェニックスの叡智で蘇ったものの、何故か劉煌と劉煌にかかわる人たちに関する記憶を無くしてしまい、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
幸い鍵は絶対取られないという前提で作ってあるようで、室内を探索しても外階段のような仕掛けが出てくるようには感じられなかった。それでも劉煌は懐剣を投げたり、複数の人間が入って問題ないかを米俵を外から持ち込んで調べたり、部屋の中で飛んだり跳ねたりしながら仕掛けがないか入念にチェックしてから簫家の二人を屋内に招き入れた。
血眼になって探している麒麟とは異なり、翠蘭は自分が探すと言った割には、探すというより机の上の置物を手に取っては、ゆっくりと中を確認し、まるで故人を偲んでいるかのように劉煌の目には映った。既に建物一周り探し終わった麒麟は頭を抱えて座り込んでしまった。
「ここにはないのか?それならいったいどこにあるんだ。」
焦りと失望でうなだれている麒麟に、劉煌は励ますように彼の肩をポンポンと叩いた。
「麒麟殿に朕の経験をお伝えしよう。朕は、蒼石観音がずっとどこにあるかわからなかったのだが、実は自身で常に持ち歩いていたのだ。父は亡くなる直前、朕に聖旨を渡したのだが、なんと蒼石観音はその聖旨の持ち手の中に入っていたのだよ。だけど、父はそのことを朕に話さなかったから、そんな物の中に入れてあるなんてずっと気づかず持ち歩いていたのだ。」
麒麟は顔をあげて劉煌を見上げた。
ところがそれにいち早く反応したのは、全く探している気配のなかった翠蘭だった。
翠蘭はそれを聞いた途端、手に持っていた筆を筆立てに戻し、机の上の聖旨を代わりに手に取った。
「この中に?」
「ああ。でも朕が賜ったのはその聖旨とは異なり懐に入るほどの小さなものだった。それに今思うとなるほどと思うのだが、朕がそれを受け取る際、父はそれを肌身離さず持っていろと言ったんだ。それに秘密は実はそれだけじゃなかった。その聖旨を解体したら、その下一面に文字の羅列があったのだ。しかも一文一文は意味を成すが、全体で見ると全く脈略が無く意味がわからない。暗号だろうとは思ったが、下から読んだり、斜めに読んだりもしたが全くわからなくてね。結局それを遠くから眺めたら、それはなんと別の蒼石観音のありかを示す地図だったんだ。」
劉煌の言葉に、麒麟はようやくまた腰をあげると、東の壁一面にあるおびただしい数の蔵書の一つを取って、中を捲った。
”とりあえず、最初の方は脈略があるからこれは違うかも、、、”
翠蘭も麒麟の左横に立つと、左の1番上の段にある蔵書を背伸びして取ろうとした。
すると、翠蘭の白魚のような指の先に大きな長い指があらわれたかと思うと、彼女が取ろうとしていた書物をいとも簡単に取った。翠蘭が後ろを振り向くと、そこには書物を彼女に差し出している劉煌がいた。
翠蘭がお辞儀をして礼を述べようとしているのを、劉煌はすぐに手で制し、下を向いて3冊目に首を突っ込んでいる麒麟に聞いた。
「翠袁殿の遺品はどこかに保管してありますかな。」
麒麟は首を斜め上にあげて劉煌を見ると、残念そうに首を横に振った。
「私物はこっそり一緒に埋葬しました。」
ここに他に誰もいないのに、消え入りそうなほど小さな声で麒麟がそう答えると、劉煌はうんと頷いて少し考えてから、「皇太子に封じる時の聖旨はお手元にお持ちだろう?」と尋ねた。それに麒麟はギクッとして俯いてしまったので、すぐに劉煌はフォローした。
「君を責めている訳じゃないのだ。逆にそれを持っていない方が問題だ。皇帝なんだから。」
「でも、、、僕のじゃない。袁袁の物だ。」
「うん。だが、それは私物ではない。公文書だ。だから君が持っていなければならない。」
「でも、、、」まだ良心の呵責から抜けきれない麒麟に、劉煌は鬼の形相になって鞭を振った。
「麒麟殿、今は平時ではないのだ!しかも、東之国は圧倒的に不利なのだ。貴殿の選択にこの国の未来が、民の命がかかっているのだ。なぜなら貴殿は、皇帝なのだから。」
その時、麒麟の内側で何かが大きくシフトした。
”そうだ!僕は簫翠袁と名乗っているんだ。袁袁の名前を汚してはならない!”
突然麒麟はすくっと立ち上がり、劉煌に深々と首を垂れた。
「劉煌殿、感謝いたします。すぐに持って参ります。」
そう言うや否や、劉煌の返事もまたずに麒麟は八角円堂を後にした。
一転して微笑み、このうえなく優しい眼差しで麒麟の背中を見送っている劉煌を見て、そのやりとりの一部始終を目撃した翠蘭は、彼女の中で劉煌に対する畏敬の念がふつふつと生まれてきているのを感じていた。
”たしか、私より3つ年上なだけのはずなのに。それどころか、摂政よりもずっと大人。いわゆる長老って、白い長いひげを蓄えたイメージだけど、こんなに若くて美しい長老がいたとは。どうしよう。この人のことをもっと知りたい。。。”
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