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ともだちの魔法使い  作者: 楠羽毛
25/27

わたしの

 前回とはうってかわって、夜は静かだった。

 街灯はちゃんとついていたし、家々の窓からはあかりがもれていた。風が笑うことも、手が歩くことも、星が落ちてくることもなかった。


 それでも、今夜は特別な夜なのだと、菜月は知っていた。


 大通りをしばらく下って、それから両脇に塀のせまる生活道路へ。宵っぱりの声がひびく居酒屋の前をぬけて、住宅街。高橋の本家は、すぐそこだ。

 すたすたと無造作に足を進める菜月にたいし、ダースのほうは少し緊張しているように見える。もちろん、ぬいぐるみが汗をかくわけもないが。

 そうして、


 ほどなく、魔女の姿がみえた。


 本家の大きな平屋の、いかめしい門の前に、黒い、ゆがんだ柱が立っている。すこしずつ近くに寄っていくと、それが、女の姿にかわっていった。

 顔のない魔女。

 門のむこうからもれる窓のあかりは、明るい。誰かが、まだ起きているのだろう。あたりに人の気配はない。

「待っていてくれたの?」

 菜月は傲然といった。肩のふるえをこらえながら。

 魔女は顔のない顔で微笑した。ふしぎと、それはたしかに微笑であった。

「ええ。あなたを。」

「ありがとう。でも、……」

 とんとん、とこめかみを指で叩いて、菜月はこたえた。

「わたしは、行かない。」

「本当に?」

 意外そうに首をかしげて。

「ほんとうに。」

「なら……、」

 すっと、魔女は手をかざした。ぎんいろに輝く月を背負って。

 ダースが硬い声で、ささやく。

「菜月、ぼくに命じてくれ。戦えるように……、」

「いいえ。」

 菜月は、もう知っていた。

「それから、魔女、あなたも。」

 この魔女は、自分が生み出した怪異なのだから、

「もう、消えなさい」

 ただ、命じればいいのだと。

「もういいの。私は、ここでまだ頑張るから。だから、今は消えなさい。大丈夫だから。」

「菜月!」

 ダースが悲鳴をあげた。菜月は、すっと両手を広げて、二歩、あゆみ寄った。

 魔女の影は、ほろりと黒い涙をこぼして、


 菜月の胸のなかに、消えていった。

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