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ともだちの魔法使い  作者: 楠羽毛
10/27

母と兄

 家庭教師の日──


 あいかわらず、美羽はまともには椅子に座れない。尻を板につけずに、しゃがんだようなおかしな姿勢でシャープペンシルを握っている。

 最初の数問は解いたが、すぐにいたずらがきを始めた。菜月が何もいわないのをいいことに、調子に乗って、もう3ページ目。

 ぐるぐるぐると、渦巻き模様。それから、何かのキャラクターだろうか。うさぎの耳を生やした少年、空飛ぶ蛸、杖と三角帽子を身につけた髪の長い少女。

「……ねえ、美羽」

 少し離れたところでひざを組んで椅子に座っていた菜月は、ロングスカートにのせた革カバー付きの文庫本からようやく目をあげ、ぼんやりと声をかけた。

「はいっ!」

 びくんと身をふるわせて、美羽はうつむいて顔を伏せた。けれども、

「……莉子ちゃんとは、あのあとも会っているの?」

 問われたのは、別のことだった。

「うん、」

 美羽は、ほっと息をついて、小さな顎でこくんと頷いた。

「きのうも会ったよ。」

 また授業をさぼって裏山へ行っていたのか、とは口に出さない。

「……そう。なにか言ってた?」

「うん。あなたも魔女にならない? って誘われた」

 ぱさり、と音をたてて、菜月の膝から、本が落ちた。古い栞が、ぺらりとフローリングの床に。

「それで……?」

「ねえ、ナツちゃん」

 美羽は、きれいなビー玉のような目をくるんと丸くして、菜月の顔を見上げた。

「ナツちゃんも、魔女になってよ。あたし、ナツちゃんと一緒がいいなあ。だめ?」



 約束の一時間がおわり、菜月は美羽の部屋をでた。美羽は疲れてしまったらしく、ベッドで横になっている。

 かわりに、よりこさんが玄関まで見送ってくれた。

「お疲れ様。……あの子、ナツちゃんにはよくなついてるみたい。いつもありがとうね。」

「いいえ。」

 菜月は首をふって、ちょっと眉をひそめた。

 美羽が、誰かになつかない、なんてことがあるのだろうか。

「わたし、あの子が……、」

 よりこさんは、ちらりと閉まったドアに目をやって、声をひそめた。

「あの子が、よくわからないの。昔から、いつもじっとしてないようなところはあったけど。中学生になっても、授業もまともに受けられないなんて……。」

「はァ……」

 自分も、中学生のころはあまりまともに授業を受けた覚えはない。宿題など、ほとんどやらずに居残りばかりさせられていた。

 いま、そんなことを言ったら、この人は倒れてしまいそうだが。

「……お兄ちゃんは、……なのに。」

 なんだろう。よく聞こえなかった。

 菜月は曖昧に笑って、高橋の本家を辞した。

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