ダース
「……ねえ、ダース」
ベッドのうえにぬいぐるみをおいて、菜月はあぐらをかいている。
寝る前なので、パジャマ姿。赤いストライプの、ちょっとサイズの合わない。髪はまとめて後ろで縛り、眼鏡はかけたまま。
ぼんやりと不安げな顔で、
「美羽のこと、……どう思う?」
そう問いかけてから、ちがう、と気づく。
美羽のこと、ではない。
「あの、……羽島莉子。ううん、……あの、魔女のこと。」
むろん、答えは……、ない。
「私さァ、美羽の気持ちも、わかる気がするんだよね。魔女になるっていうのがどういうことかわからないけど……、でも、このままじゃ、どうしようもないっていう感じさ……」
なんとなく、涙がにじんでくる。悲しくなんかないのに。
「……涙を拭きなよ、菜月」
小さな、声。くぐもったような。
「え、でも、」
おもわず返事をしかけて、まわりを見回す。
誰もいない。ぬいぐるみがたくさんあるだけだ。うさぎ、蛇、はりねずみ、竜、アノマロカリス。ベッドの上にいる仲間たちは、みんな丸い目を開いたまま、じっとしている。
いや、一体いない。いつのまにか、ベッドの上には。
まさか、ダースの声⁉
「やっと声が届いたね、菜月」
床の、白いラグじゅうたんの上に、ダースはひょっこりと立っていた。
菜月の肩に乗るくらいのサイズの、茶色いあらいぐまの、ぬいぐるみ。それが、二本足で立って、口を開いている。
くるんとした丸い目は、そのままで。
「どうして、」
夢だろうか
いやさ、妄想。
その、どちらでもないと、確信できた。なぜか。
「ダース!」
おもわず、声をあげる。
「菜月、あれは怪異だ」
いつしかくぐもりが消えて、子供のような高い声で。
「怪異?」
菜月はどきどきしながら問い返した。怪異というならば、今この状況がじゅうぶん怪異だ。
「あの魔女さ。さあ、出かけよう。菜月」
ダースはぴょんと跳ねて、くるくると回ってみせた。それから、右手をぴっとドアに向ける。
「もう夜中だよ?」
混乱したまま、とりあえずぞう反論する。夜の11時。街は寝静まっている。隣の部屋の妹は、まだ起きているかもしれないが。
「怪異は夜歩くものさ。さあ、着替えて。早く!」




