第九話 肝試し
夏の風物詩・肝試し。
突然ですが割とキリいいんで登場人物紹介でも。
沢城勝樹 182センチ66キロ 札幌新陽高校一年 手稲本町中出身 一年5組副委員長 帰宅部 (スーパーでバイト)趣味 格闘ゲーム 好きな食べ物 チーズバーガー
本作の主人公。
常に黒マスクを着用している男子高校生。(外すと案外童顔)
中学時代に美空を中心に「言葉のいじめ」を受け、人間不信になる。
家族構成は両親と姉。
格ゲーの腕は、オンライン対戦で普通に通用するほど。(夏菜とほぼ互角)
入学式当日、マスク姿で入っていたので笑い者になるかと思いきや、柿本の起点で人気者になってしまったり、偶然夏菜とゲームセンターで出会って親交を深めて行ったりと、キッカケが分かりやすいタイプ。
本人は未だに人気者だということを思っておらず、両者共に認める友人関係はいないと公言するほどの捻くれた性格。
優しい性格でもあるが、現実主義者でもあり、根に持ちやすいタイプなので、今の環境の変化には慣れていない。
夏菜の過去には同情しているフシがあり、一方で美空は顔も見たくないほど嫌っている。
沙里奈と夏菜との友人的な仲を作ったのも沢城だが、本人にあまり自覚はなく、寧ろ双方が歩み寄ったから友人になれたと思っている。
手先は超が付くほど不器用で、レジ業務は死んでもやりたくないとのこと。
俺は渡辺と共にレクリエーション室に集められた。
確かに宿泊施設はウチの高校で貸切ではあるのだが、クラスの委員長、副委員長を集めてまで何をするのだろうか。
ちなみに1から3年までの学年ごとのクラス配分は八等分。
つまり今、俺と渡辺クラスの位置のやつが16人いるということになる。
と、ここで4組の担任の煤払先生がマイクを持った。
「えー、今日のレクリエーションは……」
ゴクリ、と全員が固唾を飲む。
「肝試しをやりたいと思います! 君たちは、そのオバケ役です!!」
大人の女性特有のドスのかかった低い声でそう言った煤払先生だが、何も聞かされていない俺の頭は「?」状態だった。
というと、柿本先生が何やら肝試しで使うかのような道具を、どデカい段ボールと共に持ってきた。
コレを着れというのか? 本当に自由人がこの高校には多すぎる。
そんなこんなで話は進んでいき、渡辺はドアを叩いて脅かす担当、俺は最後に待ち受ける凶悪なオバケ役をやらされることとなったのだった。
夕食後、肝試しがスタートした。
レクリエーション室以外の全ての明かりを消して、班で行動するとのことだそうだ。
つまり、俺と渡辺のところは3人。
桜田達はまだいいとして、問題は和吹達だった。
流川はバスケ部、代永はハンドボール部なので強心臓の持ち主なのは大体予想が付くが、和吹は俺に声を掛けられた時にアホみたいに最初キョドっていたので心配でしかなかった。
で、まあルールとして、どこかに隠された金の玉を見つけること、無事体育館まで来れたらクリアなのだそうだ。
渡辺は視聴覚室のドアにいる。
鍵がかけられているので、入られることは絶対にない。
ちなみにもし、レクリエーション室に入ってしまった場合。
渡辺からの提案で終わった後に俺のニンニク口臭攻撃なのだそうだ……ふざけるな渡辺、なんでそんな平成中期の番組みてえな提案をした?
しかも男女問わず俺のだと? 俺が一番辛いわ。
なんで生のニンニク齧らせて人に嗅がせるんだボケ。
渡辺ってしっかりしてるくせにコンプライアンス保持率がゼロとか最悪だろ……
俺はそんなイライラした考えで渡り廊下に独りポツンと立った。
すったもんだありながら肝試しが始まり、一様にキャー、とか、ワー、とかっていう悲鳴が各所から聞こえてきた。
だが、肝心の俺の番がなかなか来ねえ……まさかレクリエーション室に飛び込んだ奴らがいるのか………ああ嫌だ、、学年には罰ゲームの詳細は明かされていないとはいえ、このフェイスマスクのまま口臭だぞ? トラウマになるわ、どう考えても。
お、ようやく一組目、か。
じゃあ早速このライトを点けるか。
……ん?? あれ?? 点かないぞ?? ヤベエ、最悪だ、電池が死んでいるぜクソが!
だがもう来てしまった以上、奥の手を使うしかない。
俺の野太い声ではビビるのにも限度がある。
だからこその金タライだ。
多少前後するが、電池を入れる時間を稼ぐ作戦だった。
俺の野太い呻き声はガン無視で来やがった。
俺は紐を引っ張り、金タライトラップを起動させた。
手が離れた時に一気にGが掛かるので、衝撃は凄まじい。
見事誰かの頭に直撃した。
ある男子が、いってー! とかって言ってる間に俺はそそくさと電池を変えた。
そしてライトの確認をして、あのグループの方を振り向いた。
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
………今日一番の悲鳴を聞いた気がする。
順番は前後したが結果オーライだった。
その後も特に女子からの悲鳴が凄まじく聞こえており、俺の鼓膜はもう、限界寸前だった。
だがどうやら女子は全員セーフなようだった。
女子に嗅がせないだけマシだ……そう思いながら俺は淡々と最後の砦を勤めたのだった。
しかし、まさかあんな事件が起きようとは。
嶋田達はまあ、予想通りビビらなかったので、タライを敢えて空振りさせたら俺の顔にビビってくれたので、まあ結果良しとしよう。
さて、ウチのクラスの最後。
和吹達だ。
頼む……和吹に俺の口臭なんぞを嗅がせるわけにはいかねえんだ……そう思いながら、和吹達を待った。
そんなこんなで心臓がバクバクだった俺。
渡り廊下に和吹達が来た。
辺りをキョロキョロしながら進んでいる最中で……
はい、俺の顔、顔面ライトアップ。
「キャァァァァァァァ!!!」……と、如何にもらしい和吹の悲鳴が至近距離で聞こえた。
思ったより高い声なんだな、俺がそう思っていると、ヘタっと腰を抜かした。
今にも泣き出しそうな和吹を流川と代永は囲って心配そうにしている。
(……刺激が強すぎたか。)
俺がそう思った直後、、
「あ。」
気づいた時にはもう、遅かった。
タライの紐を手放してしまい、運良く空振りだったが、大きな金属音が響いた。
完全に放送事故だった。
ヤベエ、やっちまった。
そう思ったが、和吹をビビらせるには十分だったようで……
「れ、レクリエーション室行く!!」
と言って身を翻してしまった和吹。
まずい! 和吹は……!! 和吹だけは!!!
そう思った俺は咄嗟に身を乗り出して和吹を止めようとした。
俺は前になんとか行き、和吹を止めたかに思ったが……足が絡んでしまい、正面衝突すってんころりんしてしまったのだった。
声の出せない状況のまま、今何が起きているのか確認する。
顔を上げたら何故か柔らかい……なんだこれ。
俺はライトを点けた。
すると……察してしまった。
これは不純異性交遊と疑われても仕方がない状況に陥ってしまっていると。
と、和吹が腰を上げた。
「いてて……だ、だいじょうb、ァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
ライトアップされた俺の顔を見たことは察しがついたが、耳元で叫ばないでくれ、頼むから。
鼓膜が死ぬ。
「も……もうヤダぁぁぁぁ!!」
と、体育館の方を半ベソかきながら走りだして行った。
流川と代永もダッシュで追いかけて行ったのだった。
……まさかの展開に、暫し思考停止した俺だったが、分かってしまった、知ってしまった事実がまた一つ。
「……和吹……案外、デカイんだな。」
暫く無の境地に至った俺は、その後も悲鳴を聞き続けて鼓膜がもう、半分死にかけになったのだった。
とりあえず俺はこの後も何事もなく、無事に肝試しは終わった。
ニンニク口臭の犠牲者も、出なかった。
一安心一安心。
あの、最後のアレ、ストレートに表現できないwwwwwww
どうしろと??