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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 5

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」



1  永遠の始まり


 その4


警察車両の車内には沈黙が流れた。笠浦は信じられない偶然について腕組みをして考え込んでいた。杉田は機嫌を損ねるであろうことには触れずにスマホいじりを続けた。 

(あの時、WINSの発券機で後ろに並んでいたのかあの男が……。世の中は広いようで狭いものだ。朝のドラマのように何かが起これば田舎の関係者が必ず現れるなんてのは論外だが……偶然ていうのは至る所にあるのだろうな。ただ互いに知ることもなく、やり過ごしてしまうのが普通で。しかし、こんな偶然てのはそうそうあるもんじゃない)

 笠浦はいよいよこの小説の作者を探し当ててかつて彼が起こしたであろう、とある事件の真相を暴きたいと思った。そのためには司法の網をかいくぐり、すぐにでもブログのアカウントを特定して彼をあぶり出したい欲求に駆られた。

(職務規定に違反しようと知ったこっちゃない……)そう考えていた。

(いや、そんな簡単に見つけてしまったらこれまた面白くもない。なあに、奇特なことにこれから子供を産み育てるというんだ、犯罪者のくせに。それをブログにわざわざ報告するつもりだろう。そこからいくらでも足がつく。じっくりゆっくり追い詰めるってのが奴にはふさわしい……)

 そんな風にも考えるのだった。今担当している強盗傷害事件のことなどは心の底からどうでもよかった。ふと、そんな彼の脳裏に過去が蘇る。

(なぜ俺は刑事という職業を選んだのか……ああ、そうだ。そうだった昔あんな事件があったからだ)

 それは彼が小学校4年生の頃だった。いつも一緒に遊んでいた同級生の加山昇は町内で1番大きな家に住む地主の息子だった。笠浦は古くて狭い二間のアパートに母親と暮らす貧乏人だ。父親は借金を作って失踪しもう3年になる。そんな酷い境遇にありながらも加山昇とは妙に馬があい、いつも一緒で夕方暗くなるまで遊び惚ける仲だった。

 その日は海辺で小さな沢蟹を釣って遊んでいた。小さな巻貝の殻を石で割って身を取り出し、それを餌にすると面白いように蟹が食いつく。釣り上げた蟹をどうするかと言えば、海岸線の国道のアスファルトに放り投げて車に轢かれるかどうかを競い合うという、子供にありがちな残酷な遊びだった。夢中で蟹を釣っていると、サングラスをした身なりのきちんとした感じの大人が昇に声をかけてきた。

「加山さんとこの坊っちゃんかい?」

「うん。そうだけど」昇が振り返って答えた。

「ああ、ちょっとお父さんが事故でね。病院に運ばれたんだわ。すぐ呼んで来てって言われてさ。ちょっといいかい」

「ええ?」昇は悲鳴のような甲高い声を上げて男とそして笠浦を見た。

「それはヤバいっしょ。すぐに行かないと」

笠浦はとっさにそう言った。自分に父親がいないことが子供心にも引け目となっていて、自然に口から出たのだと思う。

それが彼の一生の後悔となった。

昇の死体が見つかったのは5日後のことだ。誘拐事件の末に男が警察に捕まってすぐだった。

 昇の身体は50か所以上も切り刻まれていた。報道されることはなかったが特に下半身がずたずたに切り裂かれていた。

葬式に出席するのは嫌だったが、母親が何が何でも行きなさいと強く促した。

田舎の小さな町ではそうそうあり得ない盛大な葬式だった。

昇の母親が彼を見つけると歩み寄ってきて竹ぼうきを振り回した。

「何しに来たお前。帰れ!ほら帰れってば。なんでお前が生きてて、昇が、昇が……」強く笠浦を押し返そうとするのだがその力は弱く、ほうきを握る手は異様にやせ細っていた。

笠浦は泣きながらその場から逃げ出した。

(きっとあれが……俺を警察官へと向かわせたんだろうな。今となっては馬鹿馬鹿しい。本当にくそだ。あの頃は知らなかった。警察に入ってからだ。何気にあの事件を調べたら結局、犯人は母親の浮気相手だったってんだから笑える。ふふん。人間ってやつは業が深いよなあ、深すぎる……)


 「先輩、そろそろ戻りましょうかね?」杉田がスマホにも飽きてあくび交じりの声を掛けてきた。

「ああ、そうだな。報告書適当に頼むわ」

「へいへい。調査結果、ソダシのせいでぼろ負け、でいいですか?」

 笠浦は愛の鉄拳を杉田にふるった。

 


  続く


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