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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
202/259

第9章  転がる石のように 17

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

2  逃亡の果てに 


 その4



 翌日、俺は沙也加とK市のやや東のはずれにある警察署へと出向いた。沙也加は前日よりは着飾った雰囲気の服装で平成ホテルまで迎えにきた。笑顔でロビーに立つ彼女を見ると覚悟するしかなかった。もちろん、警察署など死んでも行きたくはない場所だが、優香を連れ去った草野が、あるいは俺たちの罪をうまくカバーしてくれているのか、もう追っ手は来ないのだろうか……そのあたりを探りたい気持ちもあった。むしろ、捕まるならそれでもいいと、やや自暴自棄な気持ちがあったかもしれない。


 面会室での野村は憔悴しきった顔つきだった。すでに逮捕されてから1週間が過ぎていた。

俺の顔を見て驚いて見せたが、それ以上に妹の顔を見て安心したのか、母親の病状を素直に聞きながら涙を浮かべていた。

 彼の罪状は詐欺罪だった。的中馬券を捏造してネットに上げ、巧みな誘い文句で会員を増やし、競馬の予想を売っていた。そこまではまあまだ良かったが、負けが込んでよからぬことに手を染めたようだ。有りもしない内部情報を装って高額販売に打って出たのだ。外れた場合の返金保証付きで。結果は外れ、返金する金も失ってしまい被害者に訴えられてしまった。

「本当にバカなことをしたよ。すまん。今度だけは助けてくれないか」

野村は沙也加に泣きすがるように頼み込んだ。

「私の貯金と足りない分は借りて……被害者に払うから、きっと不起訴にはできると思う」

「すまん。頼む」

「もう二度とこんなことしないって誓うんなら……」

「うん。わかった。もうしない」

兄妹の涙のやり取りをしり目に、俺は警察署内の面会所の様子を伺っていた。係官が後ろに立っていたが、俺に対して特別な目を向けているということはなかった。とはいってもどうにうも落ち着かない。挙動不審とみられないように自分のしぐさを抑えるのはなかなか苦しい作業だ。

俺と優香への追跡の目は今のところないのだろうと判断できた。


 30分ほどの面会が終わり、俺たちは警察署を後にした。まだ肌寒い3月の初めだった。

「今日はどうもありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げた沙也加が妙にかわいいと感じた。

「せっかくだから、どこかで昼飯でも……」

 つい出た俺の言葉に、沙也加は満面の笑みを返した。

「うん。行きましょう」

 いきなり俺の腕をつかんで歩き出した。

「仮とはいえ内縁関係だからね」

 食事をして公園で語り合い、スーパーで日用品を買った。それから居酒屋へ行き酒を飲んだ。そしてカラオケボックスへ……

 気が付いたらホテルの部屋、ベッドの上だった。さすがに平成ホテルの狭い部屋ではなかったが、安普請の隣のあえぎ声が聞こえてきそうな連れ込みホテルだった。

 俺たちはむさぼりあうようにたがいの体をすり寄せた。何度も求め合った。

 いつしか眠りに落ちていた……。

 まだ暗い朝方に目が覚めた。

 沙也加は背中を向けて寝息を立てている。

 岡林探偵事務所に勤めていたころ、浮気調査のために男二人でホテルの部屋を探ったことを思い出した。

 ずいぶんと昔のことのように思えた。


 沙也加とはそれっきりだった。

 翌日、仕事があるからとH市へ帰っていった。

 兄の身元引受人をお願いしますとだけ言い残して去った。

 


  続く



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