いつもの訓練-2
1月17日 0954時 インド洋上空
AH-64Dがターゲットあるの岩礁へ向かって飛んでいた。スタブウィングには増槽とロケットポッドを2つずつ搭載している。
「ターゲット確認。射撃開始」
ベングリオンがIHADSSで岩礁の上に立たされているマネキンを睨み、操縦桿の引き金を引いた。30mmのタングステンでできた徹甲弾がチェーンガンから撃ちだされ、ターゲットをボロボロに引き裂く。ベングリオンとツァハレムは、軍にいた頃もこうして何度も本物の人間を機関砲で撃ち、ミンチにしてきた。最初に敵を撃った時、暫く肉料理―――特に挽肉を使ったものは―――食べられなくなったが、10回、50回、100回と経験する度に慣れてしまい、今では平気なものである。
「次、ロケット用意」
ツァハレムがアパッチの進行方向を90度左に向け、ベングリオンに指示を出した。ベングリオンはガムを口の中で咀嚼しながら兵装を切り替え、岩礁の上のターゲットに狙いを定める。
「発射」
ハイドラ70が2発ずつ、4回、ロケットポッドから飛び出した。このロケットの弾頭には、対装甲榴弾、対人榴弾、フレシェット弾が搭載でき、攻撃目標を選ばない。
「命中。目標破壊完了。次だ」
アパッチは方向転換して、次の目標へと向かった。
CV-22Bが岩礁に接近した。そこにはマネキンが1体、無造作に置かれている。
「ターゲット確認。降下する」
トーマス・ボーンがワイヤーでゆっくりと降下し、マネキンをハーネスで固定した。ボーンが手を上に向けて親指を立てる。
「ターゲット確保。上げてくれ」
ウィンチが巻き上がり、救難隊員を引き上げる。
「収容完了。行ってくれ」
ジェームズ・ルークがパイロットにそう言うと、ブリッグズはオスプレイのティルトローターを傾け、その場から離脱を始めた。
CH-53Eが巨大な貨物船に接近していた。この大きさの貨物船はディエゴガルシア島に接岸できないため、VERTREPによる物資の輸送することになった。ロープでコンテナを固定し、甲板の作業員は親指を立てると、ブライアン・ニールセンはゆっくりと機体を上昇させ始めた。巨大なコンテナがヘリに吊り下げられ、じわじわと持ち上げられる。
「パワーOK。移動する」
スーパースタリオンはコンテナを吊ったまま離陸し、島へと飛んでいった。今日は何度か島とこのコンテナ船の間を往復することになる。単純だが、神経をすり減らす作業になりそうだ。
1月17日 1009時 ディエゴガルシア島
CH-53Eが貨物地区にコンテナを下ろし、再び貨物船へと飛び去った。岩礁の上にあるこの島では、兵器や航空機の部品から真水、食料、その他生活必需品などあらゆる物資を外部から運び込む必要がある。そのため、ほぼ毎日、貨物機が飛来したり貨物船が近くで停泊したりする。しかし、陸地の周りはサンゴ礁でできた浅瀬になっており、ホバークラフトでもない限り、上陸することはできないため、このように、貨物船からスーパースタリオンやオスプレイを使って運び込む必要があった。
3機のカマンK-MAXが、コンテナを吊り下げて飛来した。この奇妙なヘリは物資輸送用に設計された特殊なヘリで、アメリカ海兵隊でも輸送ヘリとして無人化された機体が採用されている。これらのヘリは運送会社が使っているもので、基地に近づく時は、例外無く、対空兵器を向けられることになったが、このヘリのパイロットは、元アメリカ海兵隊の傭兵で、他にも様々な傭兵部隊の拠点へ物を運んできたため、それには慣れっこだった。
貨物地区では、グランドクルーが運ばれてきた物資を、兵装、航空機の部品、食料・飲料、燃料、その他に分けて倉庫や弾薬庫に運び込む。彼らは、数日に1回の大仕事に奔走し始めた。
1月17日 1011時 インド洋上空
暫く続いていた空戦から、遂に脱落者が現れた。ミラージュに"撃たれた"ホーネットが翼を大きく左右に振って離脱していく。そのワンが駆る戦闘機も、後ろから接近してきたグリペンに気付いて、慌ててチャフとフレアを撒きながら、急降下していく。
「くそっ、無茶苦茶過ぎるぞ!」
ラッセルがぼやく。
「全くだ。自分以外全部敵だなんて、酷く無茶な状況だ。おっと、7時の方向から敵機だ」
ロックウェルが後ろを振り返ってから言った。Su-27SKMがこっちに狙いを定めてくる。
「よし、捻り込みだ!」
F-15Eが右にロールしながら急降下する。コルチャックのフランカーはその動きにあわせて、一度、上昇して位置エネルギーを得てから一気に高度を下げてストライクイーグルを追った。そのすぐ上を、F-15Cを追っているフランカーが通り過ぎていった。
佐藤はファルクラムを振り払おうと、右に急旋回するが、カジンスキーの愛機は喰らいついて離さない。しかし、更にそのMiG-29Kの後ろからはヒラタのF-16が猛追してくる。海上から見上げると、青いキャンバスにいくつもの飛行機雲が白い筋を描いていく。だが、この辺りは民間航空機は原則飛行禁止にされ、一般船舶の航行も制限されているため、外部の人間がこの壮大な航空ショーを見ることは、まず、できない。だが、これを電波のフィルターを通して見ていた人間が3人だけいた。




