いつもの訓練-3
1月17日 1014時 インド洋上空
E-737が呑気な様子で空に浮かんでいる。訓練中の航空管制を行っており、実戦においては、戦場を見下ろし、味方戦闘機の司令塔となる。コールサインは、UAEで破壊された先代の機体と同じ"ゴッドアイ"だ。
パイロットのハッサン・ケマルは操縦輪をやや右に傾け、基地の方へ接近するコースを取った。上空の様子は至って穏やかで、雲もほとんど無く、風もそれ程強くない。不審な飛行機が近づいてきたり、民間機が迷い込んでくる様子も無く、飛びやすい状況だ。天気図をタブレットで呼び出すと、荒天の予兆になりそうな怪しい雲は無く、良いフライト日和になりそうだ。
スタンリーはAEWのレーダー画面を見ながら戦況を確認した。コガワ以外のパイロットはまだ脱落しておらず、空戦は続いている。戦闘機がぐるぐる回り、飛行機雲で複雑な航跡を空に描いていく。レーダーの捜索範囲を変え、近くを飛んでいる飛行機の様子を確認した。戦闘機を示す固まって動き回る輝点、離れて待機している2機の空中給油機の輝点、更に離れてインド洋を飛び交う民間機の輝点が見える。輝点にはコールサイン、高度、速度が表示され、どの機体なのかが一目瞭然だ。
「ちょっとやり過ぎだったかな。やはり、今度からはチーム分けをして訓練させよう」
いつもの統制された動きは無く、それぞれの戦闘機がほとんど無秩序に飛び回っている。いつも通りの2チームに分けた訓練なら―――特に、飛行隊長の佐藤または飛行副隊長のヒラタがいるチームは―――非常によく統制され、洗練された戦術を取るのだが、バラバラにした途端、それぞれが好き勝手な戦術を取り始め、もし、これが実戦であったならば、あっという間に部隊は壊滅していただろう。
「後悔するくらいなら、最初からやらなければよかったのでは?そもそも、この訓練に意味があるかどうか、ブリーフィングで申したはずですが」
リー・ミンがボスが立てた訓練計画に対して、辛辣な評価をした。
「それもそうだったな。うむ・・・・このまま続けさせるか、打ち切るか・・・」
「せっかくだから、このまま続けさせてみましょう。誰が最後に残るのかも気になりますし・・・・」
「ん?そうだな。今日のところは、そうしてみよう」
1月17日 1023時 インド洋上空
コルチャックのSu-27SKMから"発射"されたR-27T1に"撃たれた"ユーロファイターが離脱し、基地に戻るコースへと向かった。佐藤とラッセルのF-15同士がドッグファイトを始め、JAS-39CがMiG-29Kをしつこく追い回す。全ての戦闘機が激しい機動をかなりの時間続けたため、次第にパイロットたちは"敵機"と残燃料の両方を意識しなければならなくなってきた。いつもよりもより激しいドッグファイトが繰り広げられたため、全員がアフターバーナーを多用せざるを得ない状況に追い込まれ、燃料の消費が激しかった。
「くそっ、しつこいチャーハン野郎め!」
ヒラタはF-16を急上昇させた後反転させ、そのまま後方に機首を向ける機動をした。後ろからはワンのミラージュが追ってくる。どちらも単発エンジン、小型、軽量で機動性に優れた一線級の戦闘機だ。やがて、レーダーにロックオンされたことを知らせる警報が鳴り始める。
「ええい、畜生め!」
ヒラタは様々な罵り言葉を吐き出しながらジャマーを作動させ、チャフとフレアをばら撒いて戦闘機をほぼ水平にUターンさせた。強烈なGに耐え、首を動かして後ろを見ると、ミラージュが一度上昇してから、一気に急降下してこっちに向かって来る。ハイGヨー・ヨーだ。
「ちいっ!」
今度は上昇して逃げようとするが、ミラージュはピッタリとこちらに狙いを定め、追いかけてくる。
『Fox3』
やられた!ヒラタはF-16の翼を大きく左右に振ると、基地へと帰還した。
クロンへイムはミグを追い続けた。カジンスキーのファルクラムは高い機動性を発揮し、また双発エンジンからくる推力の大きさを活かして逃れようとするが、小型・軽量のグリペンは素速く追いついていく。クロンへイムはレーダーをサーチモードから近距離交戦モードへ切り替えた。コブラHMDに目標指示キューが表示され、緑色の光る円が視界の真ん中に浮かび上がる。それの中心に"敵機"が来るようにクロンへイムは首を動かした。キューがミグと重なると点滅し、やがてブザー音とともに赤くなった。
「Fox2!」
カジンスキーはミサイル警報装置が鳴ると同時にフレアを撒き、機体を急降下させようとしたが、相手の機体との距離が近く、所謂"ノーエスケープゾーン"に入っていたと訓練用のソフトウェアは判断し、"撃墜"されたとの判定を下した。
この混沌とした空戦訓練で今のところ"生き残った"のはF-15C、JAS-39、F-15E、F/A-18C、Su-27SKM、ミラージュとなった。だが、司令官は未だに『訓練終了』のコールを出さない。どうやら、最後の1機になるか、だれかが"ビンゴ"になるまでやめさせるつもりは無いようだ。少し離れた所にKC-135Rを飛ばしてはいるが、それを使うのが早いか、それとも最後の1機になるが早いかの競争となり始めていた。




