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事後処理フェイズ
「では連行しなさい」
「ハッ!」
そして到着した騎士団が見たのは魂が抜けたような男達だった。
どうやら彼らの精神は大半が性欲だったらしい。
「これだけ大騒ぎしたのに大人しいですわね・・・何か言っていますか?」
「できれば食事をしたいと言っています」
「・・・性欲が食欲に変わったのかしら?」
報告を受けた騎士、というかアレンダはハァとため息をついた。
一方騒動の中心であるリュウリ達は、広場の端でなにやら作業をしているようだった。
「貴方達はなにをしているんですの?」
「え?あ!アレンダ!お疲れ様!」
「お疲れ~」
「来るのが遅いじゃない」
「しかたありませんわ。市民の皆様からの通報が遅かったのですから」
軽装に見える騎士甲冑を見に纏ったアレンダは、リュウリ達の手元を覗き込んだ。
「それは?」
「さっきの連中からへし折った角」
「なにをしているのですか・・・」
「いえね、角が折れると性欲が収まるって自分で言ったから」
「ちょうどいいから矯正ついでにへし折ってやったわ」
「まぁ迷惑料って事で」
「全く・・・処理するこちらの事も考えて欲しいですわ・・・で?その角をどうするつもりですの?」
「ちょっと調べてみたら良質な素材だったから、加工してミリノさんにプレゼントしようって」
「はぁ・・・そんな物がプレゼントになるんですの?」
「見てて・・・」
セレシアが魔力を込めると、数本あった角が一塊になってペンの形になった。
「これは・・・」
「この角は性欲が旺盛な時だと魔力の影響を受けやすいみたい。元々それでライバルと争って
異性と結婚する種族みたいなの」
「へ~」
「でも生えかわりの時にはもうその機能は無くなってるから皆気づかなかったみたい」
「じゃあ彼らの種族が襲われる可能性があるという事ではありませんか!?」
「ああ、それは大丈夫っぽい」
「へ?」
リュウリの返事に、アレンダは気の抜けた返事をしてしまった。
これはこれで可愛い。
「たぶんだけど、折れてしばらくしたら機能が無くなるみたい。一本もうそうなったし」
「・・・それなら襲撃されないと言えますか?」
「たぶんね。形状変えるなら魔力を固めたりした方が効率いいし」
「それならば良いのですが・・・」
「とりあえずレン!アンタの出番よ!」
「はぁ!?なんでわたくしが出てきますの!?」
「さっきリュー君が言ったように、魔力を込めてないと使えなくなっちゃうの」
「それがどうしたのです?」
「これをミリノにプレゼントするんだから使えなくなったら困るじゃない!」
「はぁ・・・」
「それでね?この角に魔力を貯める術式を今作ったからアレンダの魔力を入れて欲しいの」
「わたくしの?何故です?」
「結論から言うとアホみたいに魔力持ってるから」
「・・・」
「そうそう、その無駄に溜まった魔力の発散になるし、一挙両得ってやつね!」
「・・・貴方達はぁ~!!」
「まぁまぁ、落ち着いて?」
「お姉様・・・」
「アレンダがこの角に極限まで魔力を込めれば後はミリノさんの魔力で使えるようになるはずだから」
「・・・」
「お願い、ね?」
「「お願いしま~す」」
「はぁ・・・わかりました。でも時間がかかるかもしれませんわよ?」
「できれば急いでほしいけど、焦らなくていいから」
「無理せんでな~」
「ファイト」
「もう・・・」
アレンダが魔力を込め始めると、ふと何かを思いついた。
「魔力を込めればずっと使い続けられるなら彼らの襲撃の可能性はあるという事ではありませんの?」
「ん~どうなんだろ?基本的に込めてちょっとしか持たないから、レン姉くらい魔力が無いと
すぐ使えなくなると思うよ?それに常に身に着けてなきゃいけなくなるし」
「だと良いのですが・・・」
「というかアイツらに聞いた方が早いわ」
「あっちょっと!」
言うや否やナレアはリーダー格だったお頭を連れてきた。
「アンタ達の角って魔力で変化できるわよね?」
「ええ、まぁ」
「今までそれが原因で狙われたりした事は無い?」
「?いいえ、そんな事はありませんでしたよ?」
「なんで?」
「そもそも俺達の角が魔力で変化するのは発情期などの一定期間のみですから。それにその期間が
終わればまた生え変わるので武器などに求められる強度が無いですから」
「でも日用品にとかに使えるでしょ?」
「莫大な魔力を使い続けてですか?そもそも俺達の種族以外が魔力を込めたってすぐに抜けて
いきますよ?それを補う魔力なんてそうそう持ってませんよ」
「っていうかアンタそんな口調だったかしら?」
「発情期を過ぎれば我々の種族は性格等が激変しますので」
「今さらだけど、お前ら発情期だったんかい」
「ええ、ある年齢までに夫婦になれなかった者はそれを補うように年中発情しています」
「じゃあまだいそうね、そういう人」
「いえ、そうそういませんよ。俺達が特殊だっただけで」
「つーかなんでお前らあぶれた訳?」
「貴方達も見たでしょう?俺達の性癖」
「「「ああ・・・」」」
「え?」
「レン姉は聞かない方が良いよ」
「はぁ」
「俺達の性癖もさることながら、それに嫌気をさした一部の女達が女同士で付き合いだしたので」
「「「「うわぁ・・・」」」」
「彼女達からすれば俺達と結婚するぐらいなら親友といた方が良いと思ったのでしょう」
「わからんでもない」
「あんな事言われたらハッ倒すわ」
「たしかに失礼よね?」
「ええ、ですが貴方達のおかげ?でこうして落ち着けました。これからは適度に自分達の
心の中だけで楽しんでいこうと思います」
「うん、まぁ相手に迷惑とかかけなきゃいいと思うよ?なぁ、レン姉?」
「え?まぁ・・・そうですわね。ですが今回の件はきちんと反省と罰を受けてもらいますよ?」
「ええ、分かっています。あなた方も不快な思いをさせたようで申し訳ない」
「まぁいいけど・・・ここまで口調とか性格変わると逆に気持ち悪いわね・・・」
「そんな事言わないの、彼らからすれば奥さんを決める為の本能なんだから」
「そう言っていただけると助かります。お詫びと言ってはなんですが、その角は貴方達で
使えるのならば好きに使っていただいて結構ですよ。では」
そう言ってお頭は騎士に連れていかれた。
「ところでレン姉、そろそろどうよ?」
「あっ忘れてましたわ」
慌ててアレンダが手に持っていた角だったペンを見ると、ツルツルになっていた。
「これは・・・」
「どうやら一定の魔力が溜まると本来の力を取り戻すみたいね」
「んじゃあとは急いでミリノに渡すか」
「うん、あっちょっと待ってね?」
セレシアがアレンダからペンを受け取ると、小さな結界に閉じ込めた。
「これで魔力が漏れ出るのを遅くできると思うよ
「うし!じゃあ帰るか!」
「ええ、そうね。まったくとんだ買い物になったわ」
「でもこうして知り合いとプレゼントもできたんだからいいじゃない」
「わたくしは城に戻りますわ。まだやり残した事もあるので」
「うぃ~またな~」
「ば~い」
「またね」
そうして三人は帰宅し、無事ミリノにプレゼントを渡す事ができた。
因みにその時のミリノは
「そんな事に気を使っていただかなくても・・・」
と困ったような顔をしていたが、それから事あるごとにその万能角を取り出して微笑んでいるのを
スミレに目撃されていた。
これにて一章は終わりになります。
とりあえず二章が書きあがったら、また数日かけて投稿するつもりです。
次も新キャラでる予定。
ではまたいつか