第1話∶冷たい唇と、ふたたびの目覚め
はじめまして!ご覧いただきありがとうございます。
今作が【初めて執筆するBL作品】となります。
前世での過ちと執着、やり直しから始まるストーリーです。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
※注意※
・冒頭(前世)に流血・ヒロイン死亡描写・心中などのダークな表現が含まれます。
・苦手な方はご注意ください。
・最終的には【ハッピーエンド】に向かう予定です!
拙い部分もあるかと思いますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
それでは、本編へどうぞ!
「……っもうっ、もう僕を傷つけないで……殺して……!」
微かに震える両手を掲げ、涙に濡れた瞳で僕を仰ぎ見るルディウス。
俺は、この人を愛していた。あまりにも愛して、愛して、愛しすぎて縛りつけ続けた結果——気づけば彼の顔から、あたたかな笑顔は消え去っていた。
彼のすぐ横には、俺と彼が一緒に育った少女・メリーナが横たわっている。胸から溢れ出た鮮血が、冷たい床を黒く染めていく。
俺が殺したのだ。
彼と彼女はずっと、互いを深く愛し合う二人だった。
俺はそんな二人のかけがえのない「親友」……ただの影のような存在に過ぎなかったのだ。
『エミル! お前は本当に凄いやつだよ。イケメンだし、勉学だって一番で、剣術も一番だ! 僕の自慢の親友だよ』
(ちがう。俺はお前の親友になりたいんじゃない……)
『……ふふっ、二人とも本当に仲良しね。なんだか私、ちょっと嫉妬しちゃうわ』
(……俺はお前になりたかった。ルディウスに愛される、お前に……)
戦場ではいつも、この三人で背中を預け合ってきた。
だが、死と隣り合わせの戦火の中、互いを愛おしそうに見つめ合う二人を横目にするたび、俺の胸は嫉妬という名の毒で狂いそうになっていた。
あの日もそうだった。潜伏していた廃屋の隅で、二人の会話が俺の耳に届いてしまった。
『メリーナ。この戦いが終わったら結婚しよう。……こんな場所でのプロポーズで、ごめんな』
『……っ! 嬉しいわ、ルディウス。ええ……この戦いが終わったら——』
——ドスッ、と重い音が響く。
彼女が最期の言葉を言い切る前に、俺は背後から彼女の心臓を長剣で突き穿っていた。
それは一瞬の出来事だった。彼女は声もなく息絶える。
目前で起きた惨劇を理解できないルディウスは、メリーナの亡骸と俺の顔を何度も往復し、茫然自失の表情を浮かべていた。
不思議なことに、その絶望に染まった瞳が「俺だけ」に向けられた瞬間、俺の胸は狂おしいほどの熱さに満たされた。
『……なんで? なんでだよ!! エミル!』
一瞬だけ激昂したルディウスだったが、すぐにその瞳から生気が失われた。
何も話さず、光の消えた目でメリーナの亡骸を見つめ続けるルディウスに、俺はそっと手を伸ばす。
しかし、その手は容赦なく弾き飛ばされた。
ふたりで過ごしたあの日々には、もう二度と戻れない。その決定的な拒絶に、俺は遅すぎる後悔に苛まれた。もう彼は俺に笑いかけてはくれない。そう絶望した次の瞬間——ルディウスは自らの腹部に短剣を突き立てていた。
「っ……何をやっているんだ、ルディウス!?」
戸惑い駆け寄る俺に、血を吐きながらルディウスは懇願する。
「……っもうっ、もう僕を傷つけないで……殺して……!」
涙をボロボロとこぼしながら、彼は絞り出すような声で続けた。
「ごめんな……エミルの気持ち、ずっと知ってた……。でも……もう、終わりにしたいんだ……」
俺の歪んだ恋心も、醜い嫉妬も、彼はすべて知っていたのだ。知った上で、俺の親友でい続けてくれたのだ。
俺は声を取り乱して泣きながら、彼の胸に深く剣を突き刺した。
重なるように横たわった二人の遺体。俺は二人を引き離すと、冷たくなりゆくルディウスの頬にそっと触れ、その唇に情念を込めて口づけた。
「ずっと……こうしてみたかった。俺だけのものにしたかった……」
そして俺は、迷わず自分の首筋を刃でかき切った。
(ごめん、ルディウス。ごめん、メリーナ。もし……もし次生まれ変わることができたら、二度と君たちには近づかないから——)
絶命の苦しみとともに、視界が深い闇へと落ちていく。
俺の人生は、ここで終わったはずだった。
◇
「……はっ!?」
激しい呼吸とともに跳ね起きると、視界に飛び込んできたのは見覚えのある殺風景な天井だった。
硬いベッドの感触。潮風と鉄の匂い。
ここは——戦争の道具として孤児を集め、殺戮の術を叩き込む「政府公認・特別育成寄宿学校」の寮だ。
信じられない思いで体を起こし、部屋の片隅にある姿見へと駆け寄る。
鏡に映っていたのは、幼さを残した、寄宿学校に入校したばかりのあの頃の自分の姿だった。
(夢……? いや、あの死の痛みも、血の冷たさも本物だった。俺は……やり直しているのか?)
神の悪戯か、あるいは罰なのか。
「二度と近づかない」と誓ったはずなのに、俺は一番戻りたくなかった、二人と出会った原点へと引き戻されてしまったのだ。
胸を激しい動悸が打つ。
……いや、やり直せるならそれでいい。今度こそ俺の選択を変えればいいんだ。
ルディウスとメリーナに関わらず、二人の幸せを遠くから陰ながら見守る。俺さえ二人から離れれば、悲劇は二度と起こらない。
そう決意を固めた、まさにその時だった。
コン、コン。
ノックの音とともに、気楽な様子でドアが開く。
「あ、やっぱり起きてた! おはよう、エミル。食堂行こうよ」
そこに立っていたのは、眩しいほどの笑顔を浮かべた少年のルディウスだった。
何の汚れも、絶望も知らない、太陽みたいな俺の親友。
(……そうだ。ルディウスは何も覚えていない。俺だけが、あの泥沼のような罪を覚えているんだ)
胸を突く激しい罪悪感に息が詰まる。彼を見るだけで、あの冷たい血の感触が蘇ってくる。
俺は思わず一歩後ろへ後退りし、視線を逸らしながら冷たく言い放った。
「……悪いが、一人で行ってくれ。俺は……お前と一緒にいる気はない」
二度と関わらない。そのためには、今ここで突き放すしかなかった。
しかし、ルディウスは怒るでも傷つくでもなく、ぽかんと口を開けて首を傾げた。
「え……? エミル、どうしたの急に? 体調でも悪い?」
心配そうに距離を詰め、俺の額に手を伸ばしてくるルディウス。
そのあたたかな手が触れそうになり、俺は弾かれたようにその手をバッと振り払ってしまった。
「触るな……っ! 頼むから、もう俺に関わらないでくれ……!」
大声を出してしまった俺の肩は、激しく震えていた。
いきなり手を拒絶され、ルディウスは目を丸くして固まった。
振り払われた自分の手と、顔を青ざめさせて怯える俺の顔を、不思議そうに見比べながらポツリと呟く。
「……え、なに? 僕、何か嫌なことしちゃった……?」
何も覚えていないルディウスの純粋な困惑の表情。
突き放したいのに、離れようとすればするほど、彼の「なぜ?」という無垢な瞳が俺を追い詰めていく——。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
初めてのBL挑戦でドキドキしながら書いたのですが、いかがでしたでしょうか……?
エミルの重すぎる罪悪感と、何も知らないルディウスの距離感を楽しんでいただけていたら幸いです。
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