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余命半年の私に財産なんて必要ないと継母と妹に父の遺産をとられましたが、それは普通に窃盗です。  作者: 木山楽斗


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16/16

16.再起に向けて

 カルシアとクーレリア、それからスヴェルツが起こした一連の事件は、無事に解決した。

 ただ、オーヴァン伯爵家はそれなりに打撃を受けた。無論、揺らぐ程ではないが、それでも財産のいくらかがなくなっている。


「それで、結局の所、カルシアの最初の夫はどうなったんですか?」

「それが、カルシアによって毒殺されていたみたいなのよ。悪評をばらまかれた上でね」

「ということは、質の悪い男というのも……」

「真っ赤な嘘だったようね。どちらかというと、気が弱い人だったらしいわ。カルシアの横暴さに耐えきれず、離婚したみたい」


 私は、セオドアと顔を合わせていた。

 ことが一段落してからも、彼はオーヴァン伯爵家の屋敷に足を運んで来てくれている。

 それは私にとっては、ありがたいことだった。ゾーント伯爵家の方も、色々と大変だろうに。


「そこでカルシアは、殺害を計画したようね? 彼女にとって、夫の判断というものは侮辱であり、それからクーレリアに遺産を与えようとしていたみたい」

「なるほど、彼女はずっと変わっていなかったという訳ですか」

「ええ、そのようね。再起を願うなんて、無理な話だったのかもしれないわ」


 カルシアという女性は、過去から現在に至るまで変わっていなかった。

 他者を利用して、自らの私腹を肥やす。彼女はずっと、そうして生きてきたのかもしれない。


 ボルガー公爵もお父様も、利用されていたといえる。

 二人とも、彼女の根底にある悪意を見誤っていたのだろう。あるいは、カルシアという女性に惑わされていたのかもしれない。


 ともあれ彼女は、これで殺人の罪も被ることになった。その罪は当然ながら重いものだ。


「クーレリアも、そんな母の考えには賛同していたようね。まあ、その背中を見て育ったのだから、そうなったということなのかもしれないけれど」

「オーヴァン伯爵家にとっては、とんだ災難でしたね。彼女と巡り会ってから、アルティアさんはずっと苦しかったことでしょう」

「そうね。でも、それも終わりよ。巨悪は去ったのだから。セオドア、あなたのお陰ね。感謝するわ。本当にありがとう」

「いえ、僕は何もしていません。全て、アルティアさんが強かったから、解決できたことです」


 私はセオドアに、お礼を述べた。

 彼の存在は、本当に頼もしかった。本人は謙遜しているが、セオドアがいなければ、私は命さえもなかったかもしれない。だから彼には、感謝してもしきれない。


「そんなアルティアさんに、僕は伝えたいことがあるんです」

「あら? 何かしら?」

「ゾーント伯爵家は、今回オーヴァン伯爵家に多大なる迷惑をかけました。それでこんなことを言うのは、虫が良い話だと思います。これはどちらかというと、僕のわがまま、個人的な感情と言いますか……つまり、アルティアさんに婚約を申し込みたいのです」


 セオドアの言葉に、私は固まることになった。

 彼がいきなり、婚約などと言い始めたことに、理解が追い付かなかったからである。


 しかも今、セオドアは個人的な感情と言った。

 それはつまり、家の利益とかそういうことではないということになる。そこから導き出せる答えというものは、実に明快なものだった。


「セオドア、あなたは……」

「ええ、僕はアルティアさんのことを愛しています。一人の女性として……」

「そう……そうだったのね」


 セオドアは、私の目を真っ直ぐに見つめてきていた。

 彼は至って真剣である。本当に本気で、私のことを想っているということなのだろう。それが理解できた。

 そのことに対して、私は驚いていた。彼がそんな風に想ってくれていたなんて、考えてもいなかったことだ。


「嬉しいわ、セオドア。あなたがそう思ってくれていたことが……私も、気持ちは同じよ。セオドア、私はあなたのことが好きだわ」

「……え?」

「今回の件で、あなたがいてくれることのありがたさというか、あなたの良い所がよくわかったわ。これからも一緒にいて欲しいと、私はそう思っていたのよ」


 私は、セオドアに自身の素直な気持ちを伝えた。

 すると彼は、目を丸めていた。それは信じられない、というような表情だ。


 セオドアにとって、この返答は意外だったということだろうか。

 しかし、そう思われることが私にとっては意外だった。この気持ちというものは、薄々見抜かれているものだと思っていたのだが。


「そんなに驚くようなことかしら? 別におかしな話ではないでしょう? あなたは今回の事件で、散々私を助けてくれたのだから、そういう想いを抱くことは、自然ではないかしら?」

「……それはよくわかりません。第一、アルティアさんだって、僕の言葉に驚いていたではありませんか」

「……なるほど、お互い様ということかしら」


 セオドアの指摘に、私は自分が無理なことを言ったことを理解した。

 お互い様だというのに、自分を棚に上げてしまっていたらしい。セオドアの言っていることは、もっともだ。


 ただ要するに、私達は想い合っている訳である。

 それなら取るべき選択も一つだ。幸いにも、今の私にはそういったことの決定権もある訳だし。


「えっと、とりあえず、婚約は成立ということで良いのかしら? もちろん、ゾーント伯爵とも相談しなければならないとは思うけれど」

「父上も反対することはないと思います。しかし、本当に良いのですか? アルティアさんにとって、ゾーント伯爵――僕の顔は良い印象がないでしょうに」

「スヴェルツのことは、水に流すわ。別に彼の存在は、今回の件の大筋とは関係がないことである訳だし。それから、あなたとスヴェルツは違うわ。これは前も言ったと思うけれど?」

「そうですか。そういうことなら、良かったです」


 私の言葉に、セオドアは本当に安心しているようだった。

 双子であるため、色々と気にしてしまうということだろうか。しかし私は、彼がスヴェルツとは違うということをよく知っている。

 双子だからといって、同一視なんてもっての他だ。そう思っていることが、セオドアにも伝わると良いのだが。


「……そうだ。アルティアさん、こちらを受け取っていただけませんか?」

「それは……え?」


 そこでセオドアは、懐から箱を取り出した。

 彼はそれを開けて、中身を見せてくれる。するとそこには、見覚えのある指輪が入っていた。


 それは、クーレリアが売り払った両親の形見の指輪だ。

 類似品などではない。間違いなくあの指輪だ。それをセオドアがどうして持っているのだろうか。


「買い戻しておいたんです。アルティアさんにとって、これは大切なものだとわかっていましたから。ただ、これが精一杯でした。他の物は……」

「いいえ、充分よ。ありがとう、セオドア。あなたは本当に……優しいのね?」

「いえ……」


 セオドアは本当に、優しい人であった。私の心に寄り添ってくれる彼の存在が、どこまでもありがたい。

 これからも困難はあるかもしれない。オーヴァン伯爵家は大変な状況だ。色々と持ち直していく必要がある。

 だが、もう大丈夫だ。セオドアが隣にいてくれるなら、何だって成し遂げられると、そう思えた。



END

最後までお読みいただきありがとうございます。


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