16.再起に向けて
カルシアとクーレリア、それからスヴェルツが起こした一連の事件は、無事に解決した。
ただ、オーヴァン伯爵家はそれなりに打撃を受けた。無論、揺らぐ程ではないが、それでも財産のいくらかがなくなっている。
「それで、結局の所、カルシアの最初の夫はどうなったんですか?」
「それが、カルシアによって毒殺されていたみたいなのよ。悪評をばらまかれた上でね」
「ということは、質の悪い男というのも……」
「真っ赤な嘘だったようね。どちらかというと、気が弱い人だったらしいわ。カルシアの横暴さに耐えきれず、離婚したみたい」
私は、セオドアと顔を合わせていた。
ことが一段落してからも、彼はオーヴァン伯爵家の屋敷に足を運んで来てくれている。
それは私にとっては、ありがたいことだった。ゾーント伯爵家の方も、色々と大変だろうに。
「そこでカルシアは、殺害を計画したようね? 彼女にとって、夫の判断というものは侮辱であり、それからクーレリアに遺産を与えようとしていたみたい」
「なるほど、彼女はずっと変わっていなかったという訳ですか」
「ええ、そのようね。再起を願うなんて、無理な話だったのかもしれないわ」
カルシアという女性は、過去から現在に至るまで変わっていなかった。
他者を利用して、自らの私腹を肥やす。彼女はずっと、そうして生きてきたのかもしれない。
ボルガー公爵もお父様も、利用されていたといえる。
二人とも、彼女の根底にある悪意を見誤っていたのだろう。あるいは、カルシアという女性に惑わされていたのかもしれない。
ともあれ彼女は、これで殺人の罪も被ることになった。その罪は当然ながら重いものだ。
「クーレリアも、そんな母の考えには賛同していたようね。まあ、その背中を見て育ったのだから、そうなったということなのかもしれないけれど」
「オーヴァン伯爵家にとっては、とんだ災難でしたね。彼女と巡り会ってから、アルティアさんはずっと苦しかったことでしょう」
「そうね。でも、それも終わりよ。巨悪は去ったのだから。セオドア、あなたのお陰ね。感謝するわ。本当にありがとう」
「いえ、僕は何もしていません。全て、アルティアさんが強かったから、解決できたことです」
私はセオドアに、お礼を述べた。
彼の存在は、本当に頼もしかった。本人は謙遜しているが、セオドアがいなければ、私は命さえもなかったかもしれない。だから彼には、感謝してもしきれない。
「そんなアルティアさんに、僕は伝えたいことがあるんです」
「あら? 何かしら?」
「ゾーント伯爵家は、今回オーヴァン伯爵家に多大なる迷惑をかけました。それでこんなことを言うのは、虫が良い話だと思います。これはどちらかというと、僕のわがまま、個人的な感情と言いますか……つまり、アルティアさんに婚約を申し込みたいのです」
セオドアの言葉に、私は固まることになった。
彼がいきなり、婚約などと言い始めたことに、理解が追い付かなかったからである。
しかも今、セオドアは個人的な感情と言った。
それはつまり、家の利益とかそういうことではないということになる。そこから導き出せる答えというものは、実に明快なものだった。
「セオドア、あなたは……」
「ええ、僕はアルティアさんのことを愛しています。一人の女性として……」
「そう……そうだったのね」
セオドアは、私の目を真っ直ぐに見つめてきていた。
彼は至って真剣である。本当に本気で、私のことを想っているということなのだろう。それが理解できた。
そのことに対して、私は驚いていた。彼がそんな風に想ってくれていたなんて、考えてもいなかったことだ。
「嬉しいわ、セオドア。あなたがそう思ってくれていたことが……私も、気持ちは同じよ。セオドア、私はあなたのことが好きだわ」
「……え?」
「今回の件で、あなたがいてくれることのありがたさというか、あなたの良い所がよくわかったわ。これからも一緒にいて欲しいと、私はそう思っていたのよ」
私は、セオドアに自身の素直な気持ちを伝えた。
すると彼は、目を丸めていた。それは信じられない、というような表情だ。
セオドアにとって、この返答は意外だったということだろうか。
しかし、そう思われることが私にとっては意外だった。この気持ちというものは、薄々見抜かれているものだと思っていたのだが。
「そんなに驚くようなことかしら? 別におかしな話ではないでしょう? あなたは今回の事件で、散々私を助けてくれたのだから、そういう想いを抱くことは、自然ではないかしら?」
「……それはよくわかりません。第一、アルティアさんだって、僕の言葉に驚いていたではありませんか」
「……なるほど、お互い様ということかしら」
セオドアの指摘に、私は自分が無理なことを言ったことを理解した。
お互い様だというのに、自分を棚に上げてしまっていたらしい。セオドアの言っていることは、もっともだ。
ただ要するに、私達は想い合っている訳である。
それなら取るべき選択も一つだ。幸いにも、今の私にはそういったことの決定権もある訳だし。
「えっと、とりあえず、婚約は成立ということで良いのかしら? もちろん、ゾーント伯爵とも相談しなければならないとは思うけれど」
「父上も反対することはないと思います。しかし、本当に良いのですか? アルティアさんにとって、ゾーント伯爵――僕の顔は良い印象がないでしょうに」
「スヴェルツのことは、水に流すわ。別に彼の存在は、今回の件の大筋とは関係がないことである訳だし。それから、あなたとスヴェルツは違うわ。これは前も言ったと思うけれど?」
「そうですか。そういうことなら、良かったです」
私の言葉に、セオドアは本当に安心しているようだった。
双子であるため、色々と気にしてしまうということだろうか。しかし私は、彼がスヴェルツとは違うということをよく知っている。
双子だからといって、同一視なんてもっての他だ。そう思っていることが、セオドアにも伝わると良いのだが。
「……そうだ。アルティアさん、こちらを受け取っていただけませんか?」
「それは……え?」
そこでセオドアは、懐から箱を取り出した。
彼はそれを開けて、中身を見せてくれる。するとそこには、見覚えのある指輪が入っていた。
それは、クーレリアが売り払った両親の形見の指輪だ。
類似品などではない。間違いなくあの指輪だ。それをセオドアがどうして持っているのだろうか。
「買い戻しておいたんです。アルティアさんにとって、これは大切なものだとわかっていましたから。ただ、これが精一杯でした。他の物は……」
「いいえ、充分よ。ありがとう、セオドア。あなたは本当に……優しいのね?」
「いえ……」
セオドアは本当に、優しい人であった。私の心に寄り添ってくれる彼の存在が、どこまでもありがたい。
これからも困難はあるかもしれない。オーヴァン伯爵家は大変な状況だ。色々と持ち直していく必要がある。
だが、もう大丈夫だ。セオドアが隣にいてくれるなら、何だって成し遂げられると、そう思えた。
END
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしかったら、下にある☆☆☆☆☆から応援をお願い致します。
ブックマークもしていただけるととても嬉しいです。
よろしくお願いします。




