第44話 腹ぺこ猫
軽い調子で入ってきた青年は、ギターケースを壁へ立て掛けると、そのまま熊さんの背中へのしかかった。
「玄~~、お腹空いた~~」
「今日はもう少し待ってねー」
ただ熊さんの体格が良すぎて、背中からずるずる滑り落ちている。
ずり落ちながらも、肩に登ろうとするあの姿……。
何かしら、あの光景。
何かを思い出すわね。
「お腹と背中がくっついちゃうよ~」
「うんうん」
飼い主の足元で「ご飯まだ?」とにゃあにゃあ鳴く猫。
あれだ。
熊さん、猫人間を飼っていたのね。
……でも分かる。
熊さんの手作り料理は美味しいもの。
「かーな」
「だってー! お腹が空いたんだよー!」
キラキラ王子に窘められても引かない。
むしろ熊さんから離れまいと必死になっている姿が、どう見ても猫。
きゅるるるる……
盛大な音がスタジオに響いた。
……私じゃないわよ。
あそこの猫よ。
「ハンバーグ! 玄のハンバーグが食べたいー!」
駄々をこねる乱入猫のせいで、ラスト一曲に入れない。
終わらないじゃないの……終わらない、つまり、熊さんのご飯が遠のく。
いい加減にしなさいよねこの駄猫!
私だってお腹が空いてるのよ!
マイクの前から離れ、熊さんの背後に回る。
「残念だったわね! 今日の夕食は私がリクエストしたえびグラタンよ!」
本当は私は今日は来る予定じゃなかった。
キラキラ王子に強制的に連れてこられただけだけど。
でも……熊さんは前回、「次はこはるちゃんのリクエストね」って約束してくれたもの!




