第九十二話 お説教
第九十一話に少しだけ加筆をしました。
第九十二話 お説教
サイド 矢橋 孝太
「と、いう事が紅蓮を戻してからあったんだけど、紅蓮はどう思う?高橋由紀子が暴走しないかしんぱ、え、ちょっ、ほげぇぇぇええ!?」
東京から帰ってきて、自室にて紅蓮に今日あった事、特に紅蓮を戻した後の話を話した。紅蓮としてはそもそもなんで東京にいたのかさえわからない状況だったから、事情を話していなかったので説明したのだが、突然肩を掴まれたと思ったら強烈なボディブローを入れられた。
誇張でもなんでもなく一瞬意識がとんだ。ダメージの肩代わりが無ければ上半身が爆散していた。というか衝撃と痛みで泣きそうというか泣いた。漏らさなかったのは僥倖としか言えない。
どうにか視線をあげれば、鎧の腹部にヒビがはいっているのを放置して、紅蓮が何かをボードに書いている。
「『ブーステッドツリー』」
とりあえず紅蓮のお腹を直しておく。
『何故、ご自分だけでその様な決定をなされたのですか?』
「え、えっと、紅蓮はそんな私有地以外でポンポン出すわけにはいかないし、正樹さんに話したらついてくって言うだろうし」
『正樹殿以外の東条家の方々に相談しなかったのは?』
「こ、これ以上迷惑をかけるのは申し訳なっぁぁぁああああ!?」
頭を掴まれて膝蹴りを叩き込まれた。頭が消し飛んでた。絶対消し飛んでた。世界樹の加護はまだ発動しているので、紅蓮も兜にヒビがはいったがすぐに直った。
『我が主よ。貴方が他人の考えに流されるだけではなく、自分でも考えるようになったのは嬉しい成長です』
「待って?とりあえずちょっと待って?漏らしてないか確認するからちょっと待って?うん、大丈夫だった。危なかったけど」
『ですが、全て自分だけで考えて、結果利用されるだけというのはいかがなものか』
「そ、それは。一応都合のいい男って思われている自覚はあるけど、それでも彼らに頑張ってもらわないと日本が」
『せめて、自分で考えた上で、信用の出来る誰かに相談する癖をつけなさい』
「ぐぅ……」
確かに、自分でも軽率だったとは思う。
『あと、正樹殿には黙っていて欲しいというのは、無理があります。遅かれ早かれ彼には主が防衛作戦に参加する事は伝わるでしょう。主が逆の立場だったら、どうなさいますか?』
「それは……」
自分は、かなり失礼な事をしてしまったようだ。紅蓮に殴られるのも仕方がない。
「ちょっと、正樹さんに連絡してみる」
『そうしてください。私はパソコンをお借りします』
紅蓮がパソコンを操作しだしている横で、正樹さんに連絡をとる。
『もしもし?どうしたよ突然今日は休んで。何かあったのか?痔か?』
「違います。その、正樹さんにお話ししたい事が……」
『OKわかった。つぎ会ったらお前のケツを蹴る』
「まだ何も言ってないんですけど!?」
『お前の話し方でわかるわ。なにかやらかしたな?』
「いや、はい。まあ……」
そんなわけで、東京であった会話を説明すると、正樹さんが凄まじく大きなため息をついた。
『お前さぁ……まだ高校生なんだから、帰って親に相談しますぐらい言えよ』
「ごもっともです……」
『いやね?自衛隊があのテロリスト共を蹴散らす間、日本を守るって判断自体は間違ってねえと思うよ?もしもそこが突破されたら、俺らが住んでるところだってヤバいし』
自分達が住んでいるのは太平洋側だが、モンスターが上陸したらそんなものは関係ないだろう。
『けどな?お前今の政府からどう思われてると思う?滅茶苦茶都合のいい男だぞ?昭和でいうところのアッシー君とかメッシー君とかそのレベルだぞ?』
「ぐぅ……」
『確かに、日本は今ボロボロだよ?現役の総理大臣はじめ、有力な大臣の大半が殺された。で、今トップにいるのはそれに一枚噛んでいたとしか思えない爺だよ?今回テロリストがこっちに脅迫してきたのも、今の日本なら相手取れるって思われたからだよ?けどな?お前が苦労する必要はないんだからな?』
いっそ怒鳴られた方が精神的に楽なのだが、正樹さんの声はとても優しい。
『お前の働きのおかげで、救われる命がある。報酬とか交渉していたら、その分死ぬ命も増えていたかもしれない。で、それはお前のせいかっていうとそんな事はないんだ。お前はさ、自分は分不相応な力を持っているから、それに見合った事を、自分がやらなきゃって思っている節がある』
「そんな、ことは……」
『それでも、俺達親友だろ?頼れよ。俺はお前の為なら死んでやれる。お前はどうだ、孝太』
「……死ぬのは嫌ですけど、ある程度なら付き合うつもりです」
『そこは地獄までもお供しますぜブラザーと言ってほしかったなー』
「いや、それはちょっと……」
『マジトーンで返すなよ。とにかく、俺からは以上だ。今度、一日付き合え。お前の奢りで遊び歩くぞ』
「わかりました。色々すみません」
『謝んなよ。俺もその防衛戦?とやらに参加するから、背中は任せたぜ』
自分の視野が狭くなっていたのを実感する。電話越しだが頭を下げていた。
『じゃ、百合に変わるから』
「ゑ???」
ちょっと待ってそれは心の準備が出来ていない。
『矢橋さん。百合です』
「はい!」
『木刀と石を抱くの、どちらがいいですか?』
「両方嫌です!」
『わかりました。両方同時ですね?』
「マッテ!?」
電話越しに大きくため息をつかれる。うわぁ、この反応兄妹そっくり。
『いいですか?一人でも多く救いたい。そのお考えは立派なものです。ですが、自分を蔑ろにする方に救えるものなどたかが知れていますよ?』
「ごもっともです……」
『私もその日本海の守りに参加する予定ですが、矢橋さんは目を離すと何をしでかすか分かりませんね。今度、紅蓮殿とお話させていただきます』
「えっ、ちょ、百合さんも参加するんですか!?」
『私も十五です。冒険者のライセンスも手に入れました。参戦要請もあったそうなので、出陣する予定です』
「だ、ダメですよ!危険すぎる。百合は後方で」
『寝言は寝ている時に仰ってくださいますか?』
「ひえ」
思いのほか冷たい声に背筋が凍る。
『私は後ろで待つつもりはありません。まして、兄様や矢橋さんが前に出ているのです。座して待つなど出来ません』
「け、けど」
『では、防衛につくときは矢橋さんの隣にいさせて頂きます。それなら問題ありませんね?』
「問題しかありませんけど?」
『そもそも、矢橋さんに私が出陣するしないをどうこう言う権利はありません。既に家族は説得済みです。……ちょっとやり過ぎましたが』
なにをやったんだこの人。
『ともかく、私は貴方の隣にいます。よろしいですね?』
「は、はい!?」
有無を言わさぬ声音に、思わず頷いてしまった。
『あと、これからはダメダメな矢橋さんの事は、下の名前で呼ぶことにします。よいですね?』
「はい!どうぞ豚とお呼びください!」
『……?そちらの趣味が?』
「ないです!自分はノーマルです!」
『では、これからは孝太さんと、お呼びさせて頂きます。あと、兄様と遊びにいった翌日にでも、私の荷物持ちをして頂きますのでご覚悟を。それでは、また明日学校で』
通話が切られ、どっと冷や汗がでる。怖かった。なんかよくわからないけど、百合と話していると『鷹に捕まえられているネズミ』の姿を幻視するのだ。もはや食べられる寸前である。
『お叱りはきちんと受けましたか?』
「一応、はい、たぶん……」
それにしても、百合の荷物持ちって何をすればいいのか。女の子と買い物とか言った事がないからよくわからない。
「そういえば、紅蓮はなにを?」
『これを作っていました』
「え、何そ、おぇぇ……」
今口の所まで胃液がせり上がってきた。マジで吐くかと思った。なんというおぞましい光景か。
パソコンの画面には、木下総理と前田防衛大臣、石田副総理の三人が裸で組んずほぐれずしている姿があった。
『合成ですが、そう簡単には見破れない出来だと自負しています。これと一緒に、木下総理のスキャンダル情報を適当な証拠と一緒に拡散します』
「え、ちょ、そんな事して家のパソコンでやったってバレない?」
『おそらくバレます。むしろバレなければ困ります。これは牽制なのですから。主をいいように使おうとするなら、このようなお遊びではなく、明確に木下政権を潰す資料をばらまくという』
「……色々思ったんだけど、どこでそんな情報を?」
『百合殿から主のパソコンへ、私あてにメールがありましたのでそこからですね』
……なんであの人、僕のパソコンのアドレス知っているんだろう。
『ついでに、小沢何某の妻が浮気している情報も流しておきました』
「え、あの人結婚していたの!?というか浮気されてるの!?」
『はい。冒険者が制度として認められたあたりから、大学生の冒険者とですね。ちなみに、小沢何某の娘さんは新婚の時隣の家に住んでいた男子高校生との子供なのですが、それは流石に黙っていてあげましょう。来月結婚式らしいですので』
「待って!?僕今度小沢さんと会う時どういう顔をしてけばいいの!?」
『優しく笑ってあげればいいのではないでしょうか?』
そんな情報知りたくなかった。
とりあえず、今度会ったら小沢さんに適度?な範囲で優しくしてあげようと、心に誓った。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




