第八十五話 電撃作戦
第八十五話 電撃作戦
サイド 矢橋 孝太
小沢さんに連絡をとる。
「もしもし、小沢さんですか?」
『矢橋君!よかった、無事だったんだね!』
電話越しに、本気で心配している声が聞こえてくる。だが、今は信用できない。
「先ほど高橋由紀子の使い魔による襲撃を受けました。それの撃退に成功したので、報告を」
『はい、こちらでもティターニアが君のいるホテルに向かったという報告を聞いています。だが、まさか矢橋君が狙われるとは……いや、明智元防衛大臣も君のスキルを』
「理由は分かりませんが、襲われたのは事実です。追撃があるかもしれないので、僕は知り合いを頼りに身を隠そうと思います」
『え!?待ってください。こちらから人を送ります。その方が』
「小沢さん。あなたの周りにスパイがいるかもしれません。僕が今ホテルにいる事を知っている人は何人ですか?」
『そ、それは……』
「僕は貴方を信用しています。だからこうして電話をしました。落ち着いたらまた連絡します。では」
『まっ』
電話を切ると、正樹さんが凄い呆れた顔をしていた。
「……なんですか」
「いや演技下手だなって」
「猫かぶれと言われて『子猫ちゃん』呼びしてきた人に言われたくありません」
「お前それは忘れろよ!?」
黒かもしれない小沢さんに電話をしたのは、保険だ。これからやる事をかばってくれる人は多い方がいい。たとえ黒でも、この作戦が成功すれば味方にならざるをえないはず。……たぶん、おそらく、メイビー……。
ホテルを出て、正樹さんの案内に従いどこかの雑居ビルにへと入っていく。ちなみに源一郎さんの使い魔は影に潜っている。そういうスキルだろうか。エレベーターを使って五階に上がると、黒服の男たちが整列していた。
「爺ちゃんからの支援だ。こいつら全員Cランク以上の使い魔と契約してる。とりあえず五十人は集められたってよ」
「み、皆さんよろしくお願いします」
どう見ても堅気には見えない。正直怖い。彼らびしりと気を付けの姿勢をとり、こちらに頭を下げてくる。その中から一人の男が出て来た。
「お久しぶりです、矢橋さん」
「えっ」
誰だっけ、この人……いや、待て、見覚えはある。見覚えはあるけど名前が思い出せない。
「は、はい。お久しぶりです」
とりあえず愛想笑いを浮かべてお辞儀をしておく。彼は静かにほほ笑んで、名刺を出してきた。
「吉田将司です。役職が変わったので、改めて名刺を」
「え……ああ!?吉田さん!」
思い出した。そうだⅮランクダンジョンで話しかけてきた彼だ。完全に忘れていた。
「ええ。吉田です。覚えていてくださって光栄です」
「あ、いや、そのすみません……」
気まずい。だが、何故ここに吉田さんが?そう思って視線を向けると、彼は後頭部をかきながら苦笑を浮かべた。
「いやあ、雇い主から出来るだけ有力なハンドラーとは顔をつなげておけと言われていましたので。どちらかと言えばこちらが本業です」
「そ、そうですか」
雇い主って、東条家か?
「言っとくけど、その人は出向組でうちの人じゃないぞ」
横から正樹さんが訂正してくる。ナチュラルに心を読むのはやめて欲しい。
「さて、一応色々準備したわけだが、当然守勢に回ってどうにかなる戦力じゃないのは分かっているよな?」
「はい……」
先ほどのティターニア戦。あれは奇襲が上手くいったに過ぎない。二度も成功するとは考えない方がいいだろう。だから、こちらから攻め込む必要がある。
「その件で、恭弥様から連絡があります」
そう言って吉田さんが差し出した封筒をあけて中身を読み、正樹さんが渋面をつくった。
「あの古だぬき……」
「え、どうしたんですか?」
「いや、爺ちゃんは相変わらずどういう人付き合いしているのかって思っただけだ」
そう言って渡された手紙には、現在明智一党がいるであろう隠れ家の場所、人数、所持使い魔、現場にいる海外からの協力者など、色々な事が書いてあった。
「ええ……」
ありがたい情報だ。凄く有用である。だけどあの人どうやってこんな事調べたんだよ。
「恭弥様からは、上手く使いなさいと伝言が」
「あの爺ちゃん、今宿題だすなよ……」
そう正樹さんがうめいた後、黒服の人達に指示をだして大きな地図を持ってこさせる。長机にそれを広げ、ペンで色々書き込んでいく。
「あの、この地図変じゃないですか?」
東京の地理には詳しくないが、それでも所どころおかしいのはわかる。ないはずの駅があったり、変な道があったり。
「ああ、これ一般に知られちゃいけない系の地図だからな」
聞くんじゃなかった……!
「でだ。明智一党は地下に潜んでいて、人数は三十人。うちCランクが十五人。Aランクが四人。で、高橋由紀子と」
明智一党の隠れ家の位置を地図に書き込み、正樹さんが考え込む。
「まあ、この際孝太を狙った理由は考えなくていいな。攫う利点が多すぎてきりがない」
「なんでこんな事になっちゃったんでしょうね……」
思わず遠い目をしてしまう。こっちとらただの高校生だぞ。国家を揺るがす事件とかよそでやってくれ。
「でだ。まあ順当に考えて奇襲するしかないだろうな」
「それは賛成ですが、難しいでしょう」
吉田さんが地図を指さす。
「入口は三カ所。どこも当然見張りがいるでしょうし、いざとなったら逃げられかねません。戦力を三カ所に分散させるのは下策でしょう」
「おう。まあぶっちゃけ奇襲して明智の首をとるだけなら簡単なんだよ。なあジャック」
陰から源一郎さんの使い魔が出てくる。
「お望みとあらば、明智何某の首をお持ちしますが?」
「いや、殺しはなしだ」
「何故ですか?それが最も確実な策なのでしょう?」
吉田さんがまっすぐと正樹さんの目をみる。まるで見定めるかのように。それに対し、正樹さんは正面から見返す。
「ダメに決まっているだろう。俺たちは今回『正義の味方』でなきゃいけないんだ。後々ツッコまれる要員をつくるわけにはいかないんだよ。人死には敵も味方もなしだ」
その答えに満足したのか、吉田さんはニッコリと笑う。
「では、どうやって、奇襲するので?」
「それは当然」
ジャックと呼ばれた使い魔に、正樹さんが突撃槍を見せる。
「こいつを使うっきゃないだろう」
またやるのか人間ビーム砲。
* * *
夜、地元なら人もいないくなる時間帯だが、流石東京。まだまだ人は多い。だが、黒服の人達が手を回してこの周辺だけ人はいない。
「じゃ、行くぞ」
「はい。『ブーステッドツリー・スプリンター』」
バフをかけると、正樹さんが高く跳び上がる。空中には、既にバフを盛った紅蓮がハルバードを構えている。急いで自分も金剛に抱えられて避難する。
「ぶっとべぇ!」
紅蓮の振るったハルバードを足場に、地面目掛けて正樹さんが突っ込んだ。
轟音と土煙、コンクリートの破片が飛び散る中、「突入!」という声が響いた。自分も烈風に金剛と一緒に乗って出来上がった大穴に跳び込む。
深い穴だ。それこそ生身で飛び降りたら死にかねない。烈風が衝撃もなく着地すると、既に戦闘は起きていた。
「おらあ!雑魚は引っ込んでろ!」
何故か戦闘で槍を振り回している正樹さんに慌てて近寄る。いつの間にか降りて生きていた紅蓮も一緒だ。
「正樹さん、対象は!」
「ちょうどおいでなすったぜ!」
彼の視線の先を追うと、そこには高橋由紀子と、金髪の少女、アリスが立っていた。
「なによあんたら、こんな夜中に」
「夜の舞踏会に招待しに参りましたお嬢さん。一曲踊って頂けますか?」
「うわキモ」
「うるせえぶっ飛ばすぞ」
正樹さんが突然きざな事を言いだしたせいでさぶいぼが立った。なにこの不審者。
「へえ、踊ってほしいってさ、アリス」
余裕の表情を見せる高橋由紀子に対し、アリスの表情は硬い。
「『ブーステッドツリー』」
「時よ」
「『スプリンター』!」
「止まれ」
金色の懐中時計を持ったアリスがなにか言っているが、構わず正樹さんを射出する。一瞬周りが止まった気がするが、きっと気のせいだろう。
「なっ!?」
迫りくる正樹さんの槍に動揺しながらも、アリスは対応してみせた。
心臓狙いの一撃を、左手の平を穂先に合わせる事で肘から先を犠牲にしつつ受け流してみせたのだ。霜の巨人すら反応出来なかった一撃をである。そのまま右の拳を握り、正樹さんの横腹に打ち込もうとした。
だが、ここには紅蓮がいる。
炎をまき散らしながら接近した紅蓮が、ハルバードで斬りかかる。アリスが拳を振るうのを中断し、右手を盾にする。だが、防ぎきれずに腕ごと右肩から左の脇腹にかけて深く切り裂かれた。
「ジャバウォッキー!」
追撃を入れようとした紅蓮が正樹さんを蹴り飛ばしながら後退する。次の瞬間、二人がいた位置に一体の化け物が立っていた。
竜人とでも呼べばいいのか。血のように紅い鱗を纏った二メートル半ほどの怪物がうなり声をあげていた。
「え、ちょ、アリス!?なにやってるのよ!」
「すみません、マスター。あの人たち、『時計屋さん』は効かないみたい」
両腕を失い、おそらく心臓まで破壊されているだろうアリスだが、未だ二本の足で立っている。だが、召喚された怪物はそうもいかないらしい。
見るからにティターニアが連れていた騎士達よりも強力な使い魔だ。だが、使い魔による使い魔の召喚は、ハンドラーのそれとは違いいわゆる魔法系のスキルに分類される。
魔法系のスキルは、自分の世界樹の加護や視覚共有のように念じれば発動するタイプと違い、スキルを習得する時にその魔法に関する知識をインプットされる。そして、発動時には明確に魔法について考えなければならないのだ。
それこそ、魔法とはかつてマリー先生が言っていたようにスキルカードを使わずに習得しようと思ったら、初歩の初歩でも数年単位の勉強期間が必要なほどだ。
故に。
「ちょ、ちょっと!ジャバウォッキーが」
異形の怪物は脆くも崩れ去った。残されたのは、満身創痍のアリスのみ。
紅蓮と正樹さんが静かに武器を構えるのを、アリスは小さくため息をつきながら眺めていた。
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