第七十七話 東条正樹という男
第七十七話 東条正樹という男
サイド 矢橋 孝太
電話があったのが朝だったのと、学校は休校中だという事もあり今日正樹さんに会いに行く事にした。
「何やってんですか……」
「孝太、お前もこのアホ鳥どけるの手伝えぇ……!」
なんか、正樹さんが使い魔と融合した状態で金ぴかの鳥人間、おそらくガルーダと掴み合って力比べしていた。
「……『ブーステッドツリー』」
「ようし、バフがのればこっちが有利……おい、なんでアホ鳥の方にかけてんだよ!?」
「いや、アホは貴方では?」
思わず真顔になってしまった。何やってんだこの人。まあ、一応住宅地で全力戦闘するほど頭がわいたわけではないようだが。
というか、黒いローブ姿をした謎の使い魔も縄を持ってスタンバってる段階で詰みでは?ガルーダが強引に押さえつけにはいったら、そのままガルーダもろとも縛り始めたし。
「だぁ!?邪魔すんなお前ら!」
「静まり下さい坊ちゃま。ひいお爺様も悲しみますよ」
「坊ちゃまはやめろ!名前で呼べ!」
「え、今のお姿を見るに坊ちゃまで十分では?」
「殴る。お前は絶対殴る……!」
ローブの使い魔にまで煽られてるし……。
「すまんな、矢橋君」
「あ、いえ、お邪魔してます」
下駄を鳴らしながら源一郎さんが出て来たので、慌てて会釈する。ローブの使い魔もその場で片膝をついているので、もしかしてこの人の使い魔か?
「君の連絡があって助かった。危うくこの馬鹿を逃がすところだった。まさか小舟で大陸まで行こうとするとは……」
「せめてもっとましな船を用意すると思ってそちらをはっていましたからね……」
百合さんが頬に手を当ててため息をつく。どうでもいいけど、いつの間に自分の背後に?
「えっと、正樹さんはなんでここまで意固地に?」
これまでも勝手に思いつめて大陸に行くとか言う事はあったが、使い魔と融合してまで出ていこうとするとは。
「それは……」
「お前には、関係ない。俺の事情だ」
百合さんが珍しく言葉を詰まらせ、正樹さんがこちらを見つめながら言ってくる。なるほど。
「つまり、この前の一件で僕に迷惑がかかったから『このまま俺がいたらマイフレンド孝太君にいらない火の粉がかかっちゃう。ぴえん』と思って、大陸に行くと決めたと」
「そんな事……ちょっと待て、なんか俺の事馬鹿にしてない?」
「まあわりと本気でこの人馬鹿なんだなぁって思ってます」
「なんでだよ!?知的クールで通ってるだろ俺は!?」
「正樹さん。いつの間に幻術にかかったんですか?貴方は普通にズッコケ枠ですよ?」
「てめえ人が動けないからって好き勝手言いやがってぇ……」
「いえ、これでもだいぶオブラートに包んでいますよ。本音はもっと怒ってますし」
「は?いや、なんでお前が怒ってんだよ」
本気で分からないという顔にイラっときた。無言で百合さんがマジックを差し出して来たのでお借りする。とりあえずほっぺたに『バカ』って書いとこ。
「ちょ、お前それ水性じゃん!?肌にやると落ちづらいんだぞ!?」
「わー、そうなんですかしりませんでしたー」
「わたしもきぐきませんでしたー」
「確信犯じゃねえか!」
さて、この馬鹿の説得。どうしたものか。
「ちなみに、どんな感じで説得しようとしたんですか?」
「ひいお爺様とお爺様、お婆様とお母様の四人でどれだけ兄様を大切に思っているかと、大陸に行ってどうする気だと説教を。私も参加していかに兄様を思っているか伝えようとしたのですが、何故かお父様とお母様に止められてしまいました」
何故だろう、百合さんを止めたのは英断な気がしてならない。
「で、それだけお説教を受けたのにこの有り様だと」
「どうやら、かえって『これだけ思われているのならなおさら自分がいては争いを呼ぶ』と考えてしまったらしく……」
「うわぁ、馬鹿だ」
「おう、お前縄解けたらプロレス技フルコースしてやるから覚悟してろよ……!」
馬鹿が何か言っている気がするが無視する。無視するけどいつでも紅蓮呼び出せるようにしておこう。
「ば……正樹さん」
「今馬鹿って呼ぼうとしなかったか?」
「真面目に話しているんです。ふざけないでください」
「いやふざけてるのはお前の態度だからな?」
「とりあえず、貴方が大陸に行った場合、ご家族がどうなるか考えましたか?」
「それは……」
露骨に目をそらしやがったこの馬鹿。
「考えたんですね?『わー、厄介者が出て行ってくれたぞやったー』って喜ぶと思いましたか?」
「……俺の家族が、そんな事言うわけねぇ」
「でしょうね。少ししか交流のない僕でもそんな姿は想像できません」
目をそらし続ける馬鹿の頭を掴んで強引にこちらを向けようかと思ったが、身体能力に差があり過ぎるので諦めてこちらから覗き込む。
「で、貴方の家族はどういう行動に出ると思います?」
「……俺を、探すかもしれない」
「でしょうね」
容易に想像できる。使えるコネをフル活用して正樹さんの行方を追うだろう。その過程でかなりの無茶をするかもしれない。百合さんなんて倒れそうだ。
「ついでに言えば、僕や三銃士だって探し回りますよ。なんなら僕は貴方を追って大陸まで行きます」
「は?なんでお前がそんな事」
「万一僕が大陸にさらわれた場合、貴方が追いかけてきそうだからですよ」
自惚れかもしれない。だが、この人ならやりかねない。だって、自分達は友達で、戦友なのだ。
「それでもまだ大陸に行きますか?言って僕を大陸まで探しに行かせる気ですか?」
少し離れて、黙ってしまった正樹さんを見下ろす。数秒程黙った後、こちらを見もせずに、俯いたまま喋る。
「……それでも、俺がいたままの方がお前らに迷惑がかかる」
「その根拠は?」
「俺は、人間じゃない」
自分の眉がピクリと跳ねたのがわかる。背後で源一郎さんと百合さんが反応したのも、振り向かずともわかる。
「俺を物扱いする奴らがいる。俺を実験動物にしたがる奴らがいる。俺をおもちゃにしたがる奴がいる。……俺は、お前たち以外には人間扱いされない」
とりあえず黙って聞いておく。
「親父達がパーティーによく行くようになったのは、俺がこうなってからだ。そういうの嫌いだった癖にだ。誰だってわかる。俺を守るためだって」
ようやく馬鹿がこちらを向いた。その目には、うっすらと涙が見える。
「今日だって忙しそうに出ていった。けど、俺には『心配するな』としか言わないんだ。ふざけんなよ……俺は、俺だって家族が大事なんだよ。俺だって守りたいんだよ」
そう言って、似合いもしない媚びた笑みを浮かべる。
「だから、俺を行かせてくれ。大丈夫、これでも生き残る事に関しては自信があるんだ。心配しなくていい。偶に手紙ぐらいは出すからさ。頼むよ……」
あ、もうダメだわ。
「すみません、この縄ってほどけますか?」
「うむ」
源一郎さんが頷くと、ロープが一人でに解けてローブの使い魔の手に収まっていく。
「ありがとう……」
立ち上がってどこかに歩き出そうとする馬鹿の正面に回り込み、襟を掴む。
「『ブーステッドツリー・スプリンター』」
「はっ?」
自分にバフを盛って思いっきり頭突きする。
不意をついた一撃だったが、使い魔と融合している目の前の馬鹿には通じない。むしろこちらがダメージを受けている。額から血が流れるのを感じる。だが気にしてはいられない。
……いややっぱすごく痛い。だけど、今目をそらすわけにはいかないのだ。
「ちょ、孝太?お前、血が」
騒ぎ始めた馬鹿から一歩距離をとり、額の血を拭う。すでに傷は塞がった。
「おい馬鹿」
「いや、お前大丈夫かよ。凄い音したぞ!」
「喧嘩しますよ」
「は、いや、喧嘩?」
掴んだ襟は離さない。そのまま睨みつけてやる。
「使い魔無し。スキルあり。武器あり。一対一の殴り合いです。全力で喧嘩しますよ馬鹿野郎」
たぶん、人生でここまで怒ったのは初めてだ。
「ちょ、何言って」
「逃げた場合、僕は本当に大陸まで追いかけて殴りに行きます」
「その喧嘩。儂が許可する。……すまんな、矢橋君」
「いいえ。この馬鹿には一度ド突き合いでコミュニケーションとらないとたぶんダメです」
「場所は例の採掘場跡でよろしいでしょうか?」
「そこでお願いします。時間は一週間後で。不謹慎ですが、休校中でよかった」
源一郎さんと百合さんも賛成してくれたようだ。危なかった。自分が言い出さなければ、この二人が言っていたかもしれない。
「ま、待て。使い魔無しって、俺とお前が?勝負になるわけないだろ。お前が怪我するだけだ。納得できるわけないだろ」
「貴方に拒否権はありません。言っときますけどこっちは使えるコネ全力で使っていくつもりなので、なんならパトカーに追われるのは貴方ですからね」
「どうしたんだよ孝太。お前らしくないぞ。冷静になれって」
「冷静じゃなくしたのは貴方の馬鹿な発言ですよこの馬鹿」
「馬鹿ってお前な……!つうかひい爺ちゃんも止めろよ!殴り合いの喧嘩とか、ダメだろ絶対!」
「儂は知らん。その日は警察やマスコミもお主らが戦う所には近づかんだろう」
「私は一応審判として立ち会います。どちらかが死ぬと判断したら使い魔を割って入らせますので」
「よろしくお願いします。二人とも」
これで話はまとまった。
「一週間後、首を洗って待っていてください」
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




