第七十一話 気晴らし
第七十一話 気晴らし
サイド 矢橋 孝太
もうなんか色々嫌になったので、久々にCランクダンジョンに来ていた。
源一郎さんが『正規の手順で裁判を受ける事はない』と言っていて、葛城始子の病死報道。どう考えてもおかしい。というか、自分がスキルを使った段階で病気の類は治っているはずだ。キメラの力を使った事による未知の副作用の可能性はあるが……。
十中八九、病死と言うのは嘘だ。別の理由で死んだか、あるいは死を偽造したか。前者は何らかの口封じだと考えよう。正直キメラについてやら北園組に近づいた伝手やら理由は浮かびすぎるので捨て置くとして、後者だった場合の理由を考える。
正直、嫌な想像がうかぶ。日本は強いハンドラーを喉から手が出るほど欲している状態。そんな時に先天型の強力な使い魔をつれた凶悪犯が捕まったとする。自分ならどうするだろうか。まあ、どうにかして手駒にできないか考えるだろう。
そして、手駒にする方法も政府なら簡単だ。洗脳系のスキルは規制されているとはいえ、そもそも規制しているのは国だ。いくらでも使えるだろう。
となると、葛城始子は洗脳により操られ、病死したという事にしてある程度動かせる手駒にしたというわけか。
本音を言うと、葛城始子に同情はない。それだけの事をやらかしたと思っている。だが、それはそれとして政府がそんな手段をとったと考えたくない。世界樹の加護でそういったスキルは自分には効かないが、ある日気づいたら友人や家族に使われていないか、心配になってしまう。
自分を縛り、利用するためにそんな事をされるかもしれない。そう思うだけで吐き気がしてくる。ただでさえ精神的に参っているのに、これ以上は勘弁してくれ。というか、葛城始子が生きていて操られている可能性を、退部した先輩に伝えた方がいいのだろうか……。
「はあ……」
溜まりに溜まったストレス。どうやって解消するか考える。エッチな事は毎晩している。精神的にかなり満足しているが、それだけではこのイライラは解消されない。
ならどうするか。もういっそ散財しちゃえとなるのに時間はかからなかった。
貯金の半分ぐらい使って、装備アイテムを買いあさった。反省はしているが後悔はしていない。なんかもうむしゃくしゃしてやった。
長すぎる人生を考えたらお金はいくらあっても足りないのだが、それはそれとしてハッスルしたい。お大仁となって金をばらまいた。
そんなわけで購入した装備カードの性能を確かめるためにも、Cランクダンジョンで戦闘を繰り広げている。
「ヒャッハー!」
まず稔。ビキニアーマーの上にシースルーのマントを身に着けている。あれは遠距離攻撃に対してオートで防御してくれる優れモノだ。ただし、Bランク以上の攻撃は普通に突破されるかもしれないので過信は出来ない。
それでもナーガ達の魔法攻撃には十分効果を発揮している。黒い魔力の塊が撃たれるたび、マントがひらめいて盾となっている。
『行きます』
次にフェリシア。ずっと戦闘ではサポートに回っていた彼女だが、今は最前線にいる。
ドラム缶を彷彿させる胴体。四つ足の武骨な下半身。胴体から伸びる腕の先にはペンチみたいな手。端的に言うと、アニメに出てきそうな作業用ロボットである。
その性能はCランク使い魔に匹敵し、今も木々をなぎ倒しながらオークと殴り合っている。リーチの差で圧倒しており、懐に入られないよう立ち回りも上手い。追加装備でつけたキャノン法|(弾は魔力)も上手く使いこなしている。
これだけの性能なら、いっそ人間も乗ればいいのに。そう思って乗ったハンドラーがいたらしいが、顔と下半身から出る物全部出して使い魔に救助されたとか。人間には衝撃も機動もついていけないモンスターマシンなのだ。
ただし、装備カードなので世界樹の加護が効かないから戦闘中回復、というか修理は出来ない。そしてどうあがいてもCランク相当なので、値段も考えたら『それゴーレムでよくない?』という扱いの装備カードだ。
そしてそんなゴーレムであり、モンスターが溢れた事件の日に契約した大角。大角はその両肩を紅い追加装甲を張り付け、手に斧を持って暴れている。
ぶっちゃけて言おう。趣味である。本当は全身を紅く染めたかったが、自重した。防御力、攻撃力ともに強化され、世界樹の加護も受けた彼……彼?はオーク達相手に無双している。ナーガ達の攻撃もまるで効いていない。
その次に金剛。彼は一見装備を付けていないようで、実は今回一番高価な装備カードを身に着けている。
両足のくるぶし。その外側に一対の車輪が浮かんでいる。それを高速で回転させながら、金剛は走り回っている。
炎を吹かした紅蓮並みの速さで動き回る金剛は、次々ナーガを轢き殺している。あれこそがあの装備カードの力だ。効果は単純に移動速度が上がるだけ。だが、その効果はワンランク分。かなりの性能だ。競り落とせたのは運も絡んでいる。
金剛のはしゃぎようは新しいおもちゃを貰った子供のようで、元気にモンスターを潰していっている。
最後に烈風の装備は、いわゆる馬の鎧だ。黒をベースに金色と紅で装飾した鎧はかっこいい。鞍もついているので、乗りやすさもかなり上がった。効果は、まあいわゆるバリアーだ。それを展開したまま轢き殺すも良し。搭乗者を守るも良し。順当に便利だ。
紅蓮には相応しい装備カードが見つからなかったのと、レイナは変な物ばかり欲しがったから今回はなしだ。……なんでレイナは装備カードじゃなくて現実の銃火器を欲しがるのか。いや理由はわかるけど、普通に犯罪だから駄目だ。
結局今日はひたすらCランクダンジョンの奥に籠って蹂躙を続けた。
「今日はありがとございました、正樹さん」
「いいよ、俺もストレス溜まってたし」
一応部活動の一環なので、正樹さんにも一緒に来てもらっていた。彼は彼で違う階層で暴れていたらしい。なんか偶然見かけたパーティーがピンチだったから助太刀していたとか。
どうでもいいけど、その助けられたらしいパーティーの男性陣が頬を赤らめて正樹さんを見ているのはいいとして、その後ろにいる紅一点の顔が阿修羅のようなのは大丈夫だろうか?まあ、正樹さんなら何とかなるだろう。関わったら面倒そうだしスルーしとこ。
気が付けばもう二月だ。三年生はやり遂げたような、もしくはこの世の終わりみたいな顔をしている。
「そういえば、正樹さん受験勉強はいいんですか?」
部室での報告会も終わり、正樹さんに問いかける。
「あ、それ俺も思った」
「めっちゃ余裕そうにしてるよな」
「気になります」
三銃士も集まってくる。それはそうだろう。もう少しで自分達も二年生。そして更にちょっとすると受験を考えなければいけないラインになる。余裕の表情で過ごしている正樹さんの様子は気になるのだ。
部活に参加している先輩たちは、どうも『在学中に稼いでCランクカード買って冒険者で食ってく』という感じだ。本人が決めたのなら否定はしないが、顧問の先生は微妙な顔をしている。
「あー……大学なぁ。実は決めてないんだよ」
「え?マジっすか」
佐藤が驚きの声を上げるが、自分はハッとしてしまった。
そう、正樹さんは人でありながら人ではない。明確な種族はホムンクルスだ。そして、人とは違う寿命が決定づけられている。
彼にとって、将来とは何なのだろうか。それを自分は考えていなかった。己とて、老いて死ぬことは出来ない癖に。
「いっそ、大陸にでも行くかなぁ」
「いやそれは不味いですよ」
思わず口に出す。
今の大陸はまさに魔境だ。いくら正樹さんとはいえ、生きていけるかわからない。というか、それはご家族が賛成すると思えない。
わりと本気で心配したのだが、彼は苦笑する。
「冗談だよ。流石に今海外に行くつもりはねえよ。何があるか分からないからな」
本当だろうか。この人は、突然ふらりと消えてしまいそうな危うさがたまにある。それが不老を告げられてから増えた気もするのだ。
「なら、いいですけど」
頭を掻きながら、ゲームの話題に移る正樹さんと三銃士を眺めた。
「という事を放課後に言っていたんですけど」
『よく教えてくださいました。ありがとうございます』
電話越しに百合さんがほほ笑んでいるのがわかる。ただし、声を少し冷たい。
『ええ、まったく。ひいお爺様は裏では色々兄様の為に動いている癖に、それを悟られないようにするから面倒になるのです。ここは一つ、こちらがどれだけ兄様を大事に思っているか教えてあげるべきですね』
「お、お手柔らかにお願いします」
『ふふふふふ……大丈夫です。ちょっとだけ話し合うだけですから』
電話越しに聞こえる笑い声に『あれ、ちょっと早まったかな?』と後悔する。ごめんなさい正樹さん。骨は拾います。
『ああ。兄様の進路で思い出しました』
「はあ」
『今度空いている時間を教えて下さい。父が話をしたいそうなので』
「えっ?」
待って、正樹さんと百合さんの父親で源一郎さんの孫って、それは東条グループの次期当主では……。
『祖父も同席するそうですが、いつも通りの恰好で構わないそうです』
現当主もいらっしゃるじゃないですかやだー。
「あの……それってやっぱりスーツで行った方がいいんでしょうか……?」
『……?うちに着て来れるほどの正装を、すぐに用意出来るのですか?』
「無理です」
即答で答える。あれだ、その辺の店ですぐ買えるやつだと逆に失礼になるパターンだ。ヤバい。そう思っていると、クスクスと笑い声が聞こえる。
『失礼しました。冗談です。本当に私服姿で構いません。あくまで父と祖父は私人として会うのであって、東条家の当主と次期当主として会うわけではありませんから。……たぶん』
「待って今不穏なこと言いませんでした?」
『では、今宵はこの辺りで。失礼します』
「ちょっとぉ!?」
切られてしまった。
「どうしよう……」
翌日、正樹さんにヘッドロックをされた。手加減されていたので痛くはなかったが、胸の感触に『この人は男この人は男この人は男』とひたすら自分に言い聞かせる必要があった。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




