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第六十七話 葛城始子捕縛作戦 1

第六十七話 葛城始子捕縛作戦 1


サイド 矢橋 孝太



「はあ……」


 家に帰ってベッドに寝転ぶと、自然とため息が漏れる。源一郎さんに言われた事が頭に残り続けている。


 老いて死ぬことは出来ない。それはつまり、まともに社会の中で生きていけないのと同じではないか。周りの人間が寿命で死んでいくのを、若い肉体のまま眺めている事しか出来ないのか……?


 源一郎さんは死ぬまで隠れろと勧めてきたけど、それって殺されるか自害するまでって事ではないのか?それはいくら何でも嫌すぎるし、自分が自害するところを想像できない。


 漫画やアニメで、よく不老不死とかのキャラクターを見た事がある。全員が全員ではないが、大半のキャラクターが『死に場所』を求めていた。


 だが、全て創作の話。作者が不老不死かそれに近いものでもない限り、参考にはあまりならない。まあ、不老不死になるとどういう事が起きる。というシミュレーションとしては参考になるかもしれないが……。


 よく言われるのが、権力者に『不老不死の秘密を教えろ』という感じで拷問されたり人体実験をされたりだ。自分の場合は……拷問からの軟禁か、親しい人を誘拐して脅迫か。そういうのが浮かぶ。どっちにしろ嫌だ。


 いっそ、権力者に自分を売り込んで守ってもらうか?……見返りに若返りの力を乱用しないといけないのか。自分にはデメリットはないが、色々な人に命を狙われそうな気がする。というか、権力者って誰だよ。


 自分が知っている権力に関わる人と言えば、金崎元大臣、源一郎さん、一応小沢さんの三人。まず金崎元大臣は論外。孫の件で喧嘩売っているのはバレているだろう。今更近づいても下手すれば殺されるかもしれない。


 次に源一郎さん。これもたぶんダメだ。自分が欲に飲まれたら殺せと発現する人だ、若返りの力を売り込んだら、どうなるか分からない。たぶん、いい事にはならないだろう。


 最後に小沢さんだが……別に小沢さん自身がそれほどの権力を持っているわけではなさそうだ。あくまで誰かの下で動いていて、その上の力で何かしている感じがする。つまり、彼に売り込むという事は、誰とも知らぬ相手に売り込むのと同じ。それはあまりにも不安だ。変なのだったら困る。


 結論、今のところ知っている権力者に売り込むというのは無理。どうしたものか……。


 このまま一人で悩んでいてもらちが明かない。紅蓮とレイナに相談してみよう。早速二人を召喚すると、今日あった事を話す。


「なるほど、不老ですか……」


「そうなんだよ。正直実感が全然ないんだけど」


「実感がわく頃には、周囲との差は顕著になっているでしょうね」


 レイナの言葉に頷く。それでは遅い気がする。源一郎さんも現実から目をそらすなみたいな事を言っていたし。


「まず、マスターが不老なのは公的な機関には勘付かれていると思っていいでしょう」


「やっぱり?」


「はい」


 自分のスキルは役所に全て申告済みだ。だって義務だし。そして、源一郎さんが知っていたという事は、それ以外の人もスキルの情報から察していると考えた方がいい。


「そして、若返りの力が露見するのも時間の問題でしょう。その源一郎殿は最初の段階で察しがついていたから、ご自身の体で試そうと考えたはずです。つまり」


「スキルについて知っている人なら勘づいてもおかしくない、と」


「はい」


 深いため息がでる。自分でもそうかもとは思っていたのだ。源一郎さんが早めに今後の身の振り方を考えておけ、みたいな事を言った理由もそれかもしれない。


「ぶっちゃけ、どうしたらいいと思う」


『最終的に決定をするのは主です。しかし、あえて提案をさせて頂くなら、東条家に庇護を頼むか、ご自身が誰にも害されないだけの力を持つかの二つが浮かびます』


「東条家に……?」


 先ほど源一郎さんの事は伝えたはずなのだが、そのうえで言っているのだろうか。


『はい。ただし、若返りの力以外を売り込むのが前提です。若返りの力を売り込んだ場合、源一郎殿は刺し違えてでも主を討ち取るかもしれません』


 源一郎さんならやる。若返りの力を売り込んだら文字通り死力を尽くして殺しに来る気がしてならない。


「若返りの力以外……」


『そもそも、今まで主が成して来た事は全て、若返りの力は関係のないものです。純粋にハンドラーとしての戦力、世界樹の加護による回復と強化、未来視による身近な人物の危機察知、これらです』


「確かに……」


 まあ、相変わらずスキルありき使い魔ありきだが、自分の人生が関わってくるのだ。贅沢は言っていられない。


『それに、源一郎殿を含め、今まであった東条家の方は義理堅い性格のようです。多少なりとも縁を結んだ主が、庇護を求めてくれば無下には出来ません』


「まあ、たぶんそうかな」


 正樹さんも源一郎さんも、それから百合さんも、助けを求めてきた相手、それも知り合いなら助けてくれるかもしれない。ただし、正樹さんの祖父母やご両親の性格までは知らないが。


「次に、マスター自身が力をつける、という案ですね」


 レイナが引き継いで口を開く。


「これは、かなり難しいでしょう」


『私もそう思います。不可能に近い』


「そんなはっきり……」


 レイナと紅蓮が『無理無理』と手を振る。


「純粋な戦力となると、高橋何某レベルの戦力が必要になります。いくら紅蓮殿でも、あの領域に踏み込むのはまだ遠いでしょう」


『無論、戦えと言われれば戦いますが、あの二体の使い魔を相手に勝利するのは不可能に近い。しかし、向こうからすれば主を連れ去る事も、若返りの力を知れば実行してくるかもしれません』


「うーん……」


 正直、高橋選手の性格がいまいちよくわからない。会って話したことがないのだから当然とも言える。というか、ただでさえ異常な戦力を抱えていて関わりたくないのに、今は良くない噂もネット上で聞こえるから余計に会いたくない。


「戦闘力でなく政治力ですが、マスターには才能も経験もありません。性格も向いていません。蟻が象に挑むに近いでしょう」


「そんなに?」


「逆に、今まで交渉事で上手く事を運べたことがありますか?」


「ぐぅ……」


 ぐぅの音はギリギリだせるぐらいだ。この前、小沢さん相手に脅迫めいて事を言って自分の意見を通したのはカウントされるだろうか。


「次に経済力ですが……これは持っている資金をうまく運用する力も含まれます。これは政治力と同じくマスターには無理です」


「そ、そんな無理無理言わなくても……」


『では逆に、資産運用についてご意見を伺っても?』


「ないです……」


 気づけば正座していた。いやだってなんの反論も出来ないし。


「戦闘力、政治力、経済力……それ以外にも力は多く存在しますが、どれもマスターには向いていません」


『提案した自分が言うのもなんですが、東条家の庇護下に入るのが一番手っ取り早いかと。主単体ではいつ上手く転がされるかわかりません』


「……いや、下につくのはダメだ」


 自分の発言に余程驚いたのかレイナは口をあんぐりと開け、紅蓮はボードを取り落としそうになった。


「あの長い物には巻かれろを実践し続けたマスターが……?」


「いや、言いたい事はわかるけど……今回は、例外だ」


 自分が頂点に立つとか、誰よりも偉くなるとかは、考えた事はない。自分はきっと、誰かの下についているのが性に合っている。


「正樹さんは友人だ。庇護下に入ったら、きっと今まで通りの関係ではいられない」


 あの人が『守ってやっているんだから言う事を聞け』みたいな事はしてこないだろう。冗談で言ってくるかもしれないが、それだけだ。


 だが、自分は違うだろう。絶対に負い目を感じてしまう。正樹さんの言葉を全肯定する取り巻の一人、みたいな感じになってしまうだろう。自分の事だ、これぐらいは予想がつく。


「だから、東条家の庇護下には入れない。あくまで対等にいたい」


『ではプランCですね』


「ぷ、ぷらんC?」


 え、何それ?


『これからも正樹殿と仲良く過ごしてください。世の中変わっていくものばかりですが、変わらないからこそいい物もあるでしょう』


「お、おう……あれ、それってなんら解決になってなくない?」


「いいえ。ただ、マスターは意識すると変な事をしそうなので、今ままで通りにしてください」


「レイナまで!?」


『今は葛城始子を捕まえる事に集中しましょう。戦略はいかがいたしましょうか』


 完全にこの話は終わりって空気になっている。え?なんで?二人とも自分達の意見が否定されたから怒っている……わけではなさそうだ。むしろ少しだけ嬉しそうでさえある。


「どうするもこうするも、そもそも戦う場所が決まってないし」


『それなら、おそらく隣町の採石場跡地になるでしょう。あそこなら短時間我らが暴れる程度なら問題ありません』


「ええ……」


 そんなとこあったのか……。というか、なんでそんな事わかるんだ。紅蓮の予想にレイナも頷いているから、二人には何か根拠があるのだろう。自分にはわからないが。


 すると、突然電話がかかってきた。小沢さんだ。


「はい、矢橋です。お世話になります」


『小沢です……矢橋君、いったいどんな手を使ったんですか?』


「え?」


『いえ、聞きたくありません。私はこれ以上考え事が増えたら……いえ、なんでもありません』


 何やら悲痛な声が聞こえる。何故だろう、小沢さんが電話越しに髪の毛を大事そうに撫でている気がするのは、流石に気のせいだろうか。


『警察との協力が決定しました。上の方がほとんど頷いたそうです。正式に協力要請がそちらにいくのは明日あたりでしょう』


「……早くないですか?」


『だからどんな手段使ったんですかって聞いたんですよ……』


 もしかしなくても源一郎さんか。え、何あの人怖い。まだ日付変わっていないんですけど。


『とにかく、私は色々やらねばならない事がありますので、失礼します』


「あ、はい。お疲れ様です」


 通話が切れた。ちょっと話の早さについていけてない。


「警察の協力が決定されたのですね」


『東条家が関わった以上、当然でしょう』


「三日ぐらいって聞いてたんだけど……」


『長くて、という意味では?』


 マジっすか。あのお爺さんどういう人脈もっているんだ。いや、よそう。考えたくない。こういう時は現実逃避だ。


「マスター、今晩はいかがいたしますか?」


「バニーさんでお願いします」


 遠い目をしながら紅蓮を戻し、フェリシアと稔を追加で召喚する。もうどうにでもな~れ~。




読んでいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  紅蓮達の主が少しづつ成長してるのを喜んでるの良い  結局は現状維持か…。まぁ、主人公が覚醒でもして才能に目覚めなきゃ無理といわれたらなぁ…  一応、世界樹の加護が(大)だったかな?それが…
[一言] Sランクの応用力も火力も幅凄いからなぁ 1撃で都市破壊したり無限にAランクの前衛召喚したりそれほどの奴等が不老不死(即死以外は即回復)を知ったときどうなるやら 正樹さんと一生の付き合いで旅…
[一言] 最終的には応龍やスルトみたいな髪クラスのハンドラーが襲ってくるだろうし結局戦闘力ないとどうにもならなそう 紅蓮が存在進化でもしないと勝てなそう
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