第五十七話 正月
第五十七話 正月
サイド 矢橋 孝太
ついに年を超え、新年となった。
今年の四月には二年生になる。そろそろ受験を考えなければならない時期になってしまうのだ。その前に遊んでおかなくては。
家族と初詣に行き、お参りなどを済ませて自室のベッドに寝転がってスマホを起動する。やっているゲームがお正月イベントで周回が忙しいのだ。
だが、その前に友人たちにSNSで『あけおめことよろ』と送っておく。
『いや雑ぅ!?明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』
『あけおめぇ!YOROSIKU!』
『どうしたんですか佐藤君。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』
『ガチャ単発で目当ての老女引き当てた。最高レアだ』
「いやお前がやってるゲームなんなんだよ……」
お正月のアプリゲーで老女が最高レアってそうそうねぇよ。いったいなんのゲームか逆に気になるわ。
『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』
『あ、東条先輩あけおめ』
『あけおめっす』
『おめ』
「あけましておめでとうございます」
『それはそうと初詣行って買い食いしまくろうぜぇ!』
挨拶して早々に正樹さんがはしゃぎだす。
「無理です」
『嫌です』
『いってらっしゃい』
『お元気で』
『なんで!?』
自分含め全員からの拒否に正樹さんが疑問符を上げるスタンプを押しまくってくる。
『いや、忙しいし』
『え、何かあんの?親戚に挨拶まわり?』
『いやソシャゲのイベント』
『お前ら俺とソシャゲでどっちが大事なんだよ!』
『『『ソシャゲ』』』
「同じく」
『ひでぇ』
滝沢がなんかクリーチャーの画像をアップする。
『今やっているゲームでこのキャラが限定配布されてるんですよ。今を逃すと手に入らないんです。周回しなきゃ』
『なにこのお化け』
『リリィナたんは夢がお嫁さんな乙女なんです。次にお化け呼ばわりしたら全力で殺しに行きます』
『ごめんなさい』
佐藤もガチャ画面をアップした。え、なんで排出キャラ全員が老婆なの?怖い。
『俺は目当てのキャラ引き当てたからその育成に忙しいです。イベント中ドロップ率上がるから周回しないと』
『なに……この……なに』
『紹介しましょうか?』
『あ、いえ、いいです』
下山がゲームのスクショを上げる。イベント絵だろうか?
『今やっているイベントの画像です。待望のショタ化が実装されたので全力を出さないといけません』
『お前頼むからリアルではやらかすなよ?』
『大丈夫です。問題ありません』
『フリじゃないからな?マジだからな?』
自分もアップする流れだろうか。まあいいや、自慢しよう。実は寝起きガチャで目当てのキャラを引き当てたのだ。
「自分もキャラの育成素材集めるために周回しないといけないので」
『なにこのおっぱい。絵師だれ?声は?』
「MATURAIさんで、声優は花沢ゆかりさんです」
『ゲーム名教えろ。今すぐダウンロードする』
「りょ」
ゲーム名を教えたら、すぐに正樹さんからの連絡が来た。
『なにこの神ゲー。おっぱい祭りじゃん』
「この世のおっぱい絵師。その上澄みが全て揃ったと言われるゲームです。もはや神話ですよ」
『うわぁ、またあいつらおっぱいの話してる』
『変態どもめ』
『正直ひきます』
「お前らがいうなや!」
その日の午後、正樹さんの家から電話がかかってきた。
『貴方を斬ります』
「なんで!?」
『失礼しました。正樹の妹の百合です』
「あ、はい」
何故電話越しにでもわかるぐらいの殺気をあびせられなければならないのか。ちょっとチビリそうになったじゃないか。
『貴方が教えたゲームのせいで兄が裸乳首教なる宗教に嵌っていました。斬ります』
「本当に申し訳ございません」
これは自分が悪い。電話越しに深々と頭を下げた。実はその宗教を教えたのも自分だったりする。いや、出ないってしつこく愚痴られたので、ふざけて教えたら真に受けるとは思わなくって……。
正月二日目。変なのが来た。
「明けましておめでとうございます、聖人様」
「人違いです」
震え声で玄関を閉めようとしたら、ドアに足を差し込まれた。怖い。
両親は親戚の家に行っている。家でゆっくりゲームしたいからと自分は行かなかった。今は後悔している。
「いや、本当に、あの、自分聖人になった覚えないんで……」
「おお!なんと謙虚な!やはり貴方様こそ我らが聖人様!」
どうしよう、このおばさん話が通じない。
「同志坂田、聖人様が困っています。やはりアポイントメントもなしに訪れたのはよくない」
井沢さん!?
謎のおばさん、坂田さんと同じく、白いローブ姿の井沢さんが立っていた。
「ですが同志井沢。聖女様にはそれをやって警察を呼ばれてしまいました。悲しいすれ違いをなくすため、直接赴くのが筋です」
おい待て。あの野郎自分の所にこいつらから電話かかってきたの教えなかったのか。警告ぐらいしろよ。
もしかして夜中に『俺が引けなかったキャラを持っているお前が悪い』ってメールがきたが、これが奴の報復か。めっちゃ逆恨みじゃねえか。
こっちはただ『単発一回でキャラが重なりました!』って言っただけじゃないか。
「とにかく、新年のご挨拶にやってまいりました。どうか中にいれて頂けないでしょうか?」
「いやです」
声が震える。ダンジョンのモンスターとは別種の怖さが坂田さんにはある。なんか、目がキマっているのだ。シャブやってます?
「ならせめて、こちらをお受け取り下さい。信徒達からの寄付と、祈りの言葉です」
「いやです」
ドアの隙間からねじ込もうとしてくる分厚い封筒を押し返す。
「もうやめましょ坂田さん。そういうの聖人様は嫌がりますから」
「同志井沢!貴方に聖人様の何がわかるというのです!これは我らをお試しになっているに違いありません!」
「違います」
「ほら井沢!貴方の言葉は間違っていると聖人様も仰っています!」
「そっちじゃないです」
お願いだから帰ってほしい。というか井沢さんも手伝って。なに『帰りたい』って顔してるんですか。帰るならこの人連れてってください。
「あのぉ、ちょっといいですか?」
またなんか来た。
「私、塩崎という警察の者なんですけど、ちょっとお話いいですかね?」
「ちぃ、政府の犬か!逃げますよ井沢!」
「はい……」
「あ、待て!追うぞ佐山ぁ!」
「はい……」
嵐の様に去っていった……。本当になんだったんだ一体……。
お正月三日目。自分は鼻息を荒くしながらパソコンの画面を見ていた。
別にエッチなサイトを見ているわけではない。政府の公式ホームページだ。
なんと、福袋キャンペーンと称して装備カードやダンジョン産アイテムが詰まった福袋が販売されているのだ。ふるさと納税扱いで。
これは、行くか?行っちゃうか?
値段は装備カードを買うには安く、かといってポーションを買うには高い。はずれを引く可能性はある。だが、チラッと見ただけでも入っているとされる装備カードのラインナップは凄かった。
これは、行くしかない。購入できるのは一人一回まで。実質ガチャだ。
「いっけぇぇぇぇえええ!」
祈りと共にクリックする。届くのは三日から四日後。市役所に受け取りに行く事になる。
友人たちにメールしたら彼らも購入したらしい。せっかくだから一緒に受け取りに行く事になった。
三日後、市役所の前には人だかりができていた。その外れで、五人固まって袋をあける。
「「「いっせーのせ!」」」
袋の中身を確認する。
……やはり、ポーションの詰め合わせだったか。持った時に重さや音からしてそうかなとは思っていたのだ。
「お前もポーション?」
「俺も……」
「ソシャゲで運を使い過ぎましたか……」
視線が無言でいる正樹さんに集まる。幽鬼みたいな目で睨まれた。
「うるせえよお前らはガチャで大当たりだったじゃねえか。俺はガチャでも福袋でも外れだよ畜生。俺の運すったんじゃねえんだろうなお前ら」
「「「ざまぁ」」」
「ぶっころ」
とりあえず正樹さんを煽っていると、向こうから悲鳴が聞こえる。
「ひったくりだ!」
マスクとサングラスで顔を隠した男が走ってくる。なんともまあコテコテな。まあ、すぐ捕まるだろう。正樹さんいるし。
「おらぁ!」
「ぐはぁ!?」
案の定、気づいた時には正樹さんがその男の腹を蹴り飛ばしていた。速い。
「人のガチャの上前跳ねる奴は許さねぇ……!」
男に追撃しようとする正樹さんを慌てて止める。
「どうどうどう」
「離せぇ……離せぇ……」
ギリギリ理性が残っているのか、力づくで振りほどこうとはされないのは幸いだ。だが周りからの視線が痛いから落ち着いてほしい。見た目美少女を羽交い絞めにしているように見えるから。実際は狂犬とかした悲しき爆死者なのに。
その後ひったくり犯は警察に連れていかれ、被害者の女性が正樹さんに頭を下げる。
「本当にありがとうございました!」
「いえいえ、当然の事をしたまでです」
まだ福袋の結果を引きずっているのか、疲れた顔で応える正樹さん。疲れたのはこっちなんですが?
「おかげで装備カードを失わずに済みました。本当にありがとうございます」
ビキリと、正樹さんが固まる。あちゃー、この人は当たりひいたのか。
「とう、ぜんの、事を、した、までです……!」
凄い、血の涙流しそうな顔して笑ってるよこの人。
流石に正樹さんを慰めてやろうと帰りにカラオケによったのだが、『今なら引ける気がする』と正樹さんが言い出してガチャを始めた。
爆死した。
読んでいただきありがとうございます。
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「異世界にチート転生して成り上がったら日本が来た件について」も小説家になろうで連載しておりますので、よろしくお願いいたします。




