第五十五話 報告
第五十五話 報告
サイド 矢橋 孝太
クリスマスも過ぎてもう年越しの準備に入っている今、小沢さんから会えないかと連絡があった。
場所は一番近くのダンジョンストア、そこの奥にある一室が待ち合わせ場所だ。
「よく来てくれたね、矢橋君」
出迎えてくれた小沢さんはだいぶ疲れた様子をしていた。スーツこそいつもの高そうなやつだが、目の下に薄っすらクマがある。
「お久しぶりです、小沢さん」
電話では天岩戸作戦参加を要請しに来た後も会話していたが、直接顔を合わせるのは久々だ。
「ああ、君は変わらないな」
どこか安心した様子で小沢さんが呟く。どういう意味だろうか。
疑問符を浮かべていると、苦笑された。
「いや、天岩戸作戦に参加してくれた一般の人は……まあ、その事を随分『誇り』に思っている様でね。私の立場では悪く言えないが、ね……」
ああ、なんとなく察した。
まあ、国の存亡を賭けた作戦だったのだ。それに一般人ながら参加したとなれば、『褒め称えられて当然』という人の方が多いだろう。たとえ、突入組に一般人はほとんどおらず、ほとんど突入組が失敗した時の予備だとしても。
自分とて、あの作戦に参加して活躍できた事を誇りに思っている。なんならもうちょっと周りから褒められてもいいのでは?とも思ったりしている。
というか、一部のテレビに出演している人達に世間からの関心は集まっているようだ。
「本題に入る前に、最初に、これを伝えなければな」
小沢さんが姿勢を正し、深々と頭を下げてくる。
「日本を、この国を救ってくれたこと。本当に感謝しています」
「……自衛隊の人達をはじめ、多くの人達と力を合わせる事で作戦は成功しました。貴方方のバックアップがあってこそです。こちらこそありがとうございました」
こちらからも頭を下げる。半分本心で、もう半分は空気を読んだ結果だ。今の流れで『そうだ俺様のおかげだ。ガッハッハ』とかは自分には無理。
「お気遣いいただきありがとうございます」
そう言って小沢さんが頭を上げたので、こちらも顔を上げる。
「では、本題に入らせてもらうね」
いつもの調子に戻った小沢さんが話し始める。
「まず、前に君たちを襲ったハンドラー達の行方がわかったよ」
「えっ」
正直ちょっと存在を忘れていた彼らの所在か。内心『いまさら?』とは思うが、気にはなるので黙って聞くことにする。
「結論から言うと、大陸に逃げた。だけど、未成年者襲撃事件の犯人が捕まっていないというのは外聞が悪いので、適当に別件で逮捕した犯罪者に罪を擦り付ける予定だよ」
「ぶっちゃけましたね!?」
それは自分が聞いていい事なのだろうか。
「国の英雄には出来る限り真実を話すべきと判断したまでだよ。政府の恥部を晒すようなものだが、前政権の議員に彼らとつながっていた者がいたらしくてね。まともに捜査も出来ず逃がしてしまった」
何でもない事みたいに言っているけど、それかなりやばい内容では?
「ただ国外に逃げた、というだけなら我々も地の果てまで追いかけるつもりだったが、流石に今の大陸はまずい」
「もしかして大陸って」
「お察しの通り、ユーラシア大陸、しかもロシアの方だよ」
犯人達も思い切った事をしたものだ。今あっちはモンスターが溢れかえっていて、まともに生きていける状況ではないだろうに。
それともそれだけ捕まるのが怖かったのだろうか?
「そして、その大陸だけど、近々自衛隊が向かう事が決定してね」
「えっと、何しに行くんですか?」
「名目上は邦人の救助」
「……遅すぎません?」
モンスターが溢れてもう何カ月も経っている。言っては悪いが、生存は絶望的ではないだろうか。
だが、名目上はというのが気になる。
「実際は、大陸の現状を知るためと、世論を落ち着かせるため。ただ、未確認だけど、気になる情報もあってね」
「気になる情報?」
「どうも、衛星で撮った写真から生存者が複数の街を作っている可能性があるんだ」
「えっ!?」
そんな事ありえるのか?下手したら金剛クラスがうじゃうじゃいる場所に、それだけの人間が生き延びる事が。
「どうにか彼らと接触する事が今回の主目的になるだろうね。あ、今の話はオフレコでね。世間に知られたらとんでもない混乱が起きるだろうし」
「は、はあ」
というか、衛星からわかるなら一般人でもネットを使えば知る事が出来るのでは……もしかして、その辺も対策済みって事か。ちょっと怖い。
「次に、君から依頼されたスキルの隠蔽についてだね」
「あ、はい」
「とりあえず、ただの強力な治癒魔法という事にしているよ。それぐらいなら遠くないうちに忘れられるだろう。ただ」
「ただ?」
「君と東条君を祀っている『救世主教』がね……」
「待ってください。なんですかその名前」
もしかしなくても、自分や正樹さんを救世主とか言って祭っているのか。勘弁してほしい。
「君達こそがこの混迷の時代に光をさし、正しき道へと導く存在としているらしい。彼らはどこからか君のスキルの全容を調べてきたらしくてね。ちょっと抑えきれるか不安になってきた。ごめんね」
「いやごめんじゃないですよ!?」
何さらっと個人情報漏洩してるんだ行政。いや、待て。よく考えたらモンスターが溢れた一件で市役所とか大変な事になってるわ。そりゃ情報もぶっこぬかれるか。
いやそれにしても笑い事ではない。
「ど、どうしましょう」
「とにかく今は井沢君が派閥を作って主導権を握ろうとしているよ」
「井沢さんが」
「うん。解体は無理そうだから、せめて舵取りだけでも握るとか」
それはありがたいが、出来ればその宗教自体どうにかしてほしい。いっそ正樹さんに全部ぶん投げる感じで。
彼には申し訳ないが、きっと大丈夫だろう。主人公メンタルだし。
「東条君にはこちらから連絡しておくよ。まあ、前に『いっそその宗教のトップに孝太を添えるのは?』と言われたがね」
「あの野郎いつか泣かす」
何考えてんだあの野郎。紅蓮にタイキックさせるぞ。
「とにかく、そういう事だから」
「どういう事ですか……!」
受け止めきれない……自分祀っている宗教が出来上がっているとか普通の高校生には受け止めきれない……。
「それで、金崎元大臣の孫の件なんだが」
「あ、はい」
まだツッコミたい事はあるが、この一件も気になる。
「なんでも、彼としては自分を追放した一族に対して復讐をしているつもりらしい」
「はぁ?」
なんだその発想。頭沸いてるのかあの馬鹿孫。
「金崎一族の面々が次々と変死体で見つかっていてね。プロファイラーの推察からして金崎信三が犯人だろうとなっているよ」
「じゃあ指名手配なりなんなり」
「それが、金崎元大臣が火消しに動いていてね。彼の影響力は未だ大きい。警察はまともに動けていないよ」
警察ぇ……襲撃犯の件といい、ちょっと自分の中で株が下がりまくっている。
「だが、警察も黙ってばかりではいないよ。金崎信三は殺人をするたびに、一族の暗い秘密を現場に書き残している。それを盾に元大臣に交渉を持ち掛けているそうだ」
「は、はあ……」
交渉材料それかよとか、そもそもなんで金崎元大臣の顔色をそんな窺ってんだよとか思わないでもないが、動いてくれているのならとりあえずいいだろう。というかそう思いたい。
「あと、もしかしたら彼の復讐対象に君も含まれているかもしれない」
「デスヨネー」
そんな気はしていた。こっちに飛び火して来るかもと。
「そのため、君の家周辺に警察官を巡回させたいんだけど、大丈夫かな?」
「……お願いします」
もしかしたら両親にまで危害が及ぶかもしれない。正直警察をどこまで信用していいのか分からないが、いないよりはましだろう。
「それと、この件は両親には」
「話さないでください……」
「はい。わかっています」
頭を下げる小沢さんにため息をつく。
父の新しい勤め先は織田総理、というか現政権と関りが深いと噂されているのだ。ここで父が暴走して変な事になったら困る。金崎元大臣の一件は政府の恥部だ。
あと、失礼だがあの二人に話して解決するかというと……いらんトラブル起こしそうだから、やめておきたい。
「ありがとう。こちらも全力で金崎信三の逮捕に動く。期待して待っていてくれ」
「はい。わかりました」
まあ、期待しないで待っていよう。
『矢橋君、金崎信三を逮捕したよ』
「マジですか!?」
次の日、そんな電話がかかってきた。え、どういう事?
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「異世界にチート転生して成り上がったら日本が来た件について」も小説家になろうで連載しているので、よろしければそちらも見て頂けたら幸いです。




