第五十四話 Bランクダンジョン
第五十四話 Bランクダンジョン
サイド 矢橋 孝太
電車に揺られ、自分は今自宅から駅三つ分離れたダンジョンに向かっている。
というのも、この前いつもの様にCランクダンジョンに潜っていたら、帰り道に小沢さんからの電話があったのだ。
内容は、井沢さんから連絡があった金崎大臣の孫が不穏な動きをしている情報の裏がとれたという事。
馬鹿孫は現在足取りが分からないらしい。なんでも、あのスキャンダルの件で一族から実質追放されたとかで、現在地すら分かっていないとか。
だが、馬鹿孫の兄が変死体で見つかったという事件も発生しているので、警察も調べているとか。
その調査も金崎大臣が『一族の問題』と言って協力してくれないとかで、進展は少ないらしい。
なんとも物騒な話だ。こちらまで飛び火しないといいのだが。
もう一つの内容は、Bランクダンジョンに潜らないのかという質問だった。
何でもBランクダンジョンはCランク以上に手に入るアイテムの質がいいらしい。また、魔石の購入価格も跳ね上がるとか。
ただ、未だBランクのカードは一般で取引できない。ドロップしても売れないので、あまり儲けにはならないと思うのだが。
そう質問すると、ここだけの話織田総理の発案で近々国が相手の場合のみ、カードのランクをBまで取引できるように引き上げるという話が出ているのだとか。
だから、今のうちBランクのカードを集めておけば引き上げられた時大儲けできるのではとの事だ。
それで心が動いたかというと、微妙である。
儲けの話はしたものの、よく考えたらもう一生遊んで暮らせそうな金額が溜まってきている。物価が上がっている今でもだ。
だからこの話、どうしたものかと迷ったものだ。
結局、とりあえずお試しで一回近くのBランクダンジョンに潜る事にした。
「うわぁ……」
凄まじい悪臭に顔をしかめる。
現在、目の前のモンスターと金剛が殴り合いをしているところだ。
対峙する相手は『マンティコア』。獅子の体、人に似た顔、そしてサソリの尻尾をもつモンスターだ。体高が二メートル半はある。
雄叫びを上げながらマンティコアが前足を振るうが、それを金剛は石突きではじく。続けて突き込まれた尻尾の針は、メイスを回転させるように殴りつけた。
尻尾の先端が欠ける。正面からの打ち合いは不利と悟ったのだろう、マンティコアが後ろに跳び退り、毒の息を吐き出す。これが悪臭の原因だ。ダンジョン全体が腐った卵みたいな臭いをしている。
ちなみに、毒は金剛に効かない。種族自体が毒と相性が良いのもあるし、そもそも世界樹の加護をかけている。
毒の息を無視して距離を詰めた金剛がメイスでマンティコアの頭を上から叩きつぶす。
砲弾でも着弾したような音が響き、地面にクレーターができる。今の、このダンジョンが頑丈だからこの程度で済んだが、アスファルトだったら大変な事になっていた気がする。
マンティコアが消滅し、魔石が落ちた。これで四つ目だ。
ちなみに召喚している使い魔は自分が騎乗しているバイコーンの『烈風』。一緒に乗って周囲を魔力感知で警戒してもらっているレイナ。戦闘要員の金剛。そして我らがエース紅蓮である。
紅蓮は紅蓮で金剛が戦闘中後ろから来ていたい二体をたった一人で切り伏せていた。だが、こちらからは魔石は落ちなかったようだ。
「うーん……」
探索自体は、特に問題ない。ただ、Cランク以下のダンジョンと比べて一時間で得られる魔石の数が少ないのだ。
というのも、単純にドロップ率が微妙というのもあるが、いくら紅蓮でもBランク相手に瞬殺とはいかない。そうなると戦闘時間が増えた分回転率は減る。それが魔石の数に出ているのだ。
というか、そもそもランクが上がるほどカードのドロップ率は渋くなる。これでは何時になったらカードが落ちるかわからない。
しかも魔眼で予知する罠がえぐいものばかりだ。状態異常をかけてくるのはまだいい。スキルの相性的にどうとでもなる。
だが、対物ライフルじみた速さで親指ほどの鉄塊が飛んでくるのはやめろ。本当に怖い。幻視するだけでお尻がひゅんとなる。
これは、もうCランクダンジョンに専念した方がいいかと考えていると、レイナが後ろから話しかけてきた。
「マスター、あそこのT字路を左に行った所から魔力を感じます。敵ではないようですが」
「え?」
とりあえず紅蓮に先行してもらいながら行ってみると、宝箱があった。
「おおっ!」
久々に見た。魔眼で見た感じ罠もなさそうだ。
金剛に開けてもらい、中のカードを受け取る。
「これは……なんのカードだ?」
装備カードなのは分かるのだが、詳しい事がわからない。赤い布らしき物が描かれている。何にせよ得難い収穫だ。これだけでこの探索はいいものだったと断言できる。
それからもう一時間ほど潜り、昼休憩のために一度ダンジョンの外に出て、午後にまた二時間ほど潜った。結果、魔石は合計で七つとなった。
その魔石を受付に持っていく。それにしても、ダンジョンストアの雰囲気が他の所と全然違う。時折見かける人も、自衛隊の服を着ている人ばかりだ。
受付を済ませる。魔石の金額はすぐには分からないが、同じ時間Cランクダンジョンに潜ったよりあるといいなぁ。
ついでに手に入れた装備カードも見てもらう。なんでもここのストアには『鑑定』もちの人が常駐しているので、こういうのはすぐわかるそうだ。
「『軍神の帯(レプリカ)』ねぇ……」
自室でベッドに寝転がりながらカードを眺める。
あの装備カードの名前だ。正直、今川総理の会見以来、神というものに不信感がある。実際、あっちこっちの国で教会や神社が大変な事になっているらしい。
それはともかく、軍神と帯という組み合わせだと、浮かんでくるのはギリシャ神話のヒッポリュテが浮かぶ。まあ、ゲームや漫画での知識しかないのだが。
鑑定してくれた人に聞いたところ、効果は一定時間の間、筋力、耐久、敏捷に+補正がつくとか。レプリカとか言っているくせにかなりの性能をしている。
売れば数千万にもなるとか言われたが、自分で使う事にした。
契約している使い魔に装備させて強化しようと思ったのだが、今度は誰に着けるかで迷っている。
ギリシャ神話由来の名前だし、ここはアマゾネスの稔に着けるべきか。それとも紅蓮に装備させてパーフェクト紅蓮を目指すか。いっそ金剛に着けて単純な戦力強化を狙うのもありか。
考えた結果、稔に装備させるのはやめておく事にした。言ってはなんだが、ここで稔に装備させても総合力はCランク程度。バフを盛ってギリギリBに届くかどうか。だったら、今はまだメリットが少ない。もうしばらくたって、毎晩のバフが効果を出してから強化案をまとめた方がいい気がする。
前に紅蓮が稔の強化を、と言っていたが、あの時と違って今は金剛がいる。そうなると、申し訳ないが候補からは外れる。
次に金剛と紅蓮、どちらにするか。ここはやはり紅蓮だろう。
というのも、なんとなく先に金剛へ装備カードを上げると紅蓮が拗ねる気がしたのだ。
いや、別に本当に拗ねるとは限らない。自分の勝手な妄想だ。
だが、紅蓮は金剛を弟の様に思っているのに、金剛が装備カードを貰って紅蓮にはないというのは、流石に……。
というわけで、このカードは紅蓮にわたすことにした。
「紅蓮」
早速召喚して、カードを差し出す。
「紅蓮、このカードは君が装備してくれ」
紅蓮が首を捻った後、ボードに書き始める。
『私より、稔や金剛に装備させた方がいいのでは?』
「いや、それも考えたんだけど、これは紅蓮に受け取ってほしい」
そう言うと、紅蓮はちょっと感動したように肩を震わせた。喜んでくれたようだ。
ボードを置いて、恭しくカードを受け取る紅蓮。あれ、そう言えば紅蓮や金剛って、どうやって装備カードと契約するんだ?
稔やフェリシアが装備カードやスキルカードを使った時は、人間が使い魔のカードと契約する様に血をつけていた。
だが、エレメントナイトに血は流れていない。いったいどうやって――。
突然、紅蓮がマシュマロを食べる時みたいに口の部分を開いてカードを放り込んだ。
「えっ」
口を閉じて数秒すると、紅蓮の腰に赤い布が巻かれた。
「えっ」
ドヤァと胸を張っている紅蓮。
え、そうやって装備すんの?
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「異世界にチート転生して成り上がったら日本が来た件について」も小説家になろうで連載していますので、よろしければ見て頂けると嬉しいです。




