第五十一話 会社
第五十一話 会社
サイド 矢橋 孝太
「……どういう内容か伺っても?」
『内容としましては、再契約させていただけないかという事なのですが……』
とりあえず質問すると、金山さんが気まずそうに答える。
再契約?またKとして活動しろという事だろうか。というか、そもそも前回の自体、正式な契約ではないので再契約というのは語弊がある気がする。
『前回、こちらの一方的な都合で契約を切ってしまった事を渡辺の方から深くお詫びしたく、また、改めて手を取り合っていけるようにですね』
金山さんが滅茶苦茶早口に喋りだす。
どうしたものか。個人的な感想としては、断りたい。今は部活関係で忙しいのだ。Kとして活動している暇はない。というか、下手にKとして目立つといらない敵を増やす気がする。
だが、父が働いている会社というのがネックだ。自分の行動で父に迷惑がかかるのは避けたい。
「……お話はわかりました。とりあえず予定の確認と、父と相談してみます」
『っ!?はい!勿論です。こちらとしてはいつでも予定を開けておきますので、そちらの都合のいい日時を教えて頂ければ!』
それから二、三別れの挨拶を話した後、通話を切った。なんというか、電話越しにも必死さが伝わってくる。金山さん、上の方から無茶な事でも言われたのだろうか。
「行かなくていい」
父に相談してみたところ、真顔でこう返された。
「え、いいの?」
「ああ。この件はこっちで話をつけておこう。孝太は契約したくないんだろう?」
「そりゃあ、まあ」
ぶっちゃけ、父の昇進とか以外だと話を受けるメリットはない。だが、話を受けないデメリットは存在する。
「だけど、大丈夫?その、会社での立場とか……」
正直そこが心配だ。父が会社で不当な扱いをうけないか。実質こちらは父を人質に取られているのと変わらないのだ。
だが、父は胸をはって答える。
「大丈夫だ。問題ない」
ちょっと不安になってきた。
それから一週間ほど過ぎ、夕食を食べ終わったあたりで父が少し緊張した様子で口を開いた。
「違う会社で働く事になった」
「えっ!?」
母と二人驚きの声を上げる。
「や、やっぱり僕が契約しなかったのがまずかったんじゃ」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
慌てて問いかけると、父が首を横に振る。
「その、渡辺さんや金山と一緒にファンタジーファクトリーという会社に転職する」
「どういうこと?」
本気でわからない。一体何が起きたらそうなるのだ。
「なんというか、実はうちの会社、株価が大変な事になっていて……私としてはそれでも潰れはしないだろうと思っているんだが」
あのモンスターが現れた一件で、この辺一帯の会社は大打撃を受けている。それは父の会社も同じだったのだろう。
「ただ、Kの正体が未成年というのと、一方的に契約をきった事がネット上で噂されていてな」
「あー……」
僕としては契約を切られた事はどうとも思っていないのだが、避難所の人とか、信者の人達が……あとそういうの関係ない騒ぎたい人たちの標的にされていると。
「渡辺さんは元々孝太と契約するために話を持ち掛けたんじゃなくて、逆に会社と契約させないために話をしようとしたらしい。会社には再契約させると嘘をついて」
「えー……」
なんというか、ついていけない。とりあえず渡辺さんそれはセーフなの?
「あ、勿論、会社が変わったからと言って孝太をファンタジーファクトリーに契約させようとかはない!そこはきっちり断っておいた。相手方もそこは大丈夫と言っていたよ」
本当に大丈夫だろうか。こう言ってはなんだが、ファンタジーファクトリーは今を時めく大企業。テレビでも宣伝をバンバン出している。
そんな会社に父が転職できるというのが、ちょっと裏を感じてしまう。
「どうにもあの会社も人手が足りないらしくてな。冒険者ライセンスを持っている従業員がほしいそうだ」
まあ、あれだけ魔石を消費している会社だ。自社でもダンジョンから確保する手段は用意しているだろう。
「孝太に借りている使い魔を使う事はない。会社から支給されるから安心してくれ」
「う、うん」
「そうなの……」
母も自分もまだちょっと話についていけてない。
「突然転職とか、相談もなしに申し訳ないと思う。だけど、生活は今までと変わらない。引っ越しもしなくていいし、出張もしなくていいって話だ。特に海外には絶対に出張させないと、あちらの社長が直々に契約してくれたんだ」
「しゃ、社長さんが?」
母が驚きの声をあげる。
ファンタジーファクトリーの社長は、テレビで見たことがある。そのファンシーな会社名とは対照的なすごい強面なおじいさんだった。
というか、社長自ら?おかしくないか?酷い事を言うと父はただの会社員で特に秀でたところはないのが特徴だぞ?
あと海外出張はしなくていいじゃなくて、『させない』?ちょっと気になる。
「ああ。私も驚いた。だが本当なんだよ。名刺も貰えたしね。あ、私を餌に孝太と契約する事もしないと、契約書に書いてくれたよ。安心してくれ」
「そ、そうなんだ」
ますます怪しい。母も疑念をもっているようだが、言語化できるほどなさそうだ。自分もだが。
父もちょっと不安そうだ。
「何か裏があるんじゃないかと思うぐらいいい話だが。安心してくれ。家族は絶対に守ってみせる」
「あなた……!」
あー、また二人のラブラブ空間が始まったよ。
「ご馳走様ぁー」
「お粗末様ぁ」
自分の食器を片付けて、とっとと部屋に逃げ込むことにした。
「と、いう感じで父さんが転職する事になったんだけど、大丈夫かな」
部屋に戻って紅蓮に問いかける。紅蓮は少し考えた後、ボードに書き始める。
『おそらく、害はありません』
「え、なんかその言い方だと裏がありそうなんだけど……」
ちょっと不穏だ。というか『害は』ってなんだ。
『結論から言うと、その転職の意図は主を万に一つも国外の勢力にもっていかれない為です』
「国外の勢力?」
前にもそんな話を聞いた気がする。
『はい。今世界は強いハンドラーを求めています。ダンジョンからより多くの物を持ち帰るためもありますが、敵の手に渡ってしまうのを恐れているのです』
「敵って」
『星の数ほどいます。今後も駆け引きをしなければいけない諸外国。国家に敵対的な組織。例の革命軍なる存在ですね』
「え、革命軍に入りたがる人っているの……?」
あの中国、ロシアの一件から、あそこの求心力は低下する一方だとテレビで言っていたが。しかも応龍のハンドラーとスルトのハンドラーで対立が激しくなって、実質二分されているとか。
『万に一つでもその可能性は潰しておきたいのです。おそらく、各国で自国のハンドラーの囲い込み。それと並行して他国の強力なハンドラーの引き抜きが前以上に加熱している事でしょう』
「な、なるほど」
どこの国もこれからはダンジョンから得られる魔石などを中心として活動していかないとやっていけない可能性もあるのだ。
まだ不確定な噂だが、大陸からあふれ出したモンスターが海にもいると目撃情報がネットに上がっていた。もしそれが本当なら、貿易も大変かもしれない。
『御父上の囲い込みはそういった目的でしょう。間接的に主を国に縛り付けることができる』
「な、なるほど……ちなみに、渡辺さんが動いたわけっていったい」
ここまで聞いていると渡辺さんと金山さんが本当に関係ない。どう絡んでくるんだ。
『その渡辺と金山という人物は、ただその考えに乗ったのでしょう。おそらく、主犯は渡辺という男です』
主犯って……まあ、どうやら人の父親を勝手に巻き込んでくれやがったようなので、そう呼んでも差し支えないか。
『渡辺がファンタジーファクトリーに自身を売り込み、手土産として御父上を提示した。元の会社と主が契約しない事で、ファンタジーファクトリー、ひいては社長と関係の深い織田総理の手の届く位置に置くことを考えたのでしょう』
「あ、そういえば父さんの会社って……」
『はい。アメリカと深い関りがあります』
なるほど、もしあの会社と契約していたら、アメリカに自分が行くかもと危惧したと。
……考えすぎじゃね?
「まあ、とにかく渡辺さんの行動理由はわかった。会社が傾く前に安定した所に行きたかったから、僕と父さんを手土産にしたと」
『そうなります。ただ、主にこれといった害はないでしょう。これまで通り国内で活動していれば、彼らも文句は言わないはずです』
そんな事を話していると、気づけばもう結構時間がたっていた。
そろそろ風呂の時間だが、あの二人、いい加減素面に戻っているだろうか。
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