第五十話 需要と供給
第五十話 需要と供給
サイド 矢橋 孝太
『現在日本に来ていた中国人、ロシア人への支援をどうするか未だ決まっていません。政府に明確な姿勢をとってもらいたいとデモが』
『ロシアの駐日大使と木下外務大臣が現在話し合いを進めており、今後の動きがどうなるかは』
『明智防衛大臣の会見が今日の十八時からとの発表がありました。現在モンスターに襲われている地域にいる邦人の救助について』
『自衛隊は派遣できないでしょう。憲法で定められています。ここで動かすようなら、火事場泥棒同然の侵略行為ですよ』
『今すぐ自衛隊を送るべきです。今まさに化け物に襲われている日本人がいるかもしれないのですよ!一刻も早く救助に向かわなければ』
テレビでは連日国内のモンスターに襲われている国の人をどうするか。自衛隊を派遣するのか。邦人の避難状況はどうなっているかばかりだった。
食料や燃料については柴田官房長官が問題ないと発表しているが、値上げは続いている。特にガソリンが凄い事になっている。
それでもどうにか日本国内はいつも通りの日々を過ごせていた。そんな中自分がしていたことは。
「『ブーステッドツリー』!」
バイコーンの上から稔にバフをかけなおす。
「どらっしゃぁぁああああ!」
突っ込んできたオークと稔が正面からぶつかり合う。メイスと牙が衝突し、一瞬の拮抗の後牙ごとオークの頭を潰した。
だがそれで息つく暇もなく別のオークが稔に襲い掛かる。それに自分と共にバイコーンにのっていたフェリシアとレイナが魔法で足止めを行う。
背後では金剛が時折地面を操作して壁をつくりナーガからの魔法攻撃を防ぎながら、突撃して立ちはだかるオーク共々薙ぎ払っている。
そして稔やこちらにナーガの攻撃が来るのを阻止しながら、オークの援軍を蹴散らしている。
そう、今自分達はオークとナーガのダンジョンへ来ていた。
というのも、予想以上に入部を希望する人が多かったのだ。
現在紅蓮達の予想通り政府が魔石を使った電力の確保を宣言しており、魔石の買取価格が跳ね上がっている。
対して、食料品や日用品は値上がりしている。こういった状況で冒険者業が元々儲かる職業扱いだったのが前以上に注目されるようになった。
冒険者部の方にも人は流れているようだが、向こうは新入部員へのカードのレンタルはほとんど出来ておらず、入部してもすぐに抜けるという人が出ているとか。
なんにせよ、入部希望者が後を絶たないのが問題だ。正直増やし過ぎるのも良くないと分かっている。
だがあまり断り過ぎると反感をかってしまう。それでは部を作った意味がない。
そんなわけで急遽定員を増やすことになった。だが、それは今回までだ。以降はこちらのタイミングで増やさせてもらう。
部員の枠を用意するのは、『自分も入れるかも』と思わせれば、こちらへの攻撃が減るからだ。
クラスでの空気も変わり始めている。今までは伊藤のグループが中心となっていたのに、最近はグループの力関係が乱れている。
どうやらクラスメート達もうちの部に入りたい者はいるらしい。だが、伊藤の存在が邪魔をする。下手に入部すれば目を付けられかねない。
だが定員を増やすことでその不満はこちらに向きづらくなる。いつか自分も入れるかもしれないからだ。
ならその不満はどこに行くか。十中八九伊藤に向く。彼に対するいじめまでには発展しないだろうが、それでも求心力は衰える。
後はこの空気を維持すればいい。三年間同じクラスとならないはず。ならとりあえずKと発覚したこの時期に『虐めてもいい奴』というレッテルを張られなければいいのだ。
まあ、その後も様々な攻撃を回避するために部は必要なので維持のために動かないといけないから、正直面倒くさいが。
卒業後の部の存続?ちょっと考えてないです。
いいニュースもあった。
『あるじ これ あってる ?』
「おお!合ってるよ金剛!」
金剛が字を覚えたのだ。テンション上がってマシュマロを買占めに行ってしまった。かなり値上がりしていいたが、冒険者活動で儲けている。これぐらいの出費どうという事はない。
「よく頑張ったな、金剛。紅蓮も教えるのを手伝ってありがとう」
紅蓮がむんっと胸をはる。金剛に読み聞かせをする時や、字の書き取りを教える時紅蓮も手伝ってくれたのだ。
ネットから色々な教え方を集めて、それを金剛に合わせて実践していった。そのかいもあって、遂に金剛も字を書けるようになったのだ。
まだかなり覚束ないが、紅蓮の感じからしてここまでくれば後は一気に覚えるのが早くなるだろう。
というか、字を書けるようになった翌日には紅蓮と一緒に新聞を読むようになっていたので、スラスラと書けるようになるのも時間の問題だろう。
食料問題も少しだけ光明が見えた。まあ、世間でいいニュースと言えばこちらだろう。
紅蓮達の予想通り、ロシアや中国に輸出されていた分をその国から買い取る事が決定したのだ。これにより、値上げがこの辺りで落ち着いてくるだろうと、テレビの専門家達が言っていた。
また、北海道をはじめとした日本各地で余っている土地、生産者がいなくなってしまった元畑等を政府が買い取る事が決定し、かなりの額が動いたとか。どこに予算がとも思っていたが、どうにも使い魔の導入で別の部門の人件費を削減するとか言っていた。それはそれで大丈夫か不安になる。
なんにせよ、織田総理は三年以内に自給率の上昇と貿易の安定化によって食料品の値段をモンスターが溢れる前に戻して見せると宣言した。
電力も魔石を使った物が全国に建設が決定しており、現在建設中とのこと。工事風景がテレビで映っていたが、早送りかと思う程のスピードだった。これは他の建設関係への使い魔導入を勧めるアピールもあるのかもしれない。
こういった事から、ちょっとだけ国民は安堵した。どうにかなると織田総理が言っているなら、きっとどうにかなるのだろうと。今の内閣に対する支持率は高い。
テレビに出る専門家達は織田総理を称賛している。たまに批判的な人もいたのだが、その人はそれ以降テレビに呼ばれなくなっていった。
正直、彼を独裁者と呼ぶ国民もいる。自分も、ちょっとそう思う。だけど、同時に今は必要な人だとも。
昔王様がいて、その人が絶対の権力を持っていたのはそれが必要だったからだ。すぐに動かなければ国が滅んでしまうから。それと同じ状態になっているのだ、世界は。
だが、この動乱の時代が終わったらまた民主制に戻ってほしい。ずっと独裁国家はごめんこうむる。息苦しいのもあるが、織田総理の後継が優秀とは限らないのだ。
ある日の夜、スマホに珍しい人物から電話がかかってきた。
「もしもし、矢橋です」
『井沢です。このような時間に申し訳ございません』
電話の相手は井沢さんだった。あの金崎大臣の要請からずっと彼とは連絡をとっていなかったが、いったい何の用だろう。
『まず、あの時の謝罪をさせてください。誠に申し訳ございませんでした。本来なら直接お会いして頭を下げるべきだと思いますが、諸事情により動けない状況にあります』
電話越しに、井沢さんが頭を下げているのが伝わってくる。
数秒考えた後、つきそうになるため息を堪える。
「わかりました。元々あの件で悪いのは金崎大臣とその孫です。井沢さんに責任はありません。断れる立場でもなかったでしょうし」
『いいえ、あの時、私は断るべきだったのです。しかし、私は保身を優先しました。それは、一生忘れません』
「……あまり思いつめないでくださいよ?それで、謝罪のために電話してきたんですか?」
井沢さんの口調や性格からして、それだけで電話してきたとは考えづらい。
『いえ、本題に入らせていただきます』
一呼吸置いた後、井沢さんが続ける。
『金崎大臣の孫、金崎信三が最近不穏な動きをしています』
「不穏な動き?」
『はい。反社会的な組織との接触を増やしているらしく、詳しい動きはわかりませんが使い魔のカードを集めているという情報が入ってきました』
「ちなみに、情報源を聞いても?」
『私個人で契約している情報屋ですので、お話はできません。この話は小沢さんにも話しているので、そちらで裏をとってくれると思います』
「……わかりました。ありがとうございます」
『最後に、避難所を救ってくれたこと、本当にありがとうございました』
そう言って井沢さんが電話を切る。
ベッドに座り込みながら、ため息をつく。
井沢さんに複雑な感情がないわけではない。だが、自分で言った通りあれは金崎大臣とその馬鹿孫が悪い。水に流すべきだろう。
それより、あの馬鹿孫が何か動こうとしている可能性がある。近いうち小沢さんから連絡があるだろうが、いったい何があるというのか。
そう考えていると、またスマホが鳴った。
「え……金山さん?」
父の会社の金山さんだ。随分久しぶりに電話がかかってきた。
いったいなんだと電話に出る。
「もしもし、矢橋です」
『あ、金山です。このような時間に申し訳ありません』
電話越しに焦ったような、無駄に明るくした声が聞こえる。なんか嫌な予感がする。
『実はですね、うちの渡辺が矢橋さんにお会いしたいと言っておりまして』
本当になんなんだ、いったい。
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