第四十八話 実力
第四十八話 実力
サイド 矢橋 孝太
色々あったけど時間は流れ土曜日になった。
予定より少し早く――駅につき、全員到着するのを待って移動する。
これから向かう『使い魔フリー』とは、ようは政府公認で作られた私有地、ダンジョン以外で使い魔を召喚できる施設だ。完成したのはつい先月だが。
使い魔フリーでは使い魔と遊んだり、申請すれば模擬戦もできる。今回の目的はそれぞれ使い魔を召喚して戦う感覚に慣れてもらうのと、紅蓮を見てもらうためだ。
バスに揺られて施設に到着し、一緒に来てくれた加藤先生と受付を済ませた。その際、前日に電話で申請していた模擬戦許可証も受け取る。
模擬戦ようのスペースに向かい、部員達に使い魔を召喚してもらう。
「おお……!」
「でけぇ……」
「こわっ」
それぞれオークとラミアを召喚する。ちなみに、オークと契約したのは五人、ラミアと契約したのは四人だ。残りのカードはロストした時用で、最初はどちらも五人ずつの前衛・後衛のペアになってダンジョンに挑んでもらうつもりだったのだが、正樹さんの加入によりラミアがあぶれた。
「…………」
滝沢がものすごい目でラミア達を見ている。ラミアの外見は人間の胴体から下半身と頭が蛇となっている。予想通り、こいつの性癖にあっていたらしい。
この前、あぶれた分のラミアと契約するか尋ねたのだが、血の涙を流しそうな顔で断っていた。『友達に借りたのに、手を出すわけにはいかん』とのこと。
「はい、それでは軽く使い魔とコミュニュケーションを取ってください。十分後に模擬戦を始めます」
それから十分間、使い魔とコミュニケーションをとってもらったのだが、なまじ人語を介さない上に異形の姿をしているため全員上手くいっていない。これはこちらのミスだ。いや、だが下手に人型の使い魔だと面倒な事に……。
「そこぉ!ラミアの撫で方はそうじゃない!もっとこう」
「お前はだぁとれ」
騒ぎだした滝沢を佐藤が鎮圧する。人型じゃないほうが反応する奴もいたんだったわ……。
そうして、十分が過ぎ、模擬戦に。
「あくまで模擬戦なので、ハンドラーへの直接攻撃や過剰な攻撃は禁止とさせていただきます」
「あの、やり過ぎちゃった場合どうすんの?」
部員からの質問に、頷いて返す。
「はい。やり過ぎると判断した段階で僕の使い魔に割って入らせてもらいます。『紅蓮』『金剛』」
二体を召喚すると、部員や加藤先生、遠巻きにこちらを見ていた別の利用者が声をあげる。
「す、すげえ」
「生で見ると違うな……」
「とんでもねえ威圧感……」
「おお、あれぞ聖人様の守護騎士。後光が見える……」
最後の人は眼科に行ってほしい。
「ええっと、この二体は紅蓮、炎の方がAランク、もう一体の金剛がB+です。安心して模擬戦をしてください」
「「「は、はい」」」
こちらの意図を理解してくれているからか、二人とも武器を持って威圧感を放ってくれている。家にいる時の大型犬みたいな空気はない。
それからオークとラミアでペアになってもらい、二対二で模擬戦をしてもらう。ラミア一体分の穴は、正樹さんの雪女が埋めてくれた。
皆ぎこちない様子で指示を出している。正樹さんは自重してくれている様で周りに合わせている。
やがて、下手に指示を出すより使い魔の自己判断に任せた方がいいと理解したのか、部員たちの指示が簡素になっていく。
まあ、戦闘中常に指揮をとるなんて無理だ。あの西園寺でも大まかな指示しか出していない。それでも彼の場合適格だと自分から見てもわかるのだが。
そもそも、使い魔の戦闘速度に人間はついていけない。ゴブリンでもギリギリだ。Cランクともなると、使い魔が何をしているのか大まかにしかわからないだろう。
そうして三十分ほど模擬戦を行ったところで、終わりとする。
「はい、それではこの辺で終わりにしましょう。お疲れ様でした」
そう伝えると、皆ホッとした顔で模擬戦を終える。ちなみに滝沢と佐藤、下山はせっかくなので三つ巴で戦っていたのだが、ひたすら滝沢のリザから他二人の使い魔が逃げ回るという状況になったので割愛させてもらう。あいつ、『鑑定』で儲けた金をリザの強化にいくら使ったんだ。
さて、最後なので、もう一つの目的を果たさせてもらおう。
「では、最後にデモンストレーションとしてここにいる紅蓮と金剛による模擬戦見てもらいます」
本当はこんな見世物みたいな事をさせたくない。だが、これは必要な事だ。
一つは、部員たちが使い魔を得たことで増長しないようにするため。調子にのった状態でダンジョンに挑むのは危険だ。ここで天狗になる前に鼻を折っておく。
もう一つは、僕の立場の為だ。Kとしての実績や、モンスター襲撃の際の活躍はある。だが、直接目にした部員は少ない。
上級生もいる以上、ここで上下関係をはっきりさせないといけない。この部活はあくまで僕の派閥だ。そうでないと伊藤や冒険者部からの攻撃を凌げるかわからない。
「じゃあ、紅蓮、金剛、頼む。スキルは使用禁止。武器はありだけど出来るだけ寸止めで。ハンデとして金剛にはバフをかける」
そう言って『ブーステッドツリー』を金剛にかける。これで二人のステータス差は縮まったはずだ。
「では、はじめ!」
二人の周囲から全員離れたところで、模擬戦を開始する。
瞬間、轟音が響いた。メイスとハルバートがぶつかり合ったのだ。瞬きする間もなく二人が高速で武器を振るい合う。
一合ぶつかるごとに、少し遅れて轟音が響き続ける。まるで二両の戦車が至近距離で撃ち合っているみたいだ。
なにこれ超怖い。え、二人仲悪いっけ?むしろ普段仲良さそうだよね?兄弟みたいな感じで過ごしてるよね?なにこのちょっとした戦争みたいな音。
数十合のすえ、紅蓮が押し勝つ。わずかにバランスを崩しながら後退した金剛に、紅蓮が迫る。
だがそれは金剛の罠だった。彼はわざとバランスを崩したのだ。接近する紅蓮に、崩した重心を利用して強烈な一撃を放つ。
迫りくるメイスを、なんと紅蓮は石突きで下からかちあげた。僅かにずれるメイス。そのギリギリを潜り抜けた紅蓮が、金剛の首筋にハルバートを突き付ける。
「しょ、勝負あり!」
そこで慌てて試合を止める。
二人は試合が終わると先ほどまでの殺意すら見える雰囲気が嘘のように、家にいる時の様ななんの圧力も感じない状態になる。
だが、今更大型犬みたいな雰囲気を出しても自分以外もう遅い。ドン引きである。自分以外この場にいる全員が引きつった顔をしているか冷や汗を流している。
「えっと、これがAランクやそれに匹敵する使い魔の戦いです。今回は安全のためスキルは使いませんでしたが、慢心して身の丈以上の危険に飛び込もうとすると、こういうのに遭遇する可能性があります。注意して下さい」
部員たちは声には出さなかったが、何度も首を縦に振ってくれた。
これは……やり過ぎたかな?
紅蓮と金剛に目を向けると、二人とも頭を小突いて「てへ♪」みたいなことをした。うーん、許す。
あの後解散となり、各自家に帰った。
「ただいまー」
家に帰って手洗いうがいを済ませ、服を部屋着に着替える。
何か飲もうと思ってリビングへと向かう。そういえば両親は今買い物だったか。最近二人一緒に出掛けることが多い。一緒にと誘われることも多いのだが、年甲斐もなくイチャイチャしているので同行は拒否している。
仲がいいことはいい事だ。本当に素晴らしいと思う。だが、高校生の息子の前で新婚みたいな空気はやめてくれ。
あーんをし合う二人を思い出し、苦い顔でテレビをつける。こういう時はアニメでも見て気分を変えよう。撮り溜めしていたのがあるのだ。
テレビをつけると、ちょうどニュースをやっていた。
『皆さん、どうか落ち着いてください』
なにやらキャスターが神妙な面持ちで喋っている。何かあったのだろうか。
『中国、ロシア、その他確認できているだけでも五十以上の国々でモンスターがダンジョンからあふれて来ました。現在各国の詳しい状況はわかっていません』
「はっ?」
思わず変な声が出た。
今日はエイプリルフールではない。冗談を言っているふうにも見えない。なら、事実なのか?
いつかはダンジョンからモンスターが溢れるとは聞いていた。七つの最難関ダンジョンを攻略しない限りそうなると。
だが、今なのか?今日が、その時なのか?
『現在中国、ロシアの駐日大使は臨時政府との連絡を試みており、状況の把握に努めて―――』
そこで画面が切り替わる。
『こちらロシア、シベリアの映像です!現在街に現れたモンスターと軍が戦闘を行っており、ハンドラーたちが使い魔を出して防衛線を築こうとしています!』
どうやらシベリアにいる局員からの映像らしい。街は火の海となり、人々が逃げ惑っている。軍は戦車まで持ち出しているが、ガルムが相手だ。勝負になっていない。ハンドラー達の使い魔も応戦しているが、モンスターはダンジョンの外に出るとワンランク分強くなる。それはこの状況でも同じらしい。
なら、今のガルムはB+となる。つまり、金剛と同じだ。それが群れを成して街に押し寄せてきている。
『ああ、もうダメだ……こんなの』
カメラマンの声も入っているが、誰も気にしない。気にしていられない。
報道スタッフの前にガルムが降り立った。そこで、映像は途切れた。
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